東京都初の民間人校長として杉並区立和田中学校長を務めた藤原和博さん。今や教育界の顔であるが、実はリクルート社出身で私が編集長をしていた「月刊HOUSING」の創刊メンバーでもある大先輩。

著書「建てどき」(2001年)で自宅建築の経緯を披露するなど、住宅への思いや知識は業界人以上に深いものがある。その藤原さんが今度はマンションを手掛けたというので取材に伺ってきた。


■樹齢100年を超える大木など原風景の保存を目指す「羽根木の森」界隈

建築地は世田谷区羽根木1丁目、この一帯は江戸時代からの所有者である地主さんが、森を保存しながら住宅開発・再生を行っている注目のエリア。坂茂が設計した「羽根木の森」、北山孝二郎による「羽根木インターナショナルガーデンハウス」などで知られ、現在は東利恵設計の集合住宅プロジェクトが進行中(10月竣工予定)。

坂茂が設計した「羽根木の森」(1997年・賃貸住宅11戸)、樹木を残すために建物が譲った形に。木を囲む曲線はガラスブロックで構成されている。


 

左が「羽根木インターナショナルガーデンハウス」、通りを挟んで右の建築中が東理恵設計のテラスハウス形式の集合住宅(全4棟、33戸)

その一角にあるのが、1月竣工した「羽根木の森レジデンス」。…なるほど、藤原さんが購入した理由が分かった。マンションは何といっても立地が命、世田谷区・京王井の頭線「東松原」駅徒歩4分・閑静な住宅街・都心で緑豊か…文句のつけようが無い!


■コーポラティブ方式のマンションに、藤原流のこだわり満載!

藤原さんが参加したコーポラティブ方式によるマンションづくりとは、まず住まい手が集まり建設組合を結成し、土地を購入のうえ自らが建築主となって建設するもの(本物件のコーディネートはコプラス社)。間取りや設備・仕様において住戸毎の自由度も高い、言わば“注文建築のマンション”。一戸建ての自宅を建築して10年経つ藤原さんの、更なるこだわりとノウハウが詰まった住まいづくりに期待が高まる。

「羽根木の森RESIDENCE」ネームプレートも既存石を活用したもの


 

保存された大きなケヤキ、春には葉を広げて森の風景に(3階建て・17戸)

藤原さんの住戸は78.52㎡の3LDK、2-3階のメゾネットタイプ。

実はこの住戸、北向きの上に、羽根木の森が全く見えない位置!?そんな悪条件住戸を、快適で価値あるものにプロデュースする事こそが藤原流の真骨頂である。
そのドアを開けた瞬間、ハッ!とさせる巧い演出が玄関にあった。スポット照明が映しているのは、ガラスに和紙を挟んだパーテーション。

暗くなりがちな北側住戸だからこそ、光を採り入れ開放的な玄関に。森を彷彿させる和紙の緑


 

「森が見えないから、緑を住戸内で表現したんだ」と、自身で和紙選びからこだわり御満悦

部屋側から逆に見たのが写真7の写真、二枚の大きな引戸は右が玄関、左が上階への階段に通じている。どちらに開け放っていても収まりの良いデザイン、引戸は空間を有効に使う日本の機能美である。

縦格子引戸のガラス(白い部分)も和紙入り

居室にも、藤原流のカラクリ(?!)が仕込まれていた。
写真8の奥に見えるのは、和室。藤原さんの“ダイニング+和室’”主義(ソファを置かないリビングルーム)は10年前に自宅を建てたときの思想であり、このマンションでもそれをコンパクトに実現していた。
畳床を上げて収納にするのと同時に腰かけ易い高さとなり、実は高齢者にも優しいスタイルなのである。

キッチンカウンター越しに和室を望む、ダークブラウンのアーチが空間デザインのコアになっている


 

「結構入るよ」と見せてくれた。窓には雪見障子、外からの視線を調整しながら光や風を採り込めて実用的

しかし、カラクリはこんな程度では無い!おもむろに和室の戸を引き始めた藤原さん…何かと思いきや、扉が全面“ガラス黒板&スクリーン”になっている代物だ!!

「一枚板にこだわったら搬入が大変だった」プロジェクターで映画やプレゼンテーションを映したり、書いたり消したりもできる多機能ボード(FIGLA社製)。

この発想は一般の人ではなかなか出てこない…

そして、翌日到着予定だったベルナール・カトランが描いた床の間の絵。「掛けたら、こんな感じ」とピースをかざして見せてくれた。本物の絵が暮らしにもたらす豊かさを知る藤原さんにとって、欠かせないアイテムである。

ベルナール・カトランの絵を掛けたイメージ

まだ、続く驚きのカラクリ。階段を上がると、吹抜け天井から光が降り注ぎ、見上げると…空が見えた!

北側住戸の暗さを克服する必殺技!?


 

四角錐の天窓。プリズムの影に見入ってしまった…時間や季節による変化が楽しみだ


 

屋上から見たガラス塔、上下開閉式で居室に風が吹き抜ける効果も

こんな大がかりな装置には驚かされるばかりだが、写真15のようなトイレ鏡のアイデアなら簡単に取り入れられそうだ。

手前が扉側、右のタイル壁と正面の鏡でできた三角コーナーを手洗いカウンターに。鏡に壁や水栓が映りこみ、奥行きが倍に感じられる


 

手洗いボウルも二つ並んでいるように見える

著書である「建てどき」に書かれた10年前の家づくりから変わらない、藤原さんのデザイン・コンセプト“ネオジャパネスク”。海外生活を経験して実感された“日本の伝統美”の素晴らしさ、またそれを日常的に使いこなしてこそ意味があるという信念と遊び心も忘れない暮らしぶりが今回のマンションにも表現されていた。

・間取図(藤原和博さんのホームページ「よのなかnet」内)
HP:http://www.yononaka.net/neo-japanesque/hanegi/205.html

・著書「建てどき」(同)
HP:http://www.yononaka.net/toshokan/tatedoki.html

・株式会社コプラス
HP:http://www.co-plus.co.jp/元画像url http://jrnl-parts.s3.amazonaws.com/wp/wp-content/uploads/2013/02/39138main.jpg

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