不動産会社で家賃格安の物件を紹介してもらったけれど、窓を開けたら隣がお墓だったなんていう笑い話(?)をよく聞きますが、実際にお墓のすぐ横に住んでいる方に、住み心地を伺ってみました。
窓を開ければすぐそこにお墓が問題の物件の場所は、東京都台東区の谷中霊園の近くにある、お寺の墓地に面した古い一軒家だ。
「同居人の職場がある谷中近辺で、練馬に借りていたマンションよりも家賃が安く、和室の畳部屋なのが必須条件でした。そこでネットにも出ていないような物件を探そうと、老夫婦がやっている地元密着型の小さな不動産会社で紹介してもらった最初の物件が、まさにここでした。他に比べると家賃が断然安かったので、早速見にいったら、そこに行くまでの路地に惚れてしまい、物件を見る前に90%ここを借りるって決めていました。」
【画像1】Hさんが惚れたという、お墓に挟まれた細い路地(写真撮影:筆者)
確かになかなか雰囲気のある路地であるが、好みの分かれるところだろう。Hさんのお宅に行く際に、まさかこの道を通っていくとは思わず、しばらく迷子になってしまった。
家の一面がお墓に面している物件はたまにあるが、Hさんの住む家は、台所のある西側に加えて、さらにお風呂場のある北側もお墓という、なかなかレアな物件である。ここに住むとなると、さすがにお墓の存在が気にならなかったのだろうか。
「ここは相場よりも3割くらい安かったのですが、なかなか借りる人がいなかったみたいで、半年以上空いていたそうです。築年数も平米数も、正確には分からないっていうやる気のない不動産会社だったからかもしれませんが。お墓に抵抗がなかったかと言われれば、ゼロではなかったですが、実際に住んでみると、お墓って超いいんですよ!」

【画像2】台所の窓を開けると、冗談みたいな景色が広がっている(写真撮影:筆者)
墓地だけに家賃がボチボチ安いという理由だけではなく、実際に住んでみないと分からないような、お墓に面した場所ならではのメリットがあったようだ。
お墓の隣に住むメリットとデメリット「ここは谷中霊園みたいに不特定多数が常に入ってくるお墓と違って、お寺の敷地内にあるお墓なので、檀家さんしか入れないし、夕方5時には門が閉まります。お供え物も食べられるものは基本禁止みたいなので、カラスと猫が来ないんです。
お墓といえばカラスと野良猫がつきものだと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。管理の行き届いたこの墓地には、エサとなるものがまったくないので、動物が寄りつかないそうだ。

【画像3】お風呂場の窓を開けると、やっぱり墓場。夏は気分的に冷たい風が感じられて涼しそうですね(写真撮影:筆者)
「日暮里駅に行く途中の谷中霊園の通りも、夜中でも全然怖くないですね。引越し前は霊園を避けて遠回りしようかと思っていたけれど、街灯があって明るいし、怖い感じが全然しないんです。むしろ生きている人間のほうがよっぽど怖いですよ!」

【画像4】谷中霊園の桜並木。毎年楽しみにしていたお花見が禁止されてしまって悲しいそうです(写真撮影:筆者)
お墓の隣に住むメリットを熱く語るHさんだが、デメリットはないのだろうか。
「普段はとても静かなのですが、毎日朝5時と夕方5時にはゴーンって鐘が鳴ります。ここはお寺に囲まれているので、大晦日はそこら中から除夜の鐘が聞こえるんですよ! あと風の強い日は、卒塔婆が揺れてガタガタ鳴るのがちょっとうるさいですね。お墓が近過ぎるので、墓参りに来た人の話し声が聞こえちゃうこともあります。遺産相続の話とかのディープな話が……。あと聞こえるのが、お経です。
さて、このあたりで肝心のことを聞かなくてはならないだろう。お墓といえば、オバケである。夜になるとオバケが出てお皿の枚数が足りないとつぶやいたり、妖怪が墓場で運動会をしたりしないのだろうか。
「妖怪も出たらいいんですけど、たまにアンプのチューナーがカタカタカタって揺れて、CDとかレコードのチャンネルが勝手に変わるくらいです。それを我が家では『童(わらし)がでた』と言って楽しんでいます。座敷童がいたら、その家が栄えるっていうじゃないですか。
ちょっと前までは、その路地の入口をGoogleのストリートビューで見ると、怪しい光が写っていましたよ。私は元々霊感がなくて全然見えない人なんですが、見える人が家に来たときに、霊的に『こんなきれいな家ははじめてだ』っていわれました。お寺がちゃんと供養しているお墓しかないし、毎日お経が聞こえてくるので、そういうのが関係しているんですかね」

【画像5】建物は古いけれど、天井に怪しいシミなどもなく、居心地がとてもいい(写真撮影:筆者)
「あとオバケは出ませんが、雨の日は路地にでっかいカエルがたくさん出てくるんですけど、これがかわいいんですよ! 世の中にカエルの置物がたくさんある理由が分かりました!」
…と、オバケは見たことがないようだが「CDのチャンネルが勝手に変わる」とあっけらかんと言うHさん。そしてオバケ話からなぜかカエル話に……。
これほどまでにこの物件を気に入っているHさんだが、残念ながらこの場所も、お墓になることが決まってしまい、近日中に立ち退きをしなくてはならないそうだ。
次の住まいも、また積極的に墓地の隣を探すそうである。

【画像6】人魂は飛んでいませんでしたが、星は綺麗でした(写真撮影:筆者)