毎週土曜日「蓮見孝之 まとめて!土曜日」内で放送している「人権トゥデイ」。
様々な人権をめぐるホットな話題をお伝えしています。
今回のテーマは…『映画「へんしんっ!」~車椅子の監督がこだわった“オープン上映”とは…』「PFFアワード2020」でグランプリ受賞!
6月19日に公開になります映画『へんしんっ!』は、タイトル通り、ある人が「変身」を遂げるドキュメンタリー映画です。その人とは、先天的な疾病で幼少期から車椅子生活を送っている石田智哉(いしだ ともや)さんという23歳の若者です。石田さんは中学3年の時に、iPadを使って動画を編集することを覚えて以来、映像づくりの面白さに目覚め、その後、立教大学の映像身体学科へと進学。そこで卒業製作として監督しました映画『へんしんっ!』が、歴史ある「ぴあフィルムフェスティバル=PFFアワード2020」で、グランプリを受賞したのです。石田監督はどんな作品を撮ろうと思って、カメラを回し始めたのでしょうか?
★映画『へんしんっ!』石田智哉監督「障害を負って表現活動している、美月めぐみさんと佐川静江さんに話を聞くことで、そういう障害者が表現活動することによって自分の身体や障害のことをどう捉えているのかなってことや、作品をどういう風に作ってるんだろうってことを聞きたいってところが、まずは出発点だったので…」
▼映画『へんしんっ!』を撮った石田智哉監督
石田監督は当初、全盲の俳優で演劇や朗読などで活躍している美月(みづき)めぐみさん、聴覚障害者のパフォーマーでろう学校で手話による絵本の読み聞かせなどを実施している佐沢静枝(さざわ しずえ)さんという、障害を持ちながら表現活動を行っている2人の女性のインタビューを軸にした内容を考えていました。そうした人たちを撮ることで、自分がどう変わっていくのかを大切にしたいと考えていたのだそうです。
しかしインタビューを並べるだけでは、“映画”にはならない。映画にはやっぱり“アクション=動き”が必要であることを、卒業製作の指導教授である映画監督の篠崎誠さんに指摘されます。
監督が舞台公演やパフォーマンスに挑戦!映画の内容が決定的に変わるきっかけとなったのは、映像身体学科の特任教授で、振付師・ダンサーの砂連尾理(じゃれお おさむ)さんに話を聞いたことでした。映画『へんしんっ!』の中から、砂連尾さんのインタビューです。
映画『へんしんっ!』より砂連尾理氏
単純に僕の色んな創作の動機ってのは、そこが面白いかどうかっていうことだったので、それが何て言うか、本当にまあ車椅子で動いたりしているのが、素敵な人だったので。そうやってみると、大体色々な人が誰しもに何かユニークで面白いものがあって、それは別に健常者であろうが、障害者であろうが…
▼立教大学映像身体学科特任教授で振付師・ダンサーの砂連尾 理氏と石田監督

砂連尾さんは、健常者と障害者の違いを「コンテクスト=文脈の違い」と言って、それぞれの身体の動きに興味を持って、プロのダンサーと車椅子の方が共演する舞台など演出してきました。
そんな砂連尾さんに誘われて、石田監督も舞台に立つことになったのです。はじめ全く考えなかった「自らが身体表現すること」を選んだため、映画のメインの被写体は、監督自身に変わっていきました。
▼舞台に出演した石田智哉監督

▼舞台に出演した石田智哉監督

映画の中で石田監督はダンサーの方々との舞台に立った他に、「見えない」俳優の美月さん、「聴こえない」パフォーマーの佐沢さんらとも共演してのパフォーマンスにも挑戦。多様な動きが交差するダンスのような表現活動を行ったり、多彩な人々と触れ合うことで、様々なバリアが崩れることを実感したと言います。
▼全盲の俳優・美月めぐみさん(右から2人目)、聴覚障害者のパフォーマー・佐沢静枝さん(右から3人目)らとのパフォーマンス

さて映画は撮影が終わってから1年掛けて編集を行い、完成。出品した「PFF」で見事グランプリに輝き、劇場公開に至ったわけですが、そこでは石田監督が提案した今までなかった上映方法が採られることになりました。それが「オープン上映」です。通常は聴覚障害者のために行う、登場人物の言葉を「日本語字幕」で出すのと同時に、「音声ガイド」も映画館のスピーカーから流します。一体どんな感じの上映になるのでしょうか?
映画『へんしんっ!』より音声ガイド抜粋
「第2回立教大学映像身体学科スカラシップ助成作品 PFFアワード2020グランプリ受賞作品 第33回東京国際映画祭共催・提携企画」~音楽(BGM)~「舞台に寝かされた石田監督。女性ダンサー川村さんと手のダンス。両手の先が触れるか触れないかの距離で、指を動かし合う。河村さんは白のタンクトップに白のロングパンツ。
こういった「音声ガイド」は通常、視覚障害者向けに、イヤホンなどのサービスで行うものなんですが、これをスピーカーから流すわけです。
「オープン上映」の狙いについて、石田監督はこう語っています。
映画『へんしんっ!』石田智哉監督
「ある一場面でも目をつぶったりとかして、他の人はどういう風に映画を観ているのかってことを想像することが促せたら、面白いなっていう感じはあります。94分間観ていく中で段々体に馴染んでいって、最後のラスト・パフォーマンスを見る時にそれが、開かれていいなって思います。」私は劇場での試写で『へんしんっ!』を観た際、はじめは、「音声ガイド」や「日本語字幕」に違和感も感じました。だけど見ている内に音声や字幕が映画の一部として一体化していきました。
これは障害のある方が、どのように映画を楽しんでいるか体感することで、観る者をも「へんしんっ!」させる作品なのです!

担当:松崎まこと(放送作家/映画活動家)
◆6月12日放送分より 番組名:「人権トゥデイ(蓮見孝之 まとめて!土曜日内)」
◆https://radiko.jp/#!/ts/TBS/20210612082206