複数企業が利用することを前提とした、新しいスタイルの企業寮が月島に誕生。644室を擁する企業寮の名前は「月島荘」。

最大の特徴はシェアハウスの概念を取り入れたことだというが、どんな寮になっているのか、レポートしよう。

職住近接の月島に、複数企業の644人の交流を目的とした企業寮

オーナーは、月島・勝どきエリアに倉庫などの数多くの施設を所有するイヌイ倉庫(株)。ボーリング場跡地に当初は、200mの高さの高級賃貸マンションを検討していたという。ところが、2011年の東日本大震災をきっかけに、シェアハウス型の企業寮(25mの高さの3棟構成)へ方向転換した。業種や職種、ひいては国籍も異なる多様なビジネスパーソンが交流して相互に作用し、成長する場を提供したいというのが理由だ。
     

【画像1】月島荘の外観。中庭をはさんだ3棟構成で、2階以上に合わせて644室がある

単独企業の社員寮ではない。複数の企業が法人契約を結び、それぞれ最大50室まで自社の社員に提供できる企業寮だ。最大の特徴は、各企業のビジネスパーソンが交流できるように、シェアハウスの概念を取り入れていること。その仕掛けの一つ一つを見ていくことにしよう。

シンプルな個室と多彩で居心地の良い共用部を使いわける

まず、644人分の共用施設が並ぶ、3棟の1階フロアに目を向けよう。複数のキッチンダイニングルーム、ジム、大浴場、シアタールーム、スタディルーム、ミーティングルームなど、大規模な新築マンションに劣らない充実ぶりは圧巻だ。

3棟の間に広い中庭があり、共用施設の多くが中庭に面しているので、ジムもスタディルームも明るく開放的。私なら、ジムを利用してヨガサークルをつくって、ヨガの後に大浴場でのんびりして、風呂上がりにダイニングでビールで乾杯…などと、利用方法がいろいろと思い浮かぶ。それに、スタディルームやミーティングルームで仕事をしたほうが、会社で仕事するより集中できそうだ。

などと思いながら、次は住居空間へ。個室はシンプルなつくりだ。18㎡の居室にシャワールームと洗面所・トイレ、ベッド、エアコン、冷蔵庫、クローゼット、下駄箱がそろう。狭く感じさせないのは、窓の大きさと中庭をのぞめる開放感があるからだろう。

個室は寝たり、着替えたりといった主に独りで行う生活シーン中心の場であって、インターネット、読書、運動、大型テレビでの視聴、大浴場での入浴などの生活シーンは居心地の良い共用部をシェアをするという構図だ。個室から出て共用部で過ごすことを促すように、多彩な共用部は実に快適にデザインされている。

          

【画像2】3棟の各1階に設けられた共用部。キッチン、ダイニングルーム、ライブラリーラウンジ、スタディルームなどの充実ぶり

  

【画像3】1階の共用部には、男女別の大浴場などもある

クラスターという新しい交流の仕組みに注目

ビジネスパーソンの交流の仕掛けは、ほかにもある。それがクラスターリビング・テラスだ。

3棟それぞれの2階以上の住居階には、2層吹き抜けのテラスを介した共用リビングスペースがある。つまり、2層ごとを1クラスター(生活基盤を共にする集団。最大70室)として、簡単な食事やちょっとしたリラックスタイムは、居室と同一階またはクラスター内の上下階いずれかのリビングスペースで過ごすことができる。

目的をもって向かう1階の共用部に対し、朝食時や帰宅の際にちょっと立ち寄れる、気軽なくつろぎ空間がクラスターリビングだ。有料のランドリールームやゴミ置き場も隣接させているので、洗濯やゴミ捨てのついでに立ち寄る人も多いだろう。

例えば学校でいえば、全校生徒が利用する1階の共用部と、同じ学年や同じクラスだけが利用できるクラスターリビング・テラスという場が設けられているので、自然と交流が生まれるような仕掛けになっているわけだ。さらに、同一企業の社員は、同じクラスターに5室までという制限も設けているので、違う企業の人との交流が生まれやすくなる。よく考えられていると感心する。

同じ場所でよく顔を会わせるクラスター仲間と交流するだけでなく、私のように趣味の仲間を募って充実した共用部を使いたいという人もいるだろう。いや志の高い若者は、ビジネス英会話のスキルを高めたいとか、新しいビジネスをプランニングしたいといったことも考えるだろう。そのきっかけとして、1階共用部にコミュニケーションボードを用意し、手書きのメッセージを残せるようにしているほか、居住者用のWEBサイト(掲示板機能付き)を用意する予定だそうだ。

【画像4】2階以上が住居階。

居室は18平米と小さいが、窓を大きく開放的に取る工夫がなされている

【画像5】クラスターリビング。左奥が給湯コーナー。この階はリビング仕様だが、下の階はダイニング仕様になっている

気になる賃料は、10万5000円に、共益費が7000円(水道光熱費は別)。仲介手数料や原状回復費用は不要だが、企業が保証金として300万円/社を預ける必要がある。
今後は複数の企業の社員が実際に居住して、使い勝手の確認や新たな提案を受け入れる運営テストを行い、2014年1月から本格稼働し、4月の新年度に向けて法人契約を増やしていく予定だという。

バブル経済崩壊後には、大手企業の多くが社員寮を手放した。その結果、違う職場や年代の社員相互の交流が減ったといわれている。月島荘は、複数企業の社員同士がクラスターなどの仕掛けによって、交流が促進されるようになっている。月島荘での交流によって、多角的な視点とネットワークをもった若者が、今後の日本の成長を支えるキーパーソンになってくれるという明るい夢を抱かせてくれる体験でもあった。

●月島荘
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