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2021年1月10日(日)放送

河瀨直美さん(part 2)
1969年奈良県生まれ。大阪写真専門学校映画科を卒業後、同校の講師を務めながら8mm作品を制作して注目を浴び、初の商業作品『萌の朱雀』が第50回カンヌ国際映画祭でカメラ・ドール(新人監督賞)を受賞。

2007年のカンヌ国際映画祭では、『殯の森』でグランプリ。2009年には、カンヌ映画祭に貢献した監督に贈られる「金の馬車賞」を、女性初・アジア人初で受賞しました。2013年にはカンヌ映画祭コンペティション部門の審査員もつとめ、2015年にフランス芸術文化勲章シュヴァリエ章を受賞しています。
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出水:河瀨さんは1997年には『萌の朱雀』でカンヌ映画祭新人監督賞を史上最年少で受賞されました。当時26歳! この映画で初めて、1人ではなく、スタッフを動かす形で撮影されたんですよね。

河瀨:そうです、長編映画初でした。

JK:私にとっては『カーネーション』の尾野真千子さんとくっついちゃうの。河瀨さんが見出したんでしょ?

河瀨:そう、中学校でげた箱を掃除してたのを見つけて。一生懸命げた箱を掃除してる子がいるわ、と思ってカメラを向けたら、目がすごい印象的でしたね。彼女を入れて四姉妹だったので、私の中ではもうちょっと年上のイメージだったんですが、真千子ちゃんにすごくくるものがあって。

JK:どんな役もこなすのよね。それも、らしく。

河瀨:彼女は四姉妹の末っ子なので、ものすごく引っ込み思案であまり話さない子だったんですよ。でもおそらく、自分の表現の場みたいなものをお芝居の世界に見出して、お芝居しているときの方が生きてる感じがする。

JK:らしいですね。だから本番に強いのよ。

河瀨:私ってすごくドキュメンタリーっぽく撮るんですね。リアルを追及してるので・・・中学生で演技経験はまったくなかったんですけど、彼女の中に毎日毎日積み重なっていくのがすごい見てとれました。感情も動くのがわかるし。これは本当に彼女にとって天職なんだろうなと思いました。あの当時はまだ16歳で、この子は絶対ブレイクすると思っていたけれど、10年下積みして『カーネーション』でブレイクして。どういう人生を歩むのかわかりませんが、もうええ歳なんでね(笑)

JK:この前『朝が来る』見ました! 本当にリアリティっていうか、自然な撮り方ですね。

河瀨:これは「順撮り」という手法で、脚本の順番に撮っていく。効率を考えたときに、たとえば同じ部屋のシーンだったら、シーン2と15は同じ時に撮っていくんですけど、それをすると後ろを先に撮っちゃってるから、そこに合わせていくことになっちゃうんですよね。

JK:つじつまが合わない場合も出てくる?

河瀨:合わせていくために、型にはめていくっていうことをする。でもそれをしないから、時間軸が一緒なので彼らの中に積み重なっていく。たとえば『朝が来る』では、清和と佐都子がデートをするシーン。妊娠をあきらめて2人で生きていこうって行くんですけど、当然初めて行ったデートの場所があるわけです。映画では撮らないんですけど、永作ちゃんと井浦さんにはデートしてもらったんですよ。宇都宮に行って餃子を食べてもらって・・・その経験があるから、レストランで「行った行った!」ってなるんです。

出水:映像は撮ってないのに?! えーっ! すごい撮り方ですね!

JK:でも分かりやすいね。演技というより、自分になって。

河瀨:箱というか、形は永作ちゃんやけど、中身を佐都子にしてもらうために、デートをした記憶を入れてもらう。それが「役積み」です。それから自分の子供を育てられなかった母親の役として蒔田彩珠という新人も出てるんですけど、その時16歳で14~20歳の役をやってます。・・・実は息子も出てるんです(^^)いとこ役で。

JK:えっ、出てた?! そういうのは先に言うといてもらわないと(笑)

河瀨:思春期の子たちの性の問題は、今の学校でもっと教えるべきなんじゃないかなと思います。『朝が来る』を見て衝撃を受ける男性がものすごく多くて、自分たち男性は「女性を妊娠させてしまった」という加害者意識があるらしいんです。清和の場合も精子がゼロで奥さんを妊娠させられない。女性を助けたいのにそれができてないっていうのを改めて感じるらしいんです。この後どうやって生きて行けばいいのか逡巡する。たとえば妊娠したときも、男性は自分事として感じられない。この映画の中でも、巧は高校に普通に上がっているけれど、ひかりは産んだ事実を隠さないと生きていけない。人間として傷を負うんです。男女の中でもうちょっと知っておいていいことだったり、子供をどう育てていくのかということまで、大人たちが腹割って話していいんじゃないか。愛するとはどういうことなのか、教育の中で先生も恥ずかしがらずに話していいんじゃないかなと思います。

映画監督・河瀨直美「奈良と奄美が教えてくれたこと」

JK:河瀨さん、マサカっていっぱいあるでしょうけど・・・

河瀨:私奈良の育ちで、ずっと奈良の生まれだと思っていたら、実は奄美大島がルーツだったっていう。それを30代半ばで知って奄美に飛んだら、集落に親戚とかがいて・・・

JK:なんでそれまで知らなかったの?

河瀨:私生い立ちが複雑で、私がお腹にいるときに両親が別れて、私のおばあちゃんも離婚をして、代々離婚家系なんですよ。

あるときおばあちゃんと旅行に行ったときに「ルーツは奄美やで」って言われたんです。私、山の子だから海が怖かったんです。でも奄美大島って周りが全部海じゃないですか! しかも海沿いの集落だわって・・・これがマサカでしたね。よく見ると南方系の顔をしていて、眉毛も濃い感じで(笑)

出水:降り立って親戚の方々とお会いして、あって思う部分はありましたか?

河瀨:行ったのが、育ててくれた養母が亡くなって行ったときだったんですよ。育ててくれた人もいなくなったし、父母も自分の人生を歩んでるし、ルーツいわれたから行ってみようと思って・・・奄美大島って誰でも受け入れる気質があるんですよ。沖縄とは違って、いつも支配されてきた歴史があって、でもニライカナイという思想もあるし、島唄のようなのどの底から出てくるような歌もあって・・・そうした結の精神でつながっている中に私も入れてもらえるんだ、って。私が内地に戻るときには「行ってらっしゃい」ってもらえたんですよ。しんどくなって帰ったときには「おかえり」って。

JK:ええっ・・・優しいね!

河瀨:本当に息子を連れて移住しようかなと思ったこともあります(^^)神様の位置が、奈良は上なんですよ。だけど奄美は水平方向にいる。縦と横で全然違うんです。

JK:そういう感覚を万博で生かせばいいと思う!

河瀨:まさに! 夢島は日本人古来の入口で出口。

すべて航海はあそこから始まっているんですよ! だからこの土地の記憶や感覚を万博で表現できたらすごいなあって・・・まだ漠然としているんですけど。

JK:すっごくリアリティっていうか、生きてる体験。メッセージとしていいですよ!

映画監督・河瀨直美「奈良と奄美が教えてくれたこと」

出水:エネルギッシュにいろんな分野で活躍している河瀨さんですが、エネルギーの源はどこからくるんですか?

河瀨:『あん』で樹木希林さんに言われたんですけど、「あなたは東京には絶対出てこないほうがいい」って。まさに私は奈良を拠点に生きてるんですけど、東京は人がものすごく交流して、情報も豊富で、いろんなことが生まれる都市ではあるんですけれど、そこにいると全部に一生懸命対応してしまって、自分自身を掘り下げる時間を持てなくなるんです。奈良は平城京に立つと空が大きくて・・・これが宝物。朝日が昇るのも夕日が沈むのも見える。万物が感じ取れる場所で自分のエネルギーを貯めて、東京でみなさんと出会って・・・っていう振り子みたいなバランスをとること。何がっていうよりかは、バランスですかね?

JK:でもコロナの時代になって、都心だけに集中的、という考えじゃなくて、それこそリモートで世界中どこともつながれるという意味で、奈良にいるっていうのはタイミングとして理想的ですよね。

河瀨:ずっとネットでつながったらいいのに、って10年ぐらい前からスタッフにも言ってて(笑)実はフランスとはそういう形で作業を進めているんです。ポスプロっていうんですけど、映画の最後の編集とかサウンドのデザインとかはフランス人とやってるんですよ。なのでデータのやりとりはそのころから自由にやってる。時差があるんですけど、Skypeだったりでミーティングでやりとりしながら、ここ気になるね、って遠隔で作業してたんです。

出水:時代の先端を行ってたんですね!

河瀨:だから私にとっては東京もパリもあまり変わらない(^^)みなさんも奈良に来ていただいたら、静かな形でひとつのプロジェクトを深堀りできると思うので、ぜひ来てください!

出水:次回作の構想などはあるんでしょうか?

河瀨:今は本当にオリンピックのために全てのスケジュールを明けております! IOCからの依頼で受けているので、未来永劫、人類の歴史が続く限りアーカイブされていくであろう、と思って、自分の人生の数年をかけてやっています。だから延期になって、もしかしたら中止かも、となっても、私は映画を作ると思う。そこで人類が何を思ったのか。この先の未来がなにかこう、光の部分に意識をもってもらえるようになればいいなと思います。

JK:楽しみですね!

=OA楽曲=
M1. アサトヒカリ / C&K

◆1月10日放送分より 番組名:「コシノジュンコ MASACA」
◆http://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20210110170000

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