「森本毅郎・スタンバイ!」(TBSラジオ、月~金、6:30-8:30)7時35分からは素朴な疑問、気になる現場にせまる「現場にアタック」。毎週月曜日は東京新聞との紙面連動企画。

7月8日(木)は今年の4月に経済財政諮問会議で突然出てきた「週休3日制」について掘り下げた「こちら特報部」の記事に注目しました。

人件費削減の口実になりはしないか??

「選択的週休3日制」は、働き方改革の一環で、労働者が週休2日か3日か選べる制度。増えた休みは介護、子育てに充てたり、兼業やスキルアップに充てる狙い。経済財政諮問会議で経団連の当時の中西会長ら民間議員から提言され、先月まとめられた「骨太の方針」に盛り込まれました。働く我々にとって大きく関わるこの制度、問題はないのか?取材をした、東京新聞・特別報道部の大平樹記者にお話を聞きました。

大平樹記者
「まだはっきりしない部分もかなり多くて、唐突感も無きにしも非ず、というところで、特に企業側から上がって来ている話だけに、これは労働者側にどれくらいのニーズがあるのかっていうのが、まだちょっとよく分からない。まあ、収入にある程度余裕があってプライベートをもうちょっと充実させたいだとか、先の見通しもある程度たっていて親が介護がちょっと大変でっていう方なんかにとっては、たぶん良いんですけれども、実際今の収入で、いっぱいいっぱいっていう方たちが、週休3日になって給料が減る、っていう事態になったときに、生活が脅かされるっていうことが懸念されます。」

今回の提言が、企業の側から出てきている点が、まず気になる、と話す、大平さん。というのも、選択的週休3日制については、既に自主的に導入している企業も出ています。その場合、2つの形があって、

①休日が1日増えるけど、その分、出社した日の労働時間を長くして、基本給は維持するパターン。

②休日が1日増える分、労働時間が減るので基本給も減るパターン。

の二つがあり、この基本給が減るパターンもできる、と考えると、企業側が、人件費を削る口実になってしまうのではないか、という懸念がある、ということなのです。この制度は、労使の合意のもとで制度を導入するという方針ですが、現在のところ、合意を担保するものはないのが問題だということでした。

馴染む?馴染まない?会社内の同調圧力は?

では、働く側は、この制度をどう感じているのか?大平さんが具体的な声を取材してみると、こんな風に感じたそうです。
大平樹記者
「飲食店さんに取材したんですけど『むしろ週休2日じゃなくて、週休1日で良いから給料増やしてほしい』。ただ、他方で会社員の方なんかは『多少給料減っても時間の余裕が欲しい』。なんにしてもそういう選択肢が増えるっていうこと自体は歓迎すべきことなのかなという風に思いますけれども、結局、じゃあ同じ職場の中で「あの人は週休3日だから、この人は週休2日だから」っていう、混在している状況って上手く回るのかなという心配はちょっとありますかね。」

選択的週休3日制は、希望した人が、週休3日を「選択」できる仕組み。ただ、実質的には、雇用する側が圧倒的に強い日本の企業の中で、会社から週休3日を選んでくださいね、と言われた時、立場の弱い労働者が拒否できるのか?暗に強要されて選ばざるを得ない、となると、ここにもまた、人件費削減に悪用されかねないという心配が出てくる。

また現実問題として、全員が週休3日ではないので、今の男性の育児休暇のように、制度としてはあっても実際には取りにくいという難しさも出てくるのでは?ということでした。

正しく運用されるか、監視が必要!

こうした問題に対し、専門家は、どう見るのか。産業社会学に詳しい立命館大学の筒井淳也教授は、働き方の選択肢が増える点では前向きに評価したいとしつつも、やはり問題点を指摘していました。

筒井淳也教授
「やはりどちらかと言うと、我々、政府が色んな制度を導入した時に、例えば裁量労働制を拡充するとか、色んなことをやろうとしてきたわけですよね、で、なんか一抹の不信を抱いてしまうんですよね、どうしても。悪用されてしまうんではないかと。実際、裁量労働的な働き方をしていないのに、裁量労働制にされてしまって時間外手当が出なかったりとか、悪用されてしまう恐れというのがどうしても出てくる。週休3日制に関しましても、選択的と言いつつ、実際の運用の場面で社員に無理強いして人件費カットを狙うと、そういった経営者が出てこないという保証は今の所はないと思います。

そういう意味で、週休3日というのは基本的には歓迎すべきことなんですけど、副作用というものに対して十分配慮する必要があると思います。」

確かにこれまでも、働き方改革の名の下に、悪用された経緯がありましたから、今後は、この選択的週休3日制が正しく運用されるか、しっかり監視することが求められるということです。また筒井さんは、大企業など余裕のある企業は、既に選択的週休3日制を導入している所もあり、それが、優秀な人材を獲得する競争にも使われている。一方で、中小企業は、一部を除き、導入する余裕がないところも多い。今のまま、ただ制度だけを導入しても、この格差が広がるだけになってしまう恐れもある。そこも問題だと話していました。

働き方改革は、聞こえはいいが、実際には、働く側が望んでいる形にならないことも多い。それでは、なんのための週休3日制?となりかねないですよね。しっかりとした監視で、働く側が嬉しい制度にして欲しいですね。

◆7月12日放送分より 番組名:「森本毅郎 スタンバイ!」
◆https://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20210712074108

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