豊岡新駅のイメージパース。駅前広場やパークアンドライド駐車場が整備されます(画像:高崎市)

群馬県高崎市を走るJR信越線に3年後の2026年度、新駅が開業します。

JR東日本(高崎支社)と高崎市は2023年3月27日、「公共交通を軸とした都市の持続的発展に関する連携協定」を締結。実践策の一つとして、信越線北高崎―群馬八幡間の「豊岡新駅(仮称)の設置」が盛り込まれました。

人口36万8000人の中核市・高崎市は、地方都市の定番となっているマイカーが移動手段の主役を受け持っていますが、市側は新駅に向けたアクセス道路や駅前広場を整備して鉄道の利用環境を整え、高齢で免許を返納しても住み続けられる地域づくりを目指します。新駅のアウトラインとともに、JRや市の考え方をまとめました。

新駅を中心にしたまちづくり

JRと高崎市の協定内容は、①誰もが移動しやすい環境の確立、②駅を中心としたまちづくりの推進、③北関東屈指の交通拠点性を生かした交流人口の拡大――の3項目。豊岡新駅は、まちづくりの実効策です。

最初に新駅のスペック。

北高崎から2.6キロ、群馬八幡から1.4キロで、所在地は高崎市中豊岡町・下豊岡町。新駅付近は上下線の線路が離れているようで。ホームは上下別々の2面2線。ホーム長125メートル(6両対応)、ホーム幅2.1~4.0メートル。無人駅で、簡易Suica改札機を設置します。

1日当たりの乗車人員見込みは1600人。

JR東日本と高崎市の役割分担では、JRが旅客ホームや階段、スロープを整備し、システムも改修。市は駅前広場や駅前ロータリー、駐車・駐輪場、公衆トイレを整備します。駅前広場は約1.5ヘクタール、駐車場は約120台分を用意します。高崎市の請願駅で、現在はJR東日本による駅設計の段階。整備費は市が全額を負担します。

「豊岡地区は平坦で十分な広さを有する」

ところで、新駅の構想は、いつごろ持ち上がったのか。2018年度から10年間の「高崎市第6次総合計画」に、「公共交通網の強化と地域住民の利便性向上のため、JR信越線北高崎駅と群馬八幡駅間の新駅設置に向けた取り組みを進める(大意)」のフレーズが見付かりました。

さらに高崎市のホームページを検索すると、2019年5月の市民の投書がヒットしました。「新駅を豊岡町に設置する方針とお聞きしましたが、上並榎町に変更してほしい」。上並榎町は、豊岡町より1キロほど北高崎(高崎)寄りです。

これに対し、高崎市都市計画課は「駅位置について、鉄道ではホーム曲線の制限や勾配に関する規定があり、適合する場所を選定する必要があります。豊岡地区は平坦で十分な広さを有することから候補地としました(大意)」と回答。豊岡地区が駅候補地に選ばれた理由が分かります。

鉄道の街・高崎

もう少し、高崎市が新駅整備を判断した理由を探りましょう。鉄道ファンならご存じ、高崎は「鉄道の街」です。JR東日本は、国鉄時代の高崎鉄道管理局を引き継いだ高崎支社を置き、JR貨物の高崎機関区もあります。

市はマイカーに比べて環境負荷を低減できる鉄道を持続可能な社会づくりの有効手段と位置付け、シニアの移動手段確保とともに、住民の利便性向上につながるとして、JRに新駅設置を働き掛けました。

新駅周辺には、住宅団地や工業団地が立地。さらに、新駅の恩恵を受けるのが1キロほど北方に位置する高崎経済大学です。

学生数約4000人。

高崎駅方面からの通学手段の現在の主力はバスですが、現状は「授業が終る時間はバスが満員で乗れないことがあり、次の便まで30分以上も待たねばならないこともある」「バスの利用者が減っているせいか、学生で混雑する時間帯でも小さめのバスが来ることがあり、そのことも混雑の原因になっている」といった声が聞かれます。

公立大学法人の高崎経大は元々、高崎市立の大学。高崎市と情報共有化が図られ、大学側も市に新駅設置を働き掛けたようです。

イチから分かるJR信越線の「豊岡新駅」 北高崎ー群馬八幡間に2026年度開業【コラム】
新駅と高崎経済大、国道18号線の位置関係。新駅は国道と経済大のほぼ中間に位置します(画像:高崎市)

市のアンケート調査では、「(新駅が開業すれば)利用する」の回答割合は、一般市民14.73%、周辺事業所15.37%に対し、高崎経大生は22.85%で、最も高くなっています。

新駅と高崎経済大、工業・住宅団地の位置関係は別図の通りで、高崎市は国道18号線から新駅と国道406号線を経由して、経済大・経大前通り(正式には県道あら町下室田線)を結ぶアクセス道路を整備する方針。

経済大南側の烏川には、「豊岡経大大橋」(仮称)を架けます。

「高崎市の熱意で新駅開設を決断」

イチから分かるJR信越線の「豊岡新駅」 北高崎ー群馬八幡間に2026年度開業【コラム】
連携協定を交わす南沢JR高崎支社長(右)と富岡高崎市長(左)(写真:高崎市)

高崎市役所での協定締結セレモニーでは、JR高崎支社の南沢千春支社長と高崎市の富岡賢治市長が協定書にサイン。

南沢支社長は「高崎市の熱意が新駅開設を決断させた。協定締結を機に、市との連携を一層強化したい」、富岡市長も「JR東日本に大変な努力をいただき新駅設置が正式決定した。早期開業に向けてJRと連携していく」とエールを交換しました。

かつては関東と長野、北陸を結ぶ幹線、安中市にも新駅計画

高崎市内のJR新駅は、2004年に10月開業した上越線高崎ー井野間の高崎問屋町駅以来(吾妻線と両毛線の列車も停車します)。高崎問屋町も群馬県と高崎市が整備費用を負担した請願駅で、今回の新駅もその時の蓄積(ノウハウ)が生かされたといえるでしょう。

振り返れば群馬県内の信越線は、現在は高崎ー横川間のローカル線ですが、1997年の北陸新幹線(当時は長野(行)新幹線の名称でしたね)開業までは、「あさま」や「白山」の在来線特急が毎日20往復以上も走り、EF63の補機を繋いで碓氷峠を越える列車の姿を追い求めた、ベテラン鉄道ファンの方もいらっしゃるでしょう。

新幹線開業で横川ー軽井沢間は廃止されましたが、横川駅隣接地には「碓氷峠鉄道文化むら」があり、峠越え鉄道の歴史を今に伝えます。

JR東日本は、新幹線開業後も高崎ー横川間を自社で運営しています。信越線のこの区間では高崎市の西隣の安中市にも新駅のプランがあり、同市は2022年9月、新駅を盛り込んだ市の新しいマスタープランを練り上げる方針を打ち出しました。高崎市の新駅がモデルになって、近隣市にも波及効果をもたらすか。注目しておきたいところです。

記事:上里夏生