フットボール史上最もすぐれたMF
多くの名選手たちから賞賛を浴び、MFのお手本と言っても過言ではない photo/Getty Images
スライディングタックルはたしかにヘタだ。角度もタイミングもズレているため、ボールではなく対戦相手を削るケースもしばしばあった。本人が「故意ではない」と不満そうに訴えても、イエローカードが提示されるのは当然だ。
しかし、粗野な選手ではない。バルセロナを率いていた当時のジョゼップ・グアルディオラが「フットボール史上最もすぐれたミッドフィルダーのひとり」と絶賛し、シャビ・エルナンデスとアンドレス・イニエスタも憧れていたのだから、そのセンスは本物だ。
ポール・スコールズ──。
マンチェスター・ユナイテッドに数多くのタイトルをもたらしたこの男は、公称168センチのハンデを感じさせないほど洗練されていた。ワンタッチ、あるいは緩急の使い分けでマーカーを嘲笑ったり、寸分の狂いもないロングフィードを配したり、つねに異彩を放っていた。
中盤センターではなく二列目中央が適正か!?
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長きに渡り、攻守両面でユナイテッドの中盤を支えてきた photo/Getty Images
フットボール業界からスコールズに送られた賛辞はまだまだ続く。
「美しく、かつパワフルに、彼はなんでもできるんだ」(ティエリ・アンリ)
「いつの時代でもベストイレブンのひとりに選ぶよ」(パトリック・ヴィエラ)
「ラ・マシアがつねに意識していた選手。教師のような存在だった」(リオネル・メッシ)
「アタッキング・ミッドフィルダーとしては世界最高」(ヨハン・クライフ)
スコールズと相まみえた名手、名将の証言には説得力がある。また、ユナイテッド、イングランド代表で同じ釜の飯を食ったデイビッド・ベッカムに、「スコールズを思い出したよ」と話しかけられたルカ・モドリッチは、「最高の誉め言葉だよ」と興奮していたという。
さて、数多くの賞賛が証明するように、スコールズはワールドクラスのMFだった。しかし、本領を発揮できたのかという疑問も生じている。
彼が全盛期を迎えていた1990年代中期以降の10年間、ユナイテッドは[4-4-2]がベースだった。
先述したスコールズの特徴を踏まえると、[4-3-3]の中盤インサイド、もしくは[4-2-3-1]の二列目中央が適正だったかもしれない。仮に後者の場合は中盤をキーンとニッキー・バットが支え、二列目は右からベッカム、スコールズ、ライアン・ギグス、1トップにアンディ・コール。
守備の負担が軽減されるスコールズのワンタッチパスがベッカムのピンポイントクロス、ギグスのドリブル突破を誘発し、コールはチャンスの連続。スコールズが得意としていたミドルも精度と凄みを増していたのでは、と想像するだけで胸がときめいてくる。
いぶし銀の妙味で恩師にプレゼント
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12-13シーズンをもって勇退した恩師ファーガソンと2度目の引退したスコールズ。リーグ制覇を成し遂げ、ともに有終の美を飾った photo/Getty Images
2010-11シーズン終了後、スコールズは視力障害で一度は現役を退いている。しかし12年1月、負傷者続出の古巣を見かねて復帰。17試合で4ゴールを挙げ、チャンピオンズリーグ出場権確保に少なからず貢献した。
さらに翌シーズンは16試合・1得点に終わったものの、いぶし銀の妙味で攻撃を彩り、勇退するサー・アレックス・ファーガソン監督にプレミアリーグ優勝という格別のプレゼントを捧げている。
スコールズがふたたびユニフォームを脱いだ12-13シーズン以降、ユナイテッドはプレミアリーグを制していない。
「あのふたりを同時に起用するなんて、もはや犯罪だ」
スコールズ自身も絶望している。
彼の後継者など現れはしない。シャビやイニエスタ、メッシ、グアルディオラ監督が絶賛した攻撃的MFの再来は期待するだけ空しい。しかし、一歩でも近づくための努力だけはすべきだ。
「スコールズは人一倍トレーニングを積み重ね、彼特有のセンスに磨きをかけていた」
サー・アレックスのコメントを、現役の選手たちは真摯に受けとめなくてはならない。
文/粕谷 秀樹
※電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)272号、8月15日配信の記事より転載