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今回のテーマは…『犯罪被害者家族が抱える困難と、必要な支援』

犯罪被害者遺族や支援者が登壇した「千葉県民のつどい」

毎年11月25日から12月1日までの一週間は「犯罪被害者週間」。犯罪にあった人やその家族のために何ができるのかを考えるためのイベントが全国で行われます。

今回は11月26日(日)に千葉市生涯学習センターホールで行われた「千葉県民のつどい」を取材。この日は170名もの一般来場者が集まり、関心の高さが伺えました。

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この日のプログラムのうちの1つ、パネルディスカッションは『「ある日、突然、犯罪被害にあう」ということ』というテーマで、今からおよそ4年前、父親を殺人事件で亡くしたという猪狩芳江さんが、当時の状況について話しました。

『あんなに元気だった父がなぜ。信じられず、何かの間違いとしか思えませんでした。しかしその後、検索すると、殺人事件の記事が出てきて、ニュースで父のことが報道されていました。

私の隣にいた夫が「お父さん」と言って子供のように大泣きしているのを見て、これは本当のことなんだと現実を突きつけられました』(犯罪被害者ご遺族 猪狩芳江さん)

日々の事件報道の背後に、こうした遺族の苦しみがあるということを思い知らされます。そして遺族は、身内が犯罪被害に遭ったという混乱の中でも各機関での様々な手続きを余儀なくされます。そんな時にサポートをするのが、各都道府県にある、民間支援団体の「犯罪被害者支援センター」です。猪狩さん自身は当時千葉に住んでいましたが、父親は実家のある札幌で亡くなったため、北海道警から千葉県警を通じて、千葉犯罪被害者支援センターに猪狩さんへの支援依頼の連絡が入りました。

犯罪被害者支援センターによる、裁判への付き添い支援

犯罪被害者支援センターが行う支援は、まず電話やメール、面談などで、胸につかえている思いを吐き出してもらうということ。さらに「直接的支援」といって、必要に応じて、病院・警察・検察庁・裁判所などに付き添い、各種手続きの手伝いをします。猪狩さんを支援した、千葉犯罪被害者支援センターの犯罪被害相談員 藤田きよ子さんも今回のパネルディスカッションに登壇。

どのような支援をしたのかを話しました。

『付き添い支援で「どこにでも付き添いますよ」というお話をした関係で、札幌地裁にも23回、ご一緒させて頂きましたね。札幌地裁の道を隔てたホテルに2人とも宿を取っておりましたので、期日がある日には必ず朝ロビーで「今日はこんなことが行われますよね」って確認をするとともに、帰りも「今日の審理で気になる所とか感想はどうでしたか?」といつも確認していたことを覚えております。』(公益社団法人 千葉犯罪被害者支援センター犯罪被害相談員 藤田きよ子さん)

これまで一度も裁判に行ったことがないという猪狩さんに対し、藤田さんは、細かく裁判の内容を説明したり、裁判が長引く中で、猪狩さんの不安にひたすら耳を傾けたといいます。猪狩さんの父親の死から、最高裁が加害者の上告を棄却し、懲役22年の判決が確定するまで、支援はおよそ2年半にわたりました。しかし被害者の苦しみ・つらさは判決が出て終わりではありません。

そうした思いを当事者同士で共有するべく千葉犯罪被害者支援センターは自助グループ「あおぞら」の活動の場にもなっていて、猪狩さんも今、こちらに参加しています。

職場や友人の支えが嬉しかった

猪狩さんは、千葉犯罪被害者支援センターによる支援だけでなく、身近な人達の支援で嬉しかったことについても話しています。

『父が事件に巻き込まれたことを会社の上司に話して「刑事さんから電話がかかってくるのでそれに対応してもいいですか」と相談したら、気にせずどんどん協力するように言ってくださり、裁判でも友人の一人が最初に裁判の傍聴をしたいと申し出てくれ、涙が込み上げてくるほどに嬉しかったです』(犯罪被害者ご遺族 猪狩芳江さん)

千葉犯罪被害者支援センターの理事長・大橋靖史さんは「国や自治体による支援も大事だが、周りの人々みんなが支えていくことで初めて支援ができる」と話していました。

犯罪被害者遺族の思いが記された「ミニ・生命のメッセージ展」

犯罪被害者家族が抱える困難と、必要な支援

会場の入り口付近では、「ミニ・生命(いのち)のメッセージ展」も開催されました。理不尽に生命を奪われた犠牲者ひとりひとりの等身大の人型パネルに写真と家族のメッセージが添えられ、足元には遺品の靴が置かれています。保育園で、うつぶせ状態で窒息し、亡くなった9カ月の男の子。集団登校中、無免許の少年たちが運転する車にはねられた7歳の女の子。

両親が求める検視、解剖を警察が行わず自殺と断定された15歳の男の子。これらの展示を見た、お子さんがいるという女性に感想を聞きました。

「この裏にある親御さんの気持ちは、ここに書かれているだけではとても表現できないものがあると思う。(私の)子供がちょうど中学生、高校生ということで、いじめの問題とかもありますし、新聞とかに表れてるのは氷山の一角だと思うんですね。だからそういうのを、本当に少しでも減らしていけるように、大人が努力してかなきゃいけないなって強く感じました」

犯罪被害者支援の在り方とともに、理不尽な犯罪、理不尽な死を少しでも減らすため何ができるのか、ということも考えさせられるイベントでした。