唐揚げやカツをその場で揚げるライブ感が魅力(どんたく)
石川県は食品小売りの競争激化が著しいエリアだ。平和堂や富山地盤のアルビス、大阪屋ショップは同エリアへの出店を進めている上、クスリのアオキの本拠地も石川。ローカルスーパーが衰退傾向にあるこのような状況の中、どんたく(石川県七尾市、山口宗大社長)は七尾市で圧倒的なシェアを保持して存在感を見せる。慢性的な人手不足の中、あえて人手と手間をかけて独自色を出す。価格勝負では大手に勝てない。ローカルならではの武器で矜持を見せる。
どんたくは七尾市で圧倒的なシェアを誇るSMで、地域住民の生活の支えとして欠かせない存在だ。2010年には金沢にも進出し、再来年には同エリアへのさらなる出店を検討している。
専門性・地域性・話題性を重視しつつ、店舗の従業員が独自に考えたPOP(コトPOP)が目立つ独特の店づくりは、競合が激化する北陸エリアにあって、高い支持を集める。人手不足も深刻化する中、どのようにしてお客に選ばれる店づくりを可能にしているのか。新谷(しんたに)健一店舗運営部部長に話を聞いた。

どんたく店舗運営部部長・新谷健一氏
〈人手不足でもあえて手間をかける〉
――どんたくとはどのようなSMか。
現在石川県で14店を運営している。
どんたく全体のこだわりは地産地消だ。「地元の味 能登半島」といったPOPで大きくアピールして、青果や水産はもちろん、日配など、地元の商品を多くそろえている。これはお客が望んでいる部分も多い。顔の見える生産者やなじみあるメーカーの商品なら安心して買ってもらえる。
POPは店舗ごとに違う。メーカーPOPを極力使用しないというのもこだわりだ。店舗の従業員が自分たちで作ったものを置いているので、担当者独自の視点が出る。同じ商品でも、店舗によってまったく異なる切り口のものになる。

店舗の従業員が自分たちで作ったPOPを使用
クロスMD(異なる種類の商品を組み合わせ、同じ売り場で売ること)に関しても独自性を出している。
このほか、山梨のいちやまマートが展開する独自ブランド「美味安心」やこだわりの味協同組合の「自然の味」といった他ではなかなか買えないブランドも展開している。
――人手不足が問題だ。
人口が減っているエリアということもあり深刻だ。本来必要な数の9割程度の人材で、なんとか運営しているというのが正直なところだ。特に40~50代のパートが足りない。足りない人員でいかにどんたくらしさが出せるかが鍵になっている。
少し前までは、能登の魚と言えば、どんたくの水産売り場で並べる、獲れたての丸魚だった。

水産売り場には七尾で獲れた丸魚が並ぶ
例えば、旗艦店である「アスティ店」(七尾市)では、毎週金曜日に唐揚げやカツを売り場で調理して販売しており、これで売り上げは従来の惣菜の10倍も変わってくる。ここでしか買えないライブ感が、お客に好評なのだが、これを実施するには従業員が常にその場にいなくてはならず、他の店舗で実施できない。だから、ここでしか売っていないという価値を打ち出している。人手不足の中でどこにあえて手間をかけるかが重要だ。
――出店や改装は。
現在2店の改装を計画している。まずは今期中に、金沢の旗艦店「西南部店」を改装する。人手不足が深刻になる中で、以前は出来ていたことが難しくなっている。だからこそ、カットフルーツや対面販売、コトPOPといった、競合がやりづらい手がかかることを、あえて積極的に行おうと考えている。
商品も当然変える。同店が出店した10年前とはニーズが異なる。売り場へ並べる商品を考え直して、専門性・地域性・話題性の3要素をよりお客に伝わるよう前面に出していく。当社はこれまで決まったフォーマットというものがなかったのだが、この「西南部店」が成功したら、これを新しいフォーマットとして、他店でも展開したい。
来期には「津幡シグナス通り店」(津幡町)も改装予定で、この2店をなんとか軌道に乗せて、再来年には金沢市内に新店を出したいと考えている。金沢でどんたくの認知度を高め、収益に繋げるためにも、改装はなんとしても成功させたい。
石川県は高齢化が進んでいる上、ドラッグストアや他県の大型SMの出店が目立つ。価格やポイント、チラシなどでは勝負できない。個店それぞれのコトPOPなどに代表されるように、人と手間をかけたどんたくの独自色を出していき、金沢でも存在感を出していきたい。