本記事では日本のソーシャルゲームを牽引したグリー株式会社(以下、GREE)と株式会社ディー・エヌ・エー(以下、DeNA)に焦点を当てる。両社はソーシャルゲームプラットフォーム「GREE」「Mobage」で過去に注目を集めていたが、現在は徐々に他分野に進出している。

ソーシャルゲームプラットフォーマーの2大巨頭である両社がどのような分野に進出し、どう変わっていこうとしているのかを考察したい。   

ソーシャルゲーム領域以外に踏み出した理由

ソーシャルゲームとは、SNSをプラットフォームにしたゲームのことであり、形態としてはWebブラウザなどから接続するものが多い。両社は、SNSであった「GREE」「モバゲータウン」の会員基盤をもとにした、ソーシャルゲームプラットフォーマーとして急成長した。本記事に置いては、ブラウザから遊ぶモバイルゲームアプリ(Webゲームアプリ)と、オンライン・オフライン問わずアプリで直接遊ぶネイティブゲームアプリについては別のものと定義している。

GREEとDeNAが非ゲーム領域への進出を図っている理由は2つ考えられる。

①スマートフォン(以下、スマホ)とタブレットの普及により、ネイティブゲームアプリが流行り、ゲームプラットフォーマーの立ち位置に変化が生じたから。

②ゲームの売上はボラティリティが大きいため、ゲーム事業以外の安定した収益の柱の模索しているから。

まずは、ソーシャルゲーム領域の過去を振り返る。

同領域は2007年から2012年にかけて、4億円から3161億円まで指数関数的に市場規模が伸びたが、2014年には799億円まで縮小した。対照的に、スマホ・タブレットゲームの市場規模は同時期の2013年から2014年まで5501億円から7359億円に伸びた。(参照:MRI)この主な要因はネイティブアプリゲームが流行ったことが考えられる。(参考:総務省

スマホの普及により、ゲーム配信プラットフォームが、App StoreやGoogle Playに移り変わったのだ。さらに市場環境を変えた要因の一つに、ネイティブゲームアプリは開発期間、費用共にモバイルゲームの2倍ほどかかることが挙げられる。

このことで既存のゲーム会社が開発体制の切り替えに苦労したことが考えられる。ゲームをとりまく環境の変化でGREEとDeNAは収益を挙げられる他事業を探しているのであろう。

次に、ゲーム事業以外の安定した収益の柱の模索している理由を深掘りたい。一般的に超人気ゲームタイトルを除くと、人気ゲームランキングの順位は変化する。開発中のゲームのダウンロード数(ユーザー数)が増えるのかどうかは、リリースされるまで未知数なのである。

また、ダウンロードされるだけではなく、ユーザーに課金されるのかどうかも焦点になる。

たとえば、GREEはゲーム事業単体の売上高は非公表だが、ユーザーがGREE内で消費するコイン数は下がり気味であり全社の売上も伸びている訳ではない。両社ともにゲーム事業が強みであるものの、先々の売上がやや不透明なゲームに頼り切るにはリスクが大きすぎる。このような観点から両社は次なる収益の柱を模索中である。

GREEの概要と今後の戦略

ここでGREEがどのような会社であったかを思い出そう。同社は「インターネットを通じて、世界をより良くする。」をコンセプトに2004年に創業し、ゲーム・SNS事業を強みにもつメガベンチャーだ。

特に世界初のモバイルソーシャルゲームである「釣り★スタ」を公開したことで有名だ。2019年1月31日からNintendo Switch向けの同シリーズが北米や欧州にも配信・発売されているほどグローバルでも人気のゲームである。

近年は企業の戦略として成長領域に掲げるライブエンターテインメント事業の強化を行なっている。同社の戦術としてVTuber事業をはじめ、サイバー空間やデジタルの強化に努めている。

ライブエンターテインメント事業はVTuberの発掘・育成・マネジメントを行っており、周辺事業としてコンテンツプロダクション、ライブ配信システムの開発、ファンドプロジェクトなど、VTuber界隈全体を盛り上げる活動を行なっている。

GREEはバーチャルコンテンツに注力

VR?オートモーティブ?GREEとDeNAが踏み出す今後の戦略とは

GREEの有価証券報告書より今後VR・ARに注力していく方針であることを紐解く。有価証券報告書では、当期純利益と売上高は単一セグメントとして公開されていたため、ゲーム領域と非ゲーム領域での事業別の業績掲載はできない。

FY2019売上高はFY2018と比べて約9%減少している。原因として、ゲーム事業におけるコイン消費量の減少があげられ、FY2019の第3四半期までとFY2018の同時期までのコイン消費量を比較すると、FY2019は前年度比で約21.9%減少している。

このことから、コイン消費量はGREE全体の売上高と相関性があると言えるだろう。FY2019の第1四半期~第3四半期までは他事業でコイン消費量の減少分を上回る売上があったと予想される。

営業利益が減った理由はコインの消費量が減っただけでなく、ゲームやVR、VTuber事業で開発投資が本格化したことがあげられる。FY2018通期と比較しても、FY2019第3四半期時点でおよそ10倍になる約6.71億円の投資活動を行なっている。

今後は、ゲーム事業と非ゲーム事業の両方で売上が上がる可能性がある。ゲーム事業においては開発進行中・予定のゲームが5本とやや少ないが、ゲームの海外展開の本格化が進んでいる。

非ゲーム領域では、おでかけメディアと謳っている「aumo」がGoogle Play ベストオブ2018を受賞していることに加え、広告事業ではクライアント数が拡大しており、アパホテルやカネボウ化粧品などの大手クライアントも抱えている。

VTuber事業では「REALITY Avater」のサービスが2018年10月22日より開始された。以前にWright Flyer Live Entertainment(*1)を通してリリースした「REALITY」は注目を浴びたことから、業績を伸ばすドライバーとなれる可能性を秘めている。「REALITY」はサービス開始から2週間で延べ利用者数が10万人を超える好成績を残した。

*1:GREE100%子会社。バーチャルYouTuberに特化したライブエンターテインメント事業を行う。

DeNAの概要と今後の戦略

DeNAは事業の選択と集中を進めている。どのような企業であったかをGREE同様に紹介する。

「Delight and Impact the World」をミッションに掲げ、ゲーム事業では「Mobage」が中心となっており、スマートフォンや携帯電話から遊べるゲームをはじめ、ニュースや占いなどのエンターテインメントコンテンツを揃えるゲームプラットフォームとなっている。2012年頃流行ったワンピースの「グランドコレクション」は「Mogabe」の有名ゲームのひとつにあげられる。

DeNAは非ゲーム領域ではMOV(オートモーティブ事業)、ヘルスケア型保険(ヘルスケア事業)、ソーシャルLIVEサービス(ソーシャルLIVE事業)とスポーツ事業に力を入れている。特にスポーツ事業以外の3領域では先行投資が積極的に行われている。同社はMOVを2020年までに配車回数国内1位を目指す事業に育てようとしている。

またヘルスケア領域ではメットライフ生命と業務提携を結ぶことで「健康増進型保険」とその周辺サービスを提供する予定だ。その一方で、同社はEC周辺事業を縮小させている。2016年には「DeNAショッピング(EC事業)」をKDDIに63億円で売却、2018年5月14日には「DeNAトラベル(EC旅行事業)」をエボラブルアジアへ12億円で売却した。2019年1月31日には「ペイジェント(決済代行)」をNTTデータへ売却することで合意した。

DeNAは非ゲーム事業が拡大フェーズに

DeNAは非ゲーム事業での売上が立ち、サービス拡大期を迎えている。新興事業に位置付けられているオートモーティブ事業、スポーツ事業で売上が伸びていることが有価証券報告書より明らかだ。ヘルスケア事業、新規事業・その他では減収してしまっている。

オートモーティブ事業、ヘルスケア事業、新規事業・その他といった新興事業では、現状利益は出ていない。一方で非ゲーム領域において唯一利益が出ているのはスポーツ事業だ。これらの要因を有価証券報告書より追っていく。

VR?オートモーティブ?GREEとDeNAが踏み出す今後の戦略とは

※FY18(2018年4月~2018年6月)
FY19(2019年4月~2019年6月)

同社のFY2018 とFY2019の売上高を前年同期比で比較すると、8.4%減となっており、ゲーム事業での売上高減少が目立つ。さらに利益も前年同期比で36.2%減となった。この要因には、既存タイトルを中心とした事業運営となり、ユーザー消費額が前年同期比で減少していることがあげられる。2019年夏に任天堂との協業タイトルである「マリオカートツアー」と、ポケモンとの協業タイトルである「ポケモンマスターズ」の配信を予定して第2四半期や第3四半期からの巻き返しに意欲を見せている。

他方でスポーツ、オートモーティブは、昨年度より売上高が伸びている。スポーツ事業の伸長は「横浜DeNAベイスターズ」の試合における観客動員数増加によりチケットやグッズの売上が増加したことが要因にあげられる。

新規事業・その他の事業はソーシャルLIVEサービスをはじめ、中長期でのポートフォリオの強化を目指した各種取り組みおよび、EC事業を含んでいる。現状減収減益している新規事業・その他だが、 FY19では新たな収益の柱の構築を目指すため、成長投資金額を100億円規模に拡大することを決めた。

VR?オートモーティブ?GREEとDeNAが踏み出す今後の戦略とは

利益側面においてスポーツ事業は、通期の増収増益に向け、順調なスタートとなった。大きな要因として、主催試合平均観客動員数の増加があげられる。横浜スタジアムを増築・改修し、2019年シーズンには3500席増設、拡張後も2018年シーズン以上の水準で稼働率が推移している。さらに主催試合の観客動員数が球団史上最速で100万人に到達するなど活況となっている。スタジアム増築計画の全容として、2020年までに収容人数を約6000人増やそうとしており、今後も増築に合わせて観客動員数が増えることが期待され、1試合あたりの売上収益も増加が見込める。

オートモーティブ事業は、東京都および神奈川県での実車回数が順調に伸長している。新たなエリア拡大を計画しており、大きく投資しているため結果として利益はまだ出ていない。大阪府・京都府で計12のタクシー事業者と連携しサービスを開始し、兵庫県は秋頃にサービスを開始する予定があり、今後の増益に期待が寄せられる。

ヘルスケア事業の売上収益は、一般消費者向け遺伝子検査サービス「MYCODE(マイコード)」「歩いておトク」をはじめ、既存の提供サービスにおいて堅調に推移している。一方で、ヘルスケア型保険の実現に向けた取り組みや、Preferred NetworksとDeNA子会社のPFDeNAの、深層学習技術を活用し、少量の血液で14種類のがんを早期発見する検査システムの研究開発等、将来の事業展開を見据えた先行投資を行なった。オートモーティブ同様、現在利益は見込めないものの、先行投資をしっかり行い今後の増益に期待を寄せている。

GREEとDeNAに見るソーシャルゲームプラットフォーマーの動向

GREEとDeNAは共にゲーム事業を中心に成長をし、未だゲーム事業が売上高の大半をしめる企業である。しかし、最近は両社ともに非ゲーム領域に力を入れており、独自の成長戦略を描いている。

GREEはVRへの先行投資により短期ではVTuber事業を、中長期では広告・メディアに注力することが考えられる。そのため、VRやARを中心とした仮想空間での事業に特化していくことになるだろう。

DeNAの場合、短期ではスポーツ事業に力を入れそうだ。中長期では、同社が注力するAI研究を活かし、オートモーティブ事業とヘルスケア事業に取り組むことが予想される。

これらのことを通し、DeNAは横浜・神奈川をはじめ、実空間での事業に今後は取り組むことが予想される。

このように、両社はソーシャルゲームプラットフォームを提供する企業として似ているものの、非ゲーム領域では全く異なる戦略をもつ似て非なる企業である。今後も、どのように両社が次なるステージで地位を築くか注目すべきである。

※本記事のグラフ、及び表は新規上場申請のための有価証券報告書Ⅰの部を参考にSTARTUP DB編集部にて作成いたしました。