◆第70回有馬記念・G1(12月28日、中山競馬場・芝2500メートル)

 今年の有馬記念(28日、中山)の特集企画「有馬のザ・ロイヤルファミリー」第2回は社台レースホース代表で、社台ファーム副代表の吉田哲哉氏(48)が登場する。生産馬で24年の日本ダービー馬のダノンデサイル、アルゼンチン共和国杯を制したミステリーウェイのことから、自身が出演したドラマのことまで、盛りだくさんのインタビューとなった。

(取材・構成=角田 晨)

 名門・社台ファームは完全復活を果たした。ダービー馬のエイシンフラッシュなどの活躍で2009、10年に生産者リーディングに輝き、80億円を超えた年間獲得賞金は、10年代後半に60億円台前半まで低迷。だが、23年に過去最高の84億9783万5000円を獲得。今年も春秋マイル王のジャンタルマンタルなどJRA・G1・5勝。重賞は21勝で、13年以来の20勝となった。社台レースホースの代表で、社台ファーム副代表の吉田哲哉氏がV字回復の過程や今回の有馬記念、そしてTBS系ドラマ「ザ・ロイヤルファミリー」のロケの逸話までも語った。

 「僕が牧場に入った当初はすごく(生産馬が)走っていましたが、スタッフは『自分の思うように育てたら走っている』という感じで。それをずっと続けていたら走らない時期が来て…。僕なりに考えて、『違うのでは』と感じたことを変えていこうと思っていて、牧場のみんなとたくさん話をしてきましたね。もともと馬の仕事をする気がなく、親も教えようとするタイプじゃなかったから、外部のような感覚も良かったのかもしれません」

 勢いそのままに、年末の大一番に生産馬を送り込む。まずは昨年のダービー馬のダノンデサイル。今年ドバイ・シーマクラシックを勝った戸崎が主戦の“ベリベリホース”。

前走のジャパンCでは中団からしぶとく脚を伸ばして3着だった。

 「お母さん(トップデサイル)は、僕がアメリカのセリに繁殖牝馬を買いに行ったときに見つけました。『早い時期に短いところ』というイメージの馬だったのですが、チャンピオンクラスの種馬(エピファネイア)をつければそういうところ(芝の王道路線)を走ってくれると思いました。イギリス(2走前の英インターナショナルS5着)は条件が厳しかったですね。メンタルで左右されるところが少ない馬みたいで、ジャパンCと同じくらいのパフォーマンスをしてくれると期待しています」

 そして社台レースホースが所有するミステリーウェイ。大逃げを武器に、アルゼンチン共和国杯で7歳にして遅咲きの重賞初タイトルを手にした。

 「もともと期待されている馬で、多くの昔からいらっしゃる会員さんが出資してくださっている馬です。適性が分かるまで時間はかかったのですが、今は松本(大輝)騎手がしっかり接してくれています。惑星的(伏兵のこと)な扱いかもしれませんが、自分の競馬ができれば面白いとは思っているのですが」

 有馬記念にレガレイラを送り込むノーザンファームなどは、同族ながらライバルと言える存在だ。

 「一緒に事業をやっているので敵じゃないですから。ただ、やはり規模でもレベルでも意識はしますよね。叔父の勝己、いとこの俊介の現場での話はよく耳にします。

ただ、社台グループ内だけではなく、どこの牧場でも、産駒や調教馬が走っているなと感じたら見学に行かせてもらい、参考にしています」

 今年は日曜劇場『ザ・ロイヤルファミリー』のロケ地として敷地を提供し、自身も出演。北陵ファーム(※)の施設にライバルの椎名善弘(沢村一樹)が入る場面で、ドアを開けていた。SNSなどで反響はかなりのものだった。

 「何か所かロケハン(下見)をして良かったので、すぐ使わせてほしいという話でした。日頃からきれいに牧場を整えているのが良かったですね(笑)。カメオ出演(著名人が物語に直接関わらず、非常に短い時間だけ登場する出演形式)と言ったら、あれですけど、たまたま出る予定だった牧場のスタッフは来客があって。それで、見学に来ていた僕が呼ばれて演技指導もありませんでした(笑)。放送後は旅行会社さんからツアーを組みたいと言われましたが、さすがに観光地じゃないのでお断りして。そういう面でも反響は大きかったです」

 次なる目標を聞かれて、哲哉氏は静かに答えた。

 「分かりやすいフレーズでいうと、3冠馬が欲しいです。(社台ファームでは)今までいないのですよね。まだまだ大きいレースを取りたいし、もっと馬のことを考えた育成、調教を突き詰めていきたいです。

今までは人間の都合に合わせていた部分が多いと思うのですよね。いろいろ研究して、馬を強くしていきたいと思っています」

 年末の大一番を制し、復活の象徴としてみせる。

(※)北陵ファームは「ザ・ロイヤルファミリー」に登場する架空の大牧場。競走馬の生産に必要な繁殖、育成、調教、種牡馬の管理などを行い、優れた競走馬を多数送り出している。

 ◆社台ファーム 北海道千歳市に位置する競走馬の生産および育成牧場。290ヘクタールの敷地内に1000メートルの坂路、周回ウッドチップコースを含む設備を備える。哲哉氏の祖父にあたる吉田善哉氏が1971年に社台ファーム千歳として開場。94年、社台グループの分割・再編により現在の名前になる。主な生産馬はマンハッタンカフェ、ネオユニヴァース、ハーツクライ、ダイワメジャー、ダイワスカーレットなど。

 ◆吉田 哲哉(よしだ・てつや)1977年8月10日生まれ、48歳。北海道出身。(有)社台レースホース代表取締役および社台ファーム副代表。

早大卒業後、社台ファームに入社。父は社台ファーム代表の吉田照哉氏。叔父はノーザンファーム代表の吉田勝己氏。いとこにサンデーレーシング代表の吉田俊介氏。

 ◆「ザ・ロイヤルファミリー」 作家の早見和真氏が競馬の世界を舞台に描いた小説で、原作は19年に新潮社から出版された。19年度JRA賞馬事文化賞、第33回山本周五郎賞を受賞し、今年10月から放送されたTBS系日曜劇場でドラマ化。血と夢の「継承」がテーマで、俳優・妻夫木聡が馬主を支える主人公の栗須栄治を演じ、20年間に渡る壮大な物語が好評を博した。

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