今年のエリザベス女王杯・G1(11月16日、京都競馬場・芝2200メートル)は、どんなドラマが生まれるのか。過去の名勝負・08年のリトルアマポーラ(父アグネスタキオン)勝利を振り返る。

 信じられないアクシデントが起こった。3番人気のポルトフィーノ(父クロフネ)がスタートでつまずき、武豊が落馬。競走を中止したのだ。ゲートが開いた直後、京都競馬場は異様などよめきに包まれた。大きくつまずき、前のめりの格好になったポルトフィーノの武豊が落馬。姉アドマイヤグルーヴに続く、史上初の姉妹同一G1制覇の夢が消えた。「残念だった。一歩目で落ちてしまったから…」と当時語った武。両肩打撲の軽傷で済んだが、無念さは隠し切れなかった。

 司令塔を失った良血馬は、1コーナーを過ぎたところで勢い良く先頭へ。直線で抜け出したリトルアマポーラを、かわしていくポルトフィーノ。ジョッキーなき激走が、悲しく映った。

不幸中の幸いで、馬も診断結果は「異状なし」。大事には至らなかった。

 波乱の幕開けとなったレースは、ルメールに導かれ、早めに抜け出した3歳馬リトルアマポーラがG1初制覇を遂げた。直線入り口。差し馬のリトルアマポーラを好位へと導いていたルメールが、手綱を軽く押す。すぐ後ろに、カワカミプリンセスの気配を感じながら出したGOサイン。パートナーは、大きく、そして力強いフットワークで応えた。左ムチに反応した末脚は、どこまでも伸びていきそうな勢いだ。1馬身半差の完勝だった。

 そのレース運びは、05年の有馬記念とそっくりだった。それまで、差す競馬を続けていたハーツクライを先行集団に入れ、あのディープインパクトの末脚を封じ込んだ。リトルアマポーラの過去のレースDVDを見たルメールの中に、ある思いが芽生えていた。

「中団か、前のいいポジションに行きたい」前半は5番手を追走。冷静な観察眼も、勝利を呼び込む要因となった。「カワカミプリンセスのパドックが、2年前ほど良く見えなかった」ライバルの動きを気にすることなく、自分の競馬を貫いた。

 JRA通算22戦5勝、重賞3勝を挙げたリトルアマポーラは2010年に競走馬を引退。繁殖牝馬になり22年6月3日に天国へ。産駒では3月23日に未勝利勝ちしたカシオペア(父ビッグアーサー)などがいる。

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