今年の朝日杯フューチュリティステークス・G1(12月21日、阪神競馬場・芝1600メートル)は、どんなドラマが生まれるのか。過去の名勝負・10年勝ち馬のグランプリボス(Mデムーロ騎手が騎乗)を振り返る。

 目頭を強く押さえた。11分の長い審議に決着が付くと、検量室を出てきた矢作調教師が「決まった…」とかすれた声で、馬主を始め関係者に伝えた。祝福の声とともに、開業6年目、待ちに待ったG1タイトルに歓喜の輪が広がった。「(審議があって)無心でいられた。そのぶん泣き損ねた」と照れくさそうに話したが、潤んだ目が喜びを表していた。

 グランプリボスは、11番枠から中団を追走。前半は理想通りに運んだ。ところが、4コーナーで外から迫ったアドマイヤサガス、その後もサダムパテックと相次いで接触。少し強引に馬群を割り、最速の上がり34秒5でゴール前の混戦を抜け出した。審議の対象となったMデムーロは「すごい末脚。少しトラブルがあったけど、リラックスしていたので大丈夫だった」と胸をなで下ろした。

 厩舎の“ボス”にとっては悲願のタイトルだった。

これまでG1では2着6回。開業初年度の05年にスーパーホーネットで初めて挑んだG1が、この朝日杯FS。その時は首差の“銀メダル”だった。「最初の年にホーネットを出走させて、思い入れの深いレース。3回出走して2、3着(09年ダイワバーバリアン)と来て、1着。厩舎としても誇れる」。

 あえて“厩舎”を強調したのは忘れられない出来事があったからだ。10年12月16日付でJCダート2着のグロリアスノアが美浦・小西厩舎に転厩。「馬主から転厩を宣告された。うちの厩舎の力が認められなかったから…。本当に悔しかった」。10年12月15日に厩舎のスタッフを集めて決起集会を開き、団結を固めた。

この日の戦いは、厩舎力を見せつける最高の舞台となった。

 G1未勝利の呪縛から解き放ったボスは矢作厩舎をその後も引っ張っていく。翌年のNHKマイルCも優勝すると、同年の英G1・セントジェームズパレスSへ挑戦(8着)。安田記念で2度の2着と、マイル戦線で活躍を続けた。14年末で引退し、15年から北海道新ひだか町のアロースタッドで種牡馬入り。モズナガレボシ、モズミギカタアガリなどの重賞勝ち馬を輩出している。

 矢作師は1961年3月20日、東京都生まれ。高偏差値で知られる名門・開成中学、高校を卒業。84年7月にJRA競馬学校きゅう務員課程入学。2004年、42歳の時に14度目の挑戦で難関の調教師試験を突破し、05年から開業。14、16、20、21、22、24年に最多勝利調教師、14年と19~23年に最多賞金獲得調教師に輝く。今年はフォーエバーヤング(牡4歳、父リアルスティール)のBCクラシック制覇で、日本競馬に新たな一ページを刻み、今や押しも押されもせぬ「世界のYAHAGI」となった。

著書に「開成調教師の仕事」がある。

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