アルカラスが育ったアカデミーで
U12向け短期練習プログラムを体験!
後編では練習内容などを詳しく紹介

今テニス界で最も注目を集めている19歳のカルロス・アルカラス(スペイン/世界ランキング7位)。彼が育ったファン・カルロス・フェレーロのアカデミー(以下JCフェレーロ・アカデミー)に、コロナ禍で思うようにテニスができなかった香港や中国の選手をはじめとするアジアの選手たちが数多く訪れている。
今回は、そのJCフェレーロ・アカデミーに筆者の子ども2人(11歳と9歳)が1週間滞在し、12歳以下向けの短期プログラム(U12 Competition)を受けた記録を写真付きで紹介。また、この12歳以下向けの年間プログラムに参加するための方法なども述べる。

【画像】JCフェレーロ・アカデミーは最高の練習環境! 施設の様子がわかる写真はこちら

気になる練習の内容とは?

●練習の概要

オンコートでのテニスとフィットネス(トレーニング)の割合が50%ずつ、テニスはコーチと行うドリルと、他の選手と打ち合うマッチプレーの割合が50%ずつ程度だ。

ドリルでは、Xドリルなどラテラルモビリティ(前後の動き)を重視したメニューが多い。そこにさまざまな球種を混ぜて、より試合で使えるテクニックを磨いていく。11歳の子どものグループでは、6人につき2人のコーチがつき、コート3面を使用。その3面のうち1面ではコーチとのドリル、もう1面ではアシスタントコーチとサーブリターンのドリル、残りの1面では選手のみのスーパータイブレークというように各コートで異なる練習が行われ、選手はコート1面につき2人ずつ入り、その2人ずつ各コートをローテーションしていくスタイルだ。

11歳の子どもが入ったグループには15歳までの選手がいたので、12歳以下向けのプログラムとはいえ、レベルによってフレキシブルに変更されるようだ。一方、9歳の子どもが入ったグループには他に選手が1人しかいなかった。そのくらいの年齢の選手が他にいなかったためだ。滞在している選手の層は、11歳以上でグッと厚くなるようだ。

スペインの“JCフェレーロ・アカデミー”で練習を体験! どんなテニスアカデミーなのか練習内容や施設・環境などを写真とともに紹介〈後編〉

レッドクレーのコート

●練習は選手に合わせてカスタマイズされる

筆者の子どもたちは香港で育ち、これまで基本的に香港でテニスをしてきた。
香港のコートはすべてハードコート(一部の施設を除く)のため、練習も試合もハードコートで行われる。

ハードコートでテニスをしてきた11歳の子どもがまずコーチに言われたのが、前後のモビリティが低いということ。クレーでは、ボールが不規則な跳ね方をしたり高く跳ねたりするため、前後の動きが大切だ。そのため、この指摘を受けた後のフィットネスは、前後の動きを強化するものとなった。

一方、9歳の子どもの練習では、基本的なスプリットステップ、リカバリーを早くすることなどを常に指摘されるとともに、アプローチボレーなど動きの中でポイントを取る練習を数多くこなしていた。それ以外に、タッチを使ったポイント練習も多く行っていた。アルカラスの素晴らしいタッチは、このような練習の賜物なのかもしれない。

子どもたちの練習を見ていて一つ気がついたのは、コーチが球出しをするドリルであっても常に“競争”を取り入れているということだ。単にボールを打つだけではなく、どちらがよりターゲットの中にボールを入れられたかなどを常に選手同士で競わせる。ボール拾いに関しても然りだった。このような点は、日本ではあまり見られないところかもしれない。

スペインの“JCフェレーロ・アカデミー”で練習を体験! どんなテニスアカデミーなのか練習内容や施設・環境などを写真とともに紹介〈後編〉
コート脇にも花が咲いている

コート脇にも花が咲いている

●参加している選手たちのレベル

アメリカの12歳以下のランキングで10位以内に入っている選手から、まだ初心者と言えるようなレベルの選手まで集まっていた。
世界中のさまざまなアカデミーが、グループ単位でこのアカデミーを訪れているようだった。そのためプログラムに参加する際は、前もって自分がどれくらいのレベルなのかを伝えておくといいだろう。

それでも初めから思うようなグループに入れてもらえるかは不明だ。アジアのレベルは彼らにとってよく分からないものだ、ということを覚えておくとよさそうだ。

スペインの“JCフェレーロ・アカデミー”で練習を体験! どんなテニスアカデミーなのか練習内容や施設・環境などを写真とともに紹介〈後編〉

グラス(芝)のコート

アカデミー内にある学校について

筆者が訪れた時はちょうど試験の前で、オフィスの中に設置されたスタディールームで勉強している選手がいた。アカデミーには、提携するオンラインスクールの勉強をサポートするチューターが常駐している。

とはいえ、ムラトグルー・テニスアカデミーやラファ・ナダル・アカデミーのようにインターナショナルスクールがアカデミー内にあって実際に選手が学校に通う場合とは異なり、JCフェレーロ・アカデミーではあくまでオンラインスクーリングをすることになる。

香港に住む筆者の知人は、12歳の息子をムラトグルー・テニスアカデミーに送ることにした。JCフェレーロ・アカデミーにも一時期滞在していたが、学校に通わせたいという思いから、ムラトグルー・テニスアカデミーを選んだそうだ。

ムラトグルー・テニスアカデミーやラファ・ナダル・アカデミーが人気なのは、実際に学校に通うことができるという点も非常に大きいと言える。

スペインの“JCフェレーロ・アカデミー”で練習を体験! どんなテニスアカデミーなのか練習内容や施設・環境などを写真とともに紹介〈後編〉

選手がくつろげるスペース。食後には選手だけでなくコーチたちもコーヒーを持って集まっていた

スペインの“JCフェレーロ・アカデミー”で練習を体験! どんなテニスアカデミーなのか練習内容や施設・環境などを写真とともに紹介〈後編〉

レストランはこんな感じ

JCフェレーロ・アカデミーで気になったこと

施設も環境も申し分ないアカデミーであるが、いくつか帯同者として気になった点があったので紹介したい。


●ちょっとした物を買う店がない

滞在中に最も気になったのが、日用品などちょっとした買い物ができる場所がないことだ。練習の申し込みをした後、持ち物が書かれたメールが届いたのだが、そこにシャンプーやボディシャンプーなどが書かれていた。これらは施設内で購入することができないので、前もって購入して持っていくのを忘れずに。

また、練習と練習の合間に時間があるので、そうした時に毎回クレー(土)やグラス(芝)で汚れたテニスシューズを履かなくてもいいように、サンダルを持参しておくと大変便利だ。

滞在中の部屋には冷蔵庫と電子レンジが置かれているので、車でアカデミーに来るのであれば、途中で簡単な食べ物や必要なものを購入しておくといいだろう。

スペインの“JCフェレーロ・アカデミー”で練習を体験! どんなテニスアカデミーなのか練習内容や施設・環境などを写真とともに紹介〈後編〉

部屋に置かれていた冷蔵庫と電子レンジ

●レストランが一つしかない

帯同者の悩みの種になり得るのが、レストランが一つしかないということだ。食堂は選手用と帯同者用とで分かれており、帯同者は朝のみ、選手は全食分が費用に含まれている。

レストランのメニューには、サラダや肉類、魚類などが用意されているが、同じメニューでもその日によって塩加減や焼き具合、さらにはマッシュポテトが付いてくるのかこないのかまで異なる。それでも一食2,000円以上かかるため、気軽にいつでもおいしいものを食べられる日本から来た筆者にはなかなかきつかった。とはいえ、子どもたちは毎日「ご飯がおいしい」と言ってたくさん食べていたので、アカデミーに来た目的を果たすという意味では問題ないと言えるだろう。

ちなみに、パエリアなどもメニューにあるのだが、米を食べたければ前日にオーダーする必要がある。

●施設内で洗濯をすることができない

毎日の練習で洗濯物が大量に出るにもかかわらず、施設内には洗濯機が用意されていない。
ランドリーサービスはあるが丸1日待たなければならず、荷物をできるだけ減らしたい日本やアジアから来た人にとってはなかなか厳しい。ちなみにランドリーサービスは1kgあたり8ユーロで利用することができる。

朝の練習が終わると、コーチが「シャワーを浴びてから食堂に集合!」と言うため、子どもたちはシャワーを浴びに部屋に戻ってくる。すると当然、洗濯物が出る。筆者はひたすら手洗いをしたが、乾かす場所も限られているため部屋に設置されているドライヤーで必死に乾かした。幸いドライヤーは非常に強力だったので助かった。

●部屋でお湯を沸かすことができない

部屋にケトルがないため、お湯を沸かすことができなかった。ちょっとコーヒーを飲みたいと思った場合もレストランに行く必要がある。長期滞在で来るなら、町でケトルを購入して持ってくるのも一案だ。耐熱性のマグカップを持参すれば、部屋に設置されている電子レンジで水を温めることもできそうだ。

テニスだけするには最高の施設!

滞在してみて分かったことは、JCフェレーロ・アカデミーはテニスの練習を行ううえで最高の環境である、ということだ。施設にはテニスに集中するためのすべてが整っている。
テニスの合間には自然の中で散歩をしてリラックスしたり、スイミングプールで遊んだりすることもできる。他の選手と卓球やサッカーをしたりするのもテニスの動きに役立ちそうだ。逆に言えば、それ以外のものは何もない。そのような意味で、プロを目指すジュニアにとってはこれ以上ない環境だと言えるだろう。

なにより練習に参加した子どもたちは「このまま、ずっとここにいたい」と言うほど楽しかったようだ。

スペインの“JCフェレーロ・アカデミー”で練習を体験! どんなテニスアカデミーなのか練習内容や施設・環境などを写真とともに紹介〈後編〉

アカデミーのボスと言われている犬のリマ

年間プログラムに参加できるのは
トライアウトで合格した選手だけ!


●年間プログラムに参加するにはどうしたらいい?

JCフェレーロ・アカデミーでは今回の筆者のように短期だけ参加するビジターと、年間プログラムに参加している選手をはっきり分けている。年間プログラムに参加するには短期のトレーニングの間にコーチに認められる必要があり、参加している選手はどの国でも同年代でトップレベルの選手だけだ。

ランキングだけでなくUTR(ユニバーサル・テニス・レーティング/※独自のアルゴリズムによってテニス選手のレベルを導き出すシステム)のスコアも欧米では重要視される傾向がある。実際にムラトグルー・テニスアカデミーに問い合わせをした際、アカデミー側から選手のUTRスコアを確認されたことがあった。

希望するアカデミーの練習に参加するためには、目に見える形で実績を積んでおくこと、そしてトライアウトで行われるマッチプレーで結果を残すことが大切だ。

●12歳以下の場合、親と同居するのが基本

施設内には選手が居住するための施設が用意されている。とはいえ、14歳以下は基本的に親との同居を勧められるため、年間プログラムに参加する選手の親はアカデミーのそばに引っ越してくることが多いようだ。


アカデミー側が親との同居を勧める理由は、過去に早い年齢で親元を離れて施設で暮らしていた選手がホームシックになってしまったことがあったから、ということのようだ。筆者が実際にアカデミーで知り合った家族も、イギリスから家族全員でアカデミーの近くに引っ越してきていた。

短期プログラムの予約について

予約に関しては、メールアドレス(comercial@equelite.com)に連絡し、希望する滞在の日程を伝えると空きがあるかどうかを教えてもらえる。支払いはアカデミーから送られてくるリンクで行うため、振り込みではなく便利だ。デポジットと残りの分の決済が2回行われる。

※プログラムの詳細は下記URLを参照
https://www.equelite.com/wp-content/uploads/2021/01/ENG_Petit-Competition-U12.pdf

Q&A

――空港までの送迎は行きも帰りも可能なのか?
可能。行きはフライト(便)の番号を伝えることで対応してくれる。基本的にJCフェレーロの短期プログラムは月曜日から土曜日の午前までなので、帰りは土曜日の朝の練習が終わってから送迎となる。

――親が帯同する場合、子どもと親が一緒の部屋に滞在できるか?
滞在できる。大きい子どもでも親と一緒の部屋に滞在していた。

――夜間にアカデミーに到着する場合どうしたらいい?
以下の電話番号にかければ何時でも対応してもらえる。
+34 685 12 68 48

――部屋の清掃サービスはあるのか?
部屋の掃除は費用に含まれる。毎日掃除してもらうことも可能。

ーー練習は何語で行われる?
英語、あるいはスペイン語。選手の国籍によって使い分けられている。

スペインの“JCフェレーロ・アカデミー”で練習を体験! どんなテニスアカデミーなのか練習内容や施設・環境などを写真とともに紹介〈後編〉


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