JR東日本グループの品川周辺のまちづくり戦略が本格始動します。JR東日本では、浜松町駅~大井町駅間の東京南エリア一体を、国際都市東京の未来を拓くエリアと位置づけ、「広域品川圏(Greater Shinagawa)」という名称でまちづくりを行っています。
東京都内の各所で進む大規模な再開発
都内では、大規模な都市再生プロジェクトが進められています。渋谷では東急グループが「渋谷スクランブルスクエア」や「桜丘地区再開発」で駅周辺を一体整備し、新宿では小田急・京王・JR東日本による西口・南口の再開発が、丸の内・八重洲エリアでは三菱地所や三井不動産がオフィスと商業・ホテルを融合させた街づくりを展開しています。虎ノ門・麻布台地区では森ビルが「麻布台ヒルズ」を開業し、緑化空間と国際ビジネス拠点を組み合わせた新しい都市モデルを提示しました。
JR東日本が掲げる「広域品川圏」の都市戦略
品川にはリニア中央新幹線の東京側の始発駅が設けられる予定で、開業は2030年代を見込んでおり、東京と名古屋を最速40分で結ぶ計画があります。また、羽田空港アクセス線(仮称)の本格工事が始まり、東京駅と羽田空港を直通で結び、所要時間は約18分を目指す計画です。

JR東日本グループは、このリニア中央新幹線や羽田アクセス線(仮称)の整備を見据え、駅ごとの開発を点ではなく「広域品川圏(Greater Shinagawa)」というエリアとして一体で捉える戦略を推進しています。目的は、グローバル都市間競争における国際都市東京のバリューアップです。広域品川圏エリア全体での2030年代半ばまでの目標として、床面積約150万㎡、営業収益約1,000億円超/年の事業展開を視野に入れています。
「Suica」で進める都市DX
JR東日本は、この広域品川圏の都市戦略を進めるにあたり、交通ICカード「Suica」を活用した都市DX(デジタルトランスフォーメーション)の実証拠点を整備し、水上交通や水素バスなど環境負荷の少ないモビリティの導入を進めます。駅でのウィークスルー改札の検証であったり、空飛ぶクルマや自動運転の実証実験も行い、生活と交通が融合する次世代の都市モデルとして、持続可能で回遊性の高いシームレスな移動エリアの形成を目指すとしています。

現在の広域品川圏構想の中心となっているのは、2026年春の開業を控える2つの拠点、高輪ゲートウェイシティと大井町周辺の地域になります。
「TAKANAWA GATEWAY CITY」グランドオープン
高輪ゲートウェイシティは、品川駅北側の車両基地跡地を再整備したもので、2025年春に一部(THE LINKPILLAR 1)を先行開業し、2026年3月にはその他の街の施設が開業することで、駅街一体開発の特徴を持つ国際交流拠点となる「TAKANAWA GATEWAY CITY」がグランドオープンする予定です。

コンセプトは「100年先の心豊かな暮らしの実験場」。オフィス、ニュウマン高輪などの商業施設、ホテル、ミュージアムなどが集積し、国際的なイノベーションの拠点となります。
泉岳寺駅直結する複合ビル「THE LINKPILLAR 2」は、”誰もが100年心豊かに生きられる社会の実現”を掲げ、「メディカル」と「ウェルネス」のキーワードとして健康をデザインする場となります。

街の文化創造を担うミュージアム「MoN Takanawa(モン高輪): The Museum of Narratives」では、放送作家・小山薫堂氏が総合プロデューサーに就任し、伝統と現代文化を組み合わせた展示や企画を通じて、都市の文化的価値向上を目指すとしています。

総戸数847戸のプレミアム賃貸住宅「TAKANAWA GATEWAY CITY RESIDENCE」も、2026年4月からの入居開始を予定しています。

TAKANAWA GATEWAY CITYは、広域品川圏の中核を担う都市として、「人財・叡智」「医療」「水素・GX」の3つを軸として、100年先の心豊かなくらしの創造を目指す場所として開発が進みます。
広域品川圏の北端「浜松町駅」周辺での動き
少し北の浜松町。JR東日本が開発し2020年に開業した「ウォーターズ竹芝」では、劇場・ホテル・オフィス・商業が一体化した水辺のまちづくりが行われました。竹芝桟橋に隣接する立地を生かし、東京湾岸のにぎわい再生と文化拠点の形成を目的に整備されたエリアです。施設内には劇団四季の専用劇場、ホテル、アトレ竹芝などが集積。芝生広場やデッキを通じて水辺と街がつながる開放的な景観が特徴で、企業活動や観光、地域住民の憩いの場としても機能しています。

浜松町駅南側の「ブルーフロント芝浦」は、JR東日本と野村不動産が進める2つの高層ビルが主体の再開発です。2025年9月1日に1つ目の「BLUE FRONT SHIBAURA TOWER S」の商業施設・オフィスやフェアモント東京ホテルなどの建物全体が開業しました。

またJR浜松町の駅では、北口橋上駅舎と東西自由通路の工事が進み、「世界貿易センタービルディング(本館)」の再建が進んでいます。モノレール浜松町駅の建替えを含む再開発で、駅前地域全体が大きな変更が、が予定されています。
広域品川圏の南「大井町駅」周辺開発、いよいよ来春開業へ
大井町駅周辺で進む再開発プロジェクトでは、「大井町トラックス」が、鉄道車両工場として発展してきた地域の歴史を受け継ぎ、「生活密着型」の複合施設として誕生します。
大井町駅は1927(昭和2)年に開業し、長くJR東日本(旧国鉄)や東急線の結節点として発展してきました。
かつて周辺には鉄道車両工場や社宅が立ち並びましたが、近年の再開発で、商業施設や高層マンションが集まる生活拠点へと姿を変えています。駅には現在、JR京浜東北線、東急大井町線、東京臨海高速鉄道りんかい線が乗り入れ、都心や臨海部を結ぶアクセス拠点として機能しています。
今回の再開発によって、品川区庁舎の移転を含む、周辺エリアの整備も本格化します。

再開発の対象は、JR大井町駅北側から東急大井町線沿い品川区役所付近までの、旧JR社宅跡地など約3万平方メートルに及び、駅のコンコースが拡張され、新たに改札が設けられる予定です。ペデストリアンデッキや広場の整備も進められる見込みで、駅と街をシームレスにつなぐ新たな都市空間を目指すとしています。
「大井町トラックス」はビジネスタワーとホテル&レジデンスタワーのツインタワーで構成されます。

アトレが手掛ける「OIMACHI TRACKS SHOPS & RESTAURANTS」は、歩行者デッキや広場に面した開放的なアウトモール型商業施設として整備されます。1~5階に81店舗が出店予定で、おにぎり戸越屋、銭場精肉店など、地元・品川区にゆかりのある店舗の出店も計画されています。
また映画館「TOHOシネマズ大井町」(仮称)は8つのスクリーンを備え、ドルビーシネマなどの特別仕様を含む最新の上映設備を導入する計画です。

この地域に新しくできるホテルとしては、客室数285 室の「ホテルメトロポリタン 大井町トラックス」が、ホテル&レジデンスタワーの5~13階・26階に入居する事が決まっており、まちびらきと同日の2026年3月28日に開業する予定です。
住宅としては、賃貸のレジデンスと、1カ月以上の長期滞在向けのアップスケールサービスレジデンス「オークウッド大井町トラックス東京」が整備されます。アップスケールサービスレジデンスは、ホテルのようなサービスが受けられる長期滞在向け住宅で、国内外のビジネスでの利用のほか、近年人気の長期ステイの旅行需要にも対応できる施設です。SOHO対応区画や共用ラウンジ、テラスなど、多様なワークスタイルや居住ニーズに応える機能を備える計画です。

「広域品川圏」におけるサステナブルな環境先導まちづくり
JR東日本は、2050年度までにCO₂排出量の実質ゼロを目指す取り組みを行っています。広域品川圏の各施設においても、省エネ・創エネ・エネルギーマネジメントを通じて、持続可能なまちづくりを推進します。
高輪ゲートウェイシティ
高輪ゲートウェイシティには、国内最大級の蓄熱層を有するエネルギーセンター「Energy Management Center」を備え、AIによる熱源制御で高効率なエネルギーマネジメントを実現します。

また、高輪ゲートウェイシティ内では、モビリティや街内の物流など、様々な場面での水素利活用の取り組みを行います。将来的には、水素由来の電気や熱エネルギーを街の中へ供給することで、水素が街の基幹エネルギーの1つとなる未来を目指します。
さらに、ビルイン型バイオガス設備が整備され、街から発生する廃棄物や資源をリサイクルし、街内で有効活用するサーキュラーエコノミーの取り組みも始まります。商業施設の飲食店等から出る食品残渣を資源として再利用、発酵させてガス化することで、食品廃棄物の約7割の減量を見込み、生成されたガスを燃料にホテル給湯の約10%の熱を賄う計画です。

大井町トラックス
大井町トラックスでは、東京ガスと協力しての「ゼロカーボンに向けたまちづくり」が行われます。
環境対策として、コージェネレーションシステム、街区内における地域熱供給(DHC)、太陽光パネルなどを導入することによって、一般的なビルに比べて、CO2排出量を約50%削減できるという計画です。再生可能エネルギー証書の活用などにより、実質ゼロカーボンのまちづくりを実現するとしています。

広域品川圏にナイトタイムエコノミーエリアを形成
2024年の訪日外国人観光客は約3687万人に達し、過去最高を更新しました。しかし外国人観光客からは、日本では夜に楽しむことが出来るコンテンツや場所が少ないという声があがっているとされています。広域品川圏においては、東京のさらなる国際競争力向上に寄与するため、充実した夜の時間の過ごし方を提案。「和」「伝統とモダンの融合」や「アニメ/ポップカルチャー」等をテーマにした、夜間のユニーク体験などが考えられています。
高輪ゲートウェイシティでは、先行開業後に、期間限定で夜のイベントなどが行われました。大井町トラックスには、山手線の車両基地を一望できるルーフトップバーが設けられ、夜の車両基地が眺めてのナイトタイムエコノミーの拡充にもつながるとみられます。

「広域品川圏」の広場で賑わいの創出
JR東日本によると、広域品川圏の全体で、合計約5万㎡(東京ドーム1個分)を超える広場空間が創出されるといいます。JR東日本グループで、この広場空間を一体活用したビッグイベントの展開を計画しています。

多様なモビリティの活用
このエリアでは、モビリティ事業者と連携し、駅から目的地までのラストワンマイルを補完し、移動そのものが観光資源にもなるような取り組みを行います。水上交通や水素バス(※1)の活用、空飛ぶクルマやオンデマンドモビリティ、自動運転の実証実験等、このエリアならではのモビリティの未来を拓くユニークで回遊性の高いシームレスな移動エリアの形成を目指します。

JR東日本が展開する「広域品川圏」戦略は、東京南エリアの可能性を最大限に引き出し、国際競争力を高めるための壮大な計画です。2026年3月28日の二大拠点同時オープンを皮切りに、このエリアは国際交流、ビジネス、そして生活の質を一変させる「未来都市」へと進化します。
(画像:JR東日本、鉄道チャンネル)
鉄道チャンネル編集部
(旅と週末おでかけ!鉄道チャンネル)