2001年に南アフリカからイギリスに移住し、マンチェスター郊外のチョールトン=カム=ハーディに暮らしながら認知症患者を対象とする精神科医を務めているジャコ・ネルさん(52歳)は、2016年10月に人生を大きく変える悲劇に見舞われた。
その日、愛犬でアメリカン・コッカー・スパニエルの“ハーヴィー”と遊んでいたジャコさんは、手をほんの少し犬に引っかかれてしまい傷を負ったが特に気にすることもなく、手を洗った後はそのことも忘れて普通に過ごしていた。ところが2週間後、インフルエンザのような症状がジャコさんに現れた。
「暑くなったり寒くなったり、震えが止まらず体が温まることはありませんでした。体中が痛かったので、インフルエンザかと思いパートナーに『自宅へ戻って寝るから』と連絡し、秘書には全ての予約をキャンセルするよう頼んで家に帰りました。
パートナーによって救急車が呼ばれ、駆けつけた救急隊員はジャコさんの体中に敗血症の兆候である赤い斑点があることに気付いた。救急隊員は直ちに抗生物質の投与を開始したが、ジャコさんは緊急外来に到着するや否や倒れてしまい、そのままICU(集中治療室)へと運ばれた。医師らはジャコさんを昏睡状態に保ち治療を続けた。
敗血症性ショックに陥ると、生存率はわずか20%とされるという。ジャコさんの場合、腎臓が機能を失い始め、両脚が壊疽のため黒く変色し始めていた。
4か月後、ジャコさんは両膝下と右手の全指、左手指1本を切断した。更には壊疽で形が崩れてしまった顔面の再建手術も受けなければならなかった。現在、義足を装着して再び歩くことができるようになり、自立した生活が可能になったジャコさんだが、変形を留めたままの顔により自信をすっかりなくしてしまったと語る。
「顔の形が崩れてしまった事実を受け止めていかなければならないのはとても辛いことです。でもどうにもなりません。
ジャコさんの敗血症の原因について当初、医師らは当惑していたようだ。しかし3週間後の血液検査で、犬の口腔内に生殖している細菌が原因であることが判明した。結果、ジャコさんとパートナーはハーヴィーを安楽死させる決断を下した。
「直接噛まれなくても唾液を通して感染するので、もし子供や誰かが舐められて感染でもしたらとんでもないことになりますし、不安で仕方ありませんでした。自分がこんな目に遭って、一時期は激しい怒りを感じ犬を責めたりもしましたが、細菌に感染したことはただもう運が悪かったのでしょう。安楽死させたことはとても悲しいですが、ハーヴィーは老犬でいずれにしても先が短かったのです。」
生死の淵を彷徨って1年半、ジャコさんは死へ近づく経験をして障がいを抱える身となったことから、自身の患者に対しても更に理解と共感の気持ちが湧くようになったという。
画像は『Manchester Evening News 2018年4月11日付「‘My dog scratched my hand - four months later I had to have my legs amputated and surgery on my face’」(Image: Manchester evening news)』のスクリーンショット
(TechinsightJapan編集部 エリス鈴子)