ニチレイフーズの「everyONe meal」(エブリオンミール)は、栄養と「おいしさ」の両立に着目し、すべての商品でたんぱく質を100g当たり9g以上配合した「美味しく健康」を届けるブランドとして25年3月に発売し、現在は計 13品を展開している。開発背景について、開発に携わった同社ライン&マーケティング戦略部商品第一部新価値グループグループリーダーの宮下佳子氏に話を聞いた。

――開発の背景は


当社グループのマテリアリティで一番目に掲げる「食と健康における新たな価値の創造」を具現化する商品として、健康価値を“目に見える形”で提示したいという背景があった。

商品化に向けて、当社が持つ技術や強みを生かして何をするのかを議論する中で、着目したのが「たんぱく質」だった。

現代、全世代でたんぱく質が不足しているという事実がある。朝食の欠食、魚離れ、過度なダイエットなど、さまざまな理由で必要量がとれておらず、戦後直後並みというデータもあるほどで、軽視できない社会課題だ。

一方で市場を見ると、たんぱく質補助食品の多くはプロテイン飲料やヨーグルトなど、食事というよりは食事に追加する一品のようなものに偏っていた。当社は2004年からECでカロリーと塩分に配慮した冷凍宅配弁当「きくばりごぜん」を展開するなど、長年にわたり配合をコントロールして美味しさと栄養を両立する技術を培ってきた。“日々の食事として美味しく楽しめる冷凍食品”が当社の強みである。そこで、メニュー・食事として美味しくたんぱく質を摂れる商品をつくることにこそ意義があると考えた。

――ブランド名に込められた意味は


最も重視したのは“オン”という価値観だ。これまで健康訴求商品では、「糖質オフ」「減塩」「カロリーオフ」といった“オフ”が主流だった。もちろんこれも重要な要素だが、オフに偏りすぎると、「美味しさも半減」「我慢する」というネガティブなイメージに繋がる。

そこで私たちは、必要な栄養をプラスする=オンという考え方を打ち出した。

ブランド名はお客様1人ひとり、“every oneの食生活に必要な栄養をONした食事「meal」をお届けしたい”という思いを込めた。ブランドロゴも「ON」の部分を赤く強調し、視認性を高めた。

――パッケージからニチレイの「N マーク」を外した意図は


ニチレイのブランドロゴ「Nマーク」は当社が築いてきた安心・信頼の証である。ただ、今回は既存の冷凍食品とは異なる立ち位置のブランドであることを、機能と一緒にお伝えしたかった。白を基調に赤を差し色にしたシンプルで分かりやすいデザインを目指す中で、「Nマーク」を外す方がブランドの独自性が際立つと判断した。もちろん裏面には問い合わせ先など表示しており、ニチレイのブランドであることを隠すわけではない。実際、商談でも、お客様からもネガティブな反応はなく、むしろ新鮮だという声も多い。

――販売の進捗と手応えについて


2024年9月、まずは都市圏を中心とした小売店約100店舗でテスト販売を開始した。半年間の販売や生活者へのヒアリングなどから売れ筋メニューや購買層の傾向が見えてきたため、2025年春から全国展開に踏み切った。

特に好調なのは、たんぱく質が20g以上とれる1人前トレイタイプの商品で、「5種野菜のチーズビビンバ」、「生姜香る参鶏湯」などが最も支持されている。1人前であれば1食当たりのたんぱく質量が分かりやすいという点が大きな要因だと考えている。

配荷店舗については、目標配荷率はあえて固く決めずに進めており、中長期的な視点で配荷店舗数を増やしながら強い商品を育成し、ブランド認知を高めていきたい。

販売チャネルの拡大も進めている。ネットスーパーなどの扱いは始まっており、ECサイトなどでの扱いも進めていく。

――大阪・関西万博の「テラスニチレイ」では「たんぱく米」が話題になった


「everyONe meal」は2024年のテスト販売時、EC向けに「たんぱく米」を使った炒飯も扱っていた。

「たんぱく米」は万博で興味・関心を持っていただいたお客様が多かったようだ。粉末たんぱくを使用して米粒状に加工する素材成型技術を使ったもので、コメ不足の折、新たな食の可能性として米粒状に加工する技術が注目された。

――開発での苦労について


開発においては、まずレシピを組み立てること、それを工場で安定的な生産体制に落とし込むことなどに苦労した。

「おいしくたんぱく質が摂れる」レシピ設計をするにあたり、当社の工場のラインで生産できるもの、たんぱく質を多く摂取できそうなメニューはどのようなものか検討した。また最初のテスト販売では生活者に受け入れられるカテゴリを見極める目的で主食、副菜、スナック、凍菜と幅広く揃えた。

また、たんぱく質の配合量を100gあたり9g以上と設定し、栄養強調表示の基準とした。

レシピ作成にあたっては栄養士視点からのメニュー開発などを手掛けるFELIX&ESCA代表の石坂優子さんに協力を仰ぎ、栄養と美味しさの両立の観点からアドバイスをいただいた。プロトタイプを工場のラインに落とし込む中では、目標品質の実現に向けて試行錯誤を繰り返した。たんぱく質量を必要容量含む商品を安定的に生産できるラインを立ち上げるのは初めてのことだったので苦労も多かった。

また、生産性の問題もあり、100gあたり9g以上のたんぱく質量を含む商品の生産のためには原材料からトッピングまで重量の配慮が重要である。トッピングで通常より人手がかかるという課題もある。

原材料については、動物性・植物性たんぱく質をバランスよく入れている。鶏肉と豆類に偏らないよう、牛肉・豚肉も使用したり、ブロッコリーを使ったりなど工夫している。

美味しさと栄養の両立にもハードルがあった。例えば豆の使用量を増やすと豆特有の香りで食べづらさに繋がる。
香辛料や出汁で香りをマスキングする工夫が不可欠で、工場での試作段階でも苦労した部分だ。それでも当社が長年培ってきた配合コントロール技術と、工場の開発担当者のおいしさにこだわる姿勢により栄養と美味しさを両立した商品を発売することができた。

――現状の課題は


生産面では前述の通り、トッピングに人手がかかり、通常の冷凍食品よりも手作業が多く、また、一品あたりの食材種類が多いためラインの組み替えが多い点が課題として挙げられる。生産数量を増やし、生産性を改善していく。

営業面では、既存商品も多数ある中で、棚の限られた売場に新ブランドを広げるために現場の協力が必要不可欠だった。

売場では単品で1~2品が棚に入っても価値が伝わりづらいため、基本方針として「面展開(集合陳列)」をお願いしている。今後は、ドラッグストアなどスペースの限られた店舗へどう対応するかも検討していく。

そして最大の課題は、ブランド認知度の向上だろう。検索キーワードを見ると「エブリオンミール」での検索はまだ多くはない。大阪・関西万博の「テラスニチレイ」で販売した「たんぱく米」を使用した「エブリオンミール炒飯」をきっかけに知る層が多く、裾野はこれから広げていく段階だろう。

認知度向上のために▽スポーツジムと連携したアプリ販促▽エリア限定ポスティングチラシ▽ネットスーパーとの連携――などを強化している。今後マス広告も検討はしているが、現状はデジタル中心の展開となっている。

――今後のブランド展開の方向性について


まずは「おいしくたんぱく質がとれる」というブランドの核を成長させることが最優先だ。
そのうえで、栄養素“オン”のさらなる拡張もありうる。食物繊維、カルシウム、ビタミンなど、他の栄養素も補えるメニュー展開は十分可能性がある。

メニューについては、既存の冷食とは違う“ちょっとワクワクする要素”を入れたい。便利で、食べて嬉しくなるような商品を増やし、生活者の暮らしに寄り添うブランドとして育てていきたい。

〈冷食日報2025年12月24日付〉
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