熊本鉄道紀行の後編は、熊本空港(愛称名・阿蘇くまもと空港)への鉄道アクセスの〝先行体験記(?)〟です。
アクセス鉄道の着工と開業時期について、県は2023年3月、「2026年度中に着工、2034年度末に開業」のスケジュールを示しています。予定通りでも開業まで10年以上ありますが、実はその多くは今でも体験できます。今回は東京(成田)への帰路、熊本駅→JR豊肥線→肥後大津駅→空港ライナー(ジャンボタクシー)→阿蘇くまもと空港のルートで、アクセス鉄道を実体験しました。
開業は12年後!?
まずは前回コラムをおさらい。熊本県は空港アクセスの改善策を検討する中で、JR豊肥線の既存駅から空港までの鉄道新線を建設する、「JR豊肥線の延伸」を選択しました。
空港への分岐駅は熊本側から、三里木、原水、肥後大津の3案が考えられるところ、もっとも利便性の高い肥後大津が最適と判断。JR九州との間で肥後大津ルートで合意し、確認書を交わしました。

熊本県は空港アクセス改善について、有識者とJR九州、九州産交バスなどで構成する、「熊本空港アクセス検討委員会」で協議してきましたが、2023年3月の会合で大まかなスケジュールを示しました。
それによると、今後3年間で概略設計と環境アセスメントを行い2026年度に着工。工期およそ8年で、2034年度末(実際は2035年春と思われます)に開業としました。
鉄道とタクシーを乗り継いで空港へ
熊本空港アクセス鉄道に乗車できるのは早くても12年後のようですが、現在もこれに近いルートを先行体験することはできます。それが鉄道とタクシーを乗り継ぐ、「熊本空港ライナールート」です。
熊本市内から空港にアクセスする場合、熊本駅から肥後大津駅までJR豊肥線に乗車。肥後大津と空港を結ぶ新線の熊本空港アクセス鉄道部分は、道路交通が肩代わりします。熊本空港ライナーは、肥後大津から空港へのタクシーの愛称名。2011年からの試験運行を経て、2017年には本格運行に移行しました。
空港ライナー、その実態はジャンボタクシーです(運びきれない場合など、状況に応じて小型タクシーが使用される場合もあります)。ドライバーを含め10人乗り。運転は地元のタクシー会社が交代で受け持ち、経費は行政や関係機関が共同負担します。季節によって多少の違いはあるようですが、肥後大津発空港行きは6~19時台におおむね30分に1本のダイヤです(熊本空港発は到着便に合わせて21時台まで設定)。
熊本県は、空港ライナーに空港アクセス鉄道の先行投資的な意味合いを持たせます。何より運賃無料というのが、利用客にとってのおすすめポイントといえるでしょう。
切り欠きホームのある熊本駅

それでは、ライナールートで空港へ。熊本駅から肥後大津駅まで、JR豊肥線の列車に乗車します。熊本駅は高架上に九州新幹線と在来線のホームが並びます(双方の間には、もちろん仕切りがありますが)。
在来線は中間駅タイプで一般的な2面4線に近い構造ですが、下り(八代方面)1番ホームと上り(博多方面)4番ホームには切り欠きがあって、実質は2面6線の構造です。
1番ホームの先に2番ホームがあります。利用した平日午前中の時間帯は、豊肥線の普通列車は1番ホーム、特急「あそ」など優等列車は2番ホームと、発車ホームを使い分けます。
切り欠きホームは、関東でもJR高崎駅や京急蒲田駅にあり、限られたスペースを有効活用できるメリットがあります。乗り間違いを防ぐ効果もありそうですね。
書き忘れましたが、JR熊本駅には大型複合施設「アミュプラザくまもと」が入る駅ビルも。肥後大津には限られた商業施設しかないので、熊本土産は駅ビルで選んだ方がベターかもしれません。
「あそBOY」がファンを魅了した線区
熊本発の豊肥線列車は、1時間当たり片道2~4本運転され快適に利用できます。鉄道ファンには、JR九州が1988~2005年に運転したSL列車「あそBOY」が記憶に残るかもしれない豊肥線は、熊本ー肥後大津間と肥後大津より先で運転状況が大きく異なります。
熊本ー肥後大津間は電化されて沿線開発が進み、最近は列車本数や利用客数の伸びといった指標がJR九州の在来線線区でトップクラスにランクされます。
熊本から肥後大津までは途中10駅、40分弱の行程で、チェックしたい途中駅が南熊本ー水前寺間の新水前寺駅。JR九州発足後の1988年3月に開業した新駅で、高架上1面1線のホームの下を熊本市電が走ります。駅近隣にあるのが熊本市立図書館で、私は途中下車して熊本電鉄の資料を調べました。

肥後大津駅は2面3線
豊肥線は全線単線ですが、熊本空港アクセス鉄道の分岐駅候補になった三里木、原水、肥後大津の3駅にはいずれも行き違い設備があります。肥後大津は熊本からの電化区間とその先、大分までの非電化区間の境界線で、2面3線のホームがあります。
肥後大津駅付近に大きな商業施設はありませんが、近隣には大分市と長崎市を結ぶ国道57号線の菊陽バイパスが走っていて、かなりの活気があります。
駅前には空港ライナーのジャンボタクシーが待機していて、予約不要で乗車できます。日によって違いはあるのでしょうが、利用した6月7日午後便は乗客定員9人に対し8人が乗車。観光旅行らしい人は見当たらず、全員が旅慣れたビジネス客や出張客という印象を受けました。

肥後大津駅から熊本空港までは、道路渋滞もなく15分程度で到着。豊肥線沿線には半導体工場の建設計画が浮上するなど、今後の発展が約束されます。新型コロナのような不測の事態はさておき、地域の明るい未来に連動して、豊肥線や熊本空港アクセス鉄道にも可能性が広がることを実感しながら、熊本を後にしました。

記事:上里夏生
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