環境ビジネスは、昨今急速な市場拡大が見込まれている。Fortune Business Insightsの2024年4月報告によると、再生可能エネルギーを含むグリーンテクノロジー関連の市場規模は、2023年に約165億ドルだったのが2032年までには約836億ドルにまで成長すると予測されている。

年平均の成長率は19.7%にも達する勢いだ。

環境保護はいまやどんなビジネスにも欠かせない要素にもなりつつある。「経団連企業行動憲章 実行の手引き」にも「環境問題への取り組みは企業の存在と活動に必須の要件であることを認識し、自主的、積極的に行動する」とある。

世界的に環境への意識が高まる機運のなか、植樹を加速すべくイギリスで生まれたTreeappというアプリがある。このアプリでユーザーが広告を視聴すると、広告主がTreeapp社に支払う広告料で植樹に貢献できる。

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Image Credits:Googl Play

言ってみれば“ポイ活”をして、ポイントを自分にではなく環境に還元するようなものだ。
ユーザーは自分の財布を痛めることなく植樹に貢献でき、広告主は環境保全活動をしながら広告を届けられる。財務状況は非公表だが、Treeapp自体も設立から活動を継続できるだけの資金を確保している。Win-Win-Winを実現しているわけだ。

注目高まる植樹支援アプリ「Treeapp」、イギリス司法省も顧客に

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山火事や緑化失敗ケースをきっかけに起業

Treeappは2019年にGodefroy Harito氏、Jules Buker氏、Leo King Leong Ng氏の3人によって設立されたスタートアップ。創業の理由について尋ねられたHarito氏は、起業の前年にアテネ近郊で山火事を目の当たりにした経験を語っている。森林火災の被害について耳にすることと、実際に目撃するのでは全く別物だったという。そして彼は、二度とこのような災害が起こらないように自分にできることをしようと決心した。

一方、Buker氏は別の理由を語っている。2019年、トルコが1日で1100万本の植樹を行って記録を打ち立てたものの、数か月後には90%が枯れてしまうという出来事があった。それにショックを受け、植樹のよりよい方法を模索し始めたという。

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そして生まれたのがTreeappだ。広告料を植樹にあてるサービスのほか、企業向けの植樹活動も手掛ける。Treeappを通じて植えた木の数を、各社の公式サイトに表示するウィジェットも開発。
一度サイトに設置すれば、自動的に更新されるという。

さらに、企業の二酸化炭素排出量を計算する仕組みも整えており、カーボンオフセット(相殺)に必要な木の数まで計算できる。企業としては、植樹を通じてCSR活動につなげられるメリットがあるわけだ。

二酸化炭素を削減・雇用も創出、高い信頼性で政府機関も顧客に

2024年4月、Treeappは17か国で420万本の植樹を達成したと発表している。これにより、2,733ヘクタール(東京ドーム584個分)の森林再生を達成し、59万4,543トンの二酸化炭素を吸収できたとのことだ。この二酸化炭素量は、ロンドンとニューヨークを飛行機で34万9,731 回往復したときに発生する量に相当する。

さらに各国の植樹で4万2,000日分(115年分)の労働を生み、雇用を創出。

世界に大きなインパクトを与えていると言っても決して大げさでなく、実際にTreeappの共同設立者3人はForbes誌の「世界を変える30歳未満(2022年)」にも選出されるなど、注目を集めている。

注目高まる植樹支援アプリ「Treeapp」、イギリス司法省も顧客に

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Treeappは、自社の基準で勝手に環境活動を行っているわけではない。炭素排出量はEUや世界銀行のデータを基に算出している。プロジェクトについても、Gold Standardなどの第三者機関が定める厳格な基準に沿って実施されているという。

さらに、Treeapp自体が2021年にB Corp認証を受けており、環境に配慮したビジネスを展開していることが認められている。信頼性を高めるためのこうした取り組みは、実際に功を奏している。

Treeappを採用する企業や団体の数は1,000を超えているのだ。顧客リストにはThe EconmoistやMarriott、L’Oréalなどの大手企業のほか、イギリスの司法省までもが名を連ねている。

社会貢献活動がそのままビジネスとして成立

顧客からの信頼獲得に成功しているTreeappの活動は、ビジネスとしても大いに評価されている。2021年5月にはJenson Funding Partnersからの資金調達にも成功(金額は非公表)。2022年にはBUSINESS INSIDER公式サイトで「気候変動に取り組む有望なスタートアップ」のひとつとして取り上げられている。

社会貢献活動をビジネスとして成立させるのは並大抵のことではないが、Treeappはそれを達成しているといえるだろう。

環境問題への取り組みが企業にとって必須のものになりつつある今、同社から学べることは大いにありそうだ。
なお、アプリ「Treeapp」は現在イギリスとアイルランドでしか利用できない。対応地域をこの2か国に絞っている理由を同社にメールで問い合わせたところ、「広告主のほとんどがローカル企業であるため」との回答があった。たしかに、広告主の事業がイギリスおよびアイルランド国内向けのものなら、他国で広告を出すメリットはない。

とはいえ、回答には「他国への拡大も視野に入れている」旨も添えられていた。Treeappの今後の動きに注目していきたい。

(文・里しんご)