食にまつわる仕事をしていると、どこからともなく新店情報が耳に入ってきます。今回、飛び込んできたのは、自由が丘『無邪気』、渋谷『らーめんと甘味処 九月堂』、南阿佐ヶ谷『らぁ麺 いしばし』など、名だたる超人気のラーメン店で10年にわたり経験を積んできたラーメン職人・小島康裕さんが独立して新店舗を構えたとの噂。
それが11月に東京・新高円寺にオープンしたばかりの『らーめん処 くろ助』。さっそく取材に行ってきました。
いざ実食! はたしてその味わいは?

入店すると、ほぼ満席。券売機を見ると、左上から「醤油らーめん」(730円)、「特製醤油らーめん」(960円)、「塩らーめん」(730円)、「特製塩らーめん」(960円)、トッピング…と続きます。どれにしようか迷いましたが、「券売機の左上の法則」(左上から自信作が並ぶことが多いため)に従って醤油を選択。さらにお腹の具合と相談して「特製醤油らーめん」に決定しました。
さて、カウンターに座ると、最初に目に入るのは調味料。店によっては、自家製のオイルやラー油などが置いてあったりして、店主のこだわりがよくわかるものです。しかし「くろ助」のカウンターには、ちょっと意外なものが置かれていました。それは「タバスコ」。壁には貼り紙もあって、「中盤あたりでタバスコを数滴入れてみると、スープがしまります」と書いてあります。

ピザやパスタにタバスコが合うのは常識ですが、ラーメンにタバスコというのはあまり見かけませんよね。一体どんな味変ができるんでしょうか。

丼に載っているのは、豚バラロースと低温調理の豚肩ロースの2種類のチャーシュー、メンマ、海苔、味玉、ワンタン、薬味の三つ葉とネギ。華やかで、ザ・ニッポンの醤油ラーメンといった堂々としたビジュアル。透き通った琥珀色のスープが具材や麺を包んでいます。見た目の美しさもさることながら、香りがいい。煮干しの柔らかな香りで、それだけで心が満たされそうです。
さっそくスープを一口。非常にすっきりとしたスープです。しかも旨味が濃い。魚介のエキスもしっかりと感じます。鶏清湯をベースに、まろやかな醤油と上品な鶏(チー)油。何層にも旨味が重なっているのですが、じつにクリアな味わい。

麺は細くめの低加水系。ややパツパツした食感で、ここに上品なスープが染み込むように絡まります。すするほどに優しい旨味が胃の腑に染み込んでいきます。というわけで、そのまま食べ進んでいると、ご主人とお客さんの会話が聞こえてきました。
お客さん「タバスコがよく合いますね!」
小島さん「でしょう。タバスコって、そもそも唐辛子と酢、岩塩だけでできたシンプルな味だから、案外、食材の味を邪魔せず引き立ててくれるんですよね」
おっと、危ない。タバスコを入れずに完食するところでした。あわてて数滴、タバスコを投入してみました。すると、味がキリッと変化。穏やかなスープのクリアさはそのままで、よりいっそう、スープの美味しさが伝わってくるのです。確かにタバスコ、合います。お見事!
味のかけ合わせが絶妙な一杯

気づいたらランチ時間を過ぎて、お客さんは自分ひとりだけ。
「スープは2日間かけて作っているんですよ。1日目は丸鶏から出汁をとり、2日目はその鶏を抜いて、またそこに丸鶏を入れる。いわばスープでスープをとるようなイメージです」。使用している鶏は2種類で“美桜鶏”と“桜姫鶏”だそう。
さらに4種類の煮干しを使用した魚介出汁も使用するとのこと。その1つが「エソ」という希少な煮干し。「獰猛な顔ですけど、コイツがいい丸みと甘みを出してくれるんですよ」と小島さん。

さらに醤油も2種類を使用。すっきりした下総醤油と、 “再仕込み”の濃厚な甘露醤油の2つのかけあわせで、やわらかな醤油の味わいを生んでいます。また、鶏油は香味野菜とかけあわせ、強めに焚いて水分を飛ばして、すっきりした味わいに仕上げているそうです。

という具合に、お話を聞けば聞くほど、1つ1つに手間暇をかけ、“味のかけあわせ”にこだわりを持った1杯なのだということがよくわかりました。
そういえば、タバスコを入れるのはどういう理由があるんですか? と聞いてみると、「ラーメンは最初と終盤で少し味わいが変わってきて、ボケることもあるので、味をしめるのにタバスコはぴったりなんですよ」とのこと。
「ラーメン屋ではなく、本当は居酒屋をやりたかった」と小島さんが言うように、酒肴にもこだわりがあります。最近人気なのが、煮卵入りの「ポテサラ」と野菜がたっぷりの鶏油入りの「餃子」(共に400円)。せっかくなのでいただいてみたら、こちらも最高でした。
餃子やポテサラをアテに一杯飲んで、〆にラーメン、というのも『くろ助』ならではの楽しみ方。ぜひ行ってみてくださいね。
(撮影・文◎土原亜子)
●SHOP INFO

店名:らーめん処 くろ助
住:東京都杉並区梅里2-24-13
TEL:03-5327-8327
営:11:30~14:00
18:00~翌1:00
※営業時間はTwitterやInstagramで事前確認を
休:不定休
https://twitter.com/ra_menkurosuke/
https://www.instagram.com/ramenchukurozhu/