TBSラジオ『蓮見孝之 まとめて!土曜日』毎週土曜日内で8時20分頃から放送している「人権TODAY」(5月21日(土)放送分)

去年の7月に土石流災害が起きた、熱海市の伊豆山地区では、2022年5月現在も約100世帯が応急仮設住宅で暮らしています。被災した家屋の復旧、災害対策、原因究明、どれもまだこれからの状況です。

その伊豆山地区、国道135号線沿いに4月15日、コミュニティカフェ「あいぞめ珈琲店」がオープンしました。

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土石流災害が去年起きた、熱海市伊豆山地区にオープンしたカフェ「あいぞめ珈琲店」

「あいぞめ珈琲店」を立ち上げたのは、高齢者の生活支援などを行っている、住民らのボランティア団体「テンカラセン」です。地域住民が使う共同浴場などがある「浜会館」の4階の空きスペースを活用しました。3階が国道に面しているので、1階分階段をあがります。高齢者が多い地域なので、階段には昇降機を取り付けました。階段を上がり、店に入ると、正面の窓から、相模灘の海が一望できます。

ゴールデンウィーク中は、観光客が次々と立ち寄っていました。以前この辺りを訪れたことがあるという、沼津から来た男性2人組は「伊豆山は以前とはさま変わりしてますね。壁に泥がこびりついているような感じで。もう1年になるんですけどね」「伊豆山神社にお参りをして、一人の方がまだ行方不明のままなので、見つかるようにお祈りしました。そして、若い人が頑張っているから、何かおいしいもんでも食べようと寄ってみたんです」と話します。また、ドライブの途中に立ち寄ったという若い男性は「ほんとにたまたま通りかかったからなんです。

カフェがあるんで、見つけたんで、寄ってみたという感じです。店の方から災害の話は聞いて、Wikipediaとかちょっと見てみたんですけど、映像とかけっこう何回も流れていたやつだったんで、この辺で起きた災害だったんだってあらためて知りました」と話します。

土石流災害が去年起きた、熱海市伊豆山地区にオープンしたカフェ「あいぞめ珈琲店」

一方、開店以来、何日かおきには来ているという地域の住民もいます。一人の女性は「のんびり話ができて、見慣れた景色ですけど、またここに来ると、ゆったりした気持ちになって、また行こうねって、そんな感じです。もう何回かお邪魔してますけど、すごく、気分的にも助かってます」と話します。一緒に来ていた女性は「土石流前から、そんなに何もないところだったんですけど、土石流で、少ないお店がひとつふたつ閉めてしまったりして、ほんとに何もない中で、こういうものができてよかったです。みんな近所なんですけど、ここ来れば誰かしら会うような感じです」と話していました。

「あいぞめ珈琲店」の店主、中野裕基さんは「観光客も、普段使いの住民も入り混じって、何か出会いがある場所になればいい」と話します。中野さんは大阪出身で、2年前から熱海市内で働いていましたが、ボランティア活動を通じて、この地域とつながりました。

土石流災害が去年起きた、熱海市伊豆山地区にオープンしたカフェ「あいぞめ珈琲店」

メニューはコーヒーとフレンチトーストなど。注文カウンター近くの壁には、一枚500円の「つながるチケット」がたくさん貼ってあり、「ありがとう」という言葉などが書かれています。「つながるチケット」は、お客さんが購入して、他のお客さんに「使ってください」と贈るチケットで、使った人はお礼の言葉を書いて貼っておきます。

中野さんは「家が流されたり、顔合わせる場所がなくなってしまったので、ここが、まず顔合わせる場所になってほしいのと、大人が子供達へとか、もしくは他府県の方が、伊豆山に何かしたいけど何もできないとかっていう声をよく聞いたんです。そこで、『つながるチケット』を使えば、直接会えなくても、そこでちょっとした会話ができる。メッセージ同士の会話ですが。時には、子供たちが使っているとき、そのチケットを買った大人がそこに居合わせることもありますよ」と話します。

土石流災害が去年起きた、熱海市伊豆山地区にオープンしたカフェ「あいぞめ珈琲店」

中野さんは、伊豆山の子供たちの遊ぶ場づくりも手伝っているので、そこで顔見知りになった子供たちが「つながるチケット」を使って、食べたり、飲んだり、店で宿題をしていったりします。私が取材に行った日は、小学5年生の女の子が、ちょっとしたお手伝いをしていて、そこに、小学2年生から6年生までの男の子たち4人がやってきていました。水を運んだり、メニューを説明していた女の子は「働いたよって、学校で自慢しようかな」と中野さんに話します。また、男の子たちは「つながるチケット」で、思い思いに飲み物を注文し、フレンチトーストを食べていましたが、一人の男の子は「昨日、パパとママにね、ここのことを言ったら、今度行ってみようかな、て言ってた」と中野さんに報告していました。

土石流災害が去年起きた、熱海市伊豆山地区にオープンしたカフェ「あいぞめ珈琲店」

お店の中では、熱海市中心部のパン屋さんのパンが曜日限定で買えたり、地元の人が手作りジャムを置いて売ったりしています。中野さんは「こういうことをしよう」とかっちり決めているわけではなく、地域の人に聞きながら、この場所を使って、色々なことをやっていきたいと話していました。オープンしたばかりの「あいぞめ珈琲店」ですが、今後さらに様々な人が訪れ、つながりを広げることが期待されます。

土石流災害が去年起きた、熱海市伊豆山地区にオープンしたカフェ「あいぞめ珈琲店」
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