近年、テレワーク(リモートワーク)できる企業が増えつつある。ITを活用した場所にとらわれない働き方だが、遠隔で働くことが、自分たちの暮らしにいったいどんな作用をもたらすのだろうか。
子育て環境を求めて社内フルタイム・テレワーカー第1号に
2015年5月に長男を出産。産休を経て、翌年5月には東京都内の職場へ復帰を控えていた須田さんは、家族の住まいと生活について真剣に向き合いはじめる。当時は千葉県習志野市のマンションに3人暮らし。待機児童問題も我が身に振りかかり、保育園入園のハードルの高さを肌身に感じた。それに加えて夫妻そろって東京都内のオフィスまで通勤時間が1時間近くかかる環境に、子育てと仕事の両立への不安は増すばかりだった。
自然があり教育環境も良く、夫妻の出会ったきっかけの場所でもある石川県金沢市で子育てがしたい。とりあえず長い目でと夫が転職活動を始めてみると、思いのほかトントン拍子で話が進み、移住を検討しはじめて2、3カ月で内定が出た。担っていた業務内容が対面業務だったこともあり、須田さんは復職後の面談で会社に退職の意を申し出た。
![テレワークが変えた暮らし[2]千葉から石川県金沢市へ。移住先で始めた複業で新たな夢に挑戦](http://imgc.eximg.jp/i=https%253A%252F%252Fs.eximg.jp%252Fexnews%252Ffeed%252FSuumo%252FSuumo_169291_04e7_3.jpg,quality=70,type=jpg)
自宅近くの犀川。金沢は自然が身近に感じられる環境である(写真撮影/イマデラガク)
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金沢移住が決まったのは育休から復帰する二週間前だったが、子育て環境を優先し、須田さんは一度、退職を会社に申し出る(写真撮影/イマデラガク)
職場復帰して半年後の退職が決まった須田さんだったが、日々チーム内にはたくさんの業務があり、そのなかで自分一人分が抜けてしまう……という状況に、居ても立ってもいられなくなり、どうにかこのまま会社を続けるという選択がないかと、自らテレワークの提案をしたところ、「やってみよう!」とマネージャーからも賛同を得ることができ、社内初のフルタイム・テレワーカーとして働くこととなった。
須田さんの所属する「特定非営利活動法人フローレンス」は、待機児童問題など子育てにまつわる社会問題の解決に取り組むNPO団体。
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須田さんのご自宅は、築80年以上の町家をリノベーション。階段下にワークスペースを構えて仕事をしている(写真撮影/イマデラガク)
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WEB会議システムを通じてミーティングに参加する須田さん(写真撮影/イマデラガク)
仕事の効率が向上し、社内にも良い変化が「テレワークを経て一番の変化は、仕事にかけられる時間です。通勤時間がないので、家から徒歩5分の保育園に子どもを送り出せば、すぐに仕事が始められます。業務のやり取りもチャットがメインになったので、オフィスだとどうしても発生してしまう電話や会議の時間が減った分、業務効率は上がりました」と話す須田さん。仕事への集中度合いが大きく変化したようだ。
また社内でもテレワーカーの誕生で良い変化がおきた。須田さんの移住をきっかけのひとつにしてどんな場所に居ても働けるよう、組織全体で体制を整えたのだ。社内でも業務に支障が出ないよう、WEB会議システム用のマニュアルを作成したり、スピーカーフォンをそろえたりと、テレワーク環境が急ピッチで整備された。おかげで須田さんもすんなりと業務に取り組むことができたそうだ。
ただ、もともと人と話すことに抵抗のない須田さんが一番感じたデメリットとしては「雑談」がテレワーカーにはないこと。同僚の旅行の思い出話を聞いたり、ふとしたときに話しかける相手がいなかったりするのは寂しく感じるそう。その分、チャットツールで本社にいる社員とやり取りしたり、WEB会議システムを使った飲み会を開催したりなどして、業務外に積極的にコミュニケーションをとっている。
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不定期開催のリモート飲み会。WEBを通じてオフタイムの社員同士の会話にも参加。他愛もない会話はここで満喫。須田さんは子育ての近況報告や金沢移住の状況などを話す(写真提供/須田麻佑子さん)
また都会ではなかなかできなかった自然とともに暮らす子育てができるようになり、人との距離が近い地方で一軒家を構えて生活しはじめたことで、自分も家族も、近所との距離感が年々近くなり、心がよりオープンになっていったと満面の笑みで話してくれた。
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4歳の息子さんとともに図書館で本棚をつくるワークショップに参加(写真提供/須田麻佑子さんご友人)
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町内会のイベントの様子。自宅の近所に流れる犀川で消防車の放水体験(写真提供/須田麻佑子さん)
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地元で仲良くなった家族を招いてホームパーティー。都会だと知り合いも埼玉、千葉、横浜……と点在していてなかなか自宅に招きづらいが、金沢だとエリアが狭いので家族同士での集まりも声をかけやすくなったそう。人づきあいがしやすくなったのも魅力のひとつだと語る(写真提供/須田麻佑子さん)
地域とつながりができても、本業を辞めない理由テレワークとして働くことにより仕事も子育ても充実した須田さんだが、なんと現在は週に1日、金沢で簡易宿所を運営する地元企業でも複業をしている。いわゆるパラレルワーカーだ。
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複業として働いている「こみんぐる」のオフィス。ここで地域のイベントも積極的に行っているという(写真撮影/イマデラガク)
須田さんは、金沢で簡易宿所を運営する「株式会社こみんぐる」運営メンバーとして、フローレンスでも使用していた管理システムを宿泊予約管理に導入した。これに伴い、スタッフの手間が大幅に軽減されたという。
「地元企業で複業することで、これまでは知り得なかった人脈がどんどん広がっていきました」と、そう熱っぽく話すのにはわけがある。須田さんはもともと地域ぐるみでの暮らし・子育てに興味があり、地域の助け合いによって子育てができるまちづくりをすることが夢だったのだ。フローレンスへの就職もその想いが背景にあった。
そのため、地元に直接関わる会社で働けることもうれしいが、さらに複業をきっかけに福井県の在宅医療のクリニックと縁ができ、医療的ケアが必要な子どもたちとの関わりを持つようになったことは大きな変化だったという。現在は、医療的ケアの必要な子どもたちやその家族が安心して旅行に出かけられるように、医療的ケア児の旅行ガイドラインを作成中だ。テレワークと複業を通じて、さらに新しい挑戦へと駒を進めている。
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地元の会社に勤めることで人脈が県を超えて広がり、この地域でやりたいことも見出せた(写真撮影/イマデラガク)
地元とのつながりもでき、地域でやりたいことも見つかった須田さんだが、それでも本業を辞めない理由は何故なのか? ふと湧いた疑問に、須田さんはこう答えてくれた。
「もともとフローレンスの仕事が好きだという気持ちもありますが、本業にも複業にもどちらにもいい影響があるからです。フローレンスは東京のNPO団体ですが、北陸でも保育や社会福祉、医療の領域で働く人の間ではフローレンスの認知度は高いと感じています。
なるほど。地域に社員がいれば、支社機能がなくても組織のビジョンや取り組みが広がる場合もあるのだ。
時にはリスクヘッジ対策にも「これはあくまで個人的な意見ですが、都心が災害に遭ったときのことを考えると、全ての本社機能が1カ所に集中しているのはリスクだと思います。特に都内だとインフラが駄目になると会社機能がストップしてしまうことが考えられます。業種や事業内容にもよりますが、テレワーカーを増やし、業務を分散して一時的でも他地域で経営を回せるようにしておくのは、会社にとってリスクヘッジになるのではないでしょうか。そういった目線でも分散型にしておくのは、これからの時代に必要な働き方になっていくと思います」(須田さん)
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会社としても個人としても金沢にいる価値をフローレンスや地元住民の方々にもたらしたいと須田さんは照れ臭そうに笑った(写真撮影/イマデラガク)
働く場所や社員同士が物理的に離れていると、お互いの心理的な面や作業効率などが見えないことが懸念となり、テレワークの導入を踏みとどまっている会社や個人も少なくない。しかし長い目で見れば、視野が広がるきっかけにもなりうる。テレワークは、個人の働き方や暮らし方を変えるだけではなく、新たに拠点とする街に住まう人たちの文化を知り、新たなビジネスにもつなげるチャンスにもなる。須田さんの話を通じて、そんなことを感じた。
![テレワークが変えた暮らし[2]千葉から石川県金沢市へ。移住先で始めた複業で新たな夢に挑戦](http://imgc.eximg.jp/i=https%253A%252F%252Fs.eximg.jp%252Fexnews%252Ffeed%252FSuumo%252FSuumo_169291_3996_14.jpg,quality=70,type=jpg)
思い入れのある犀川にて(写真撮影/イマデラガク)
●取材協力・特定非営利活動法人フローレンス
・株式会社こみんぐる 元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2019/12/169291_main.jpg 住まいに関するコラムをもっと読む SUUMOジャーナル