今回の放送では、愛と経済の伝道師“宗さま”こと株式会社アイ・パートナーズフィナンシャル上席執行役員の宗正彰(むねまさ・あきら)さんに、「上昇が続く“日本の株式市場”と“最低賃金”過去最大の引き上げ」というテーマでお話を伺いました。
(左から)宗正彰さん、マンボウやしろ、浜崎美保
◆日経平均株価が好調に推移!その理由は?
浜崎:今回、宗さまには「上昇が続く“日本の株式市場”と“最低賃金”過去最大の引き上げ」についてお話しいただきます。
やしろ:まずは、昨日、今日と日本の株式市場は右肩上がりといった感じですね。過去最高値を更新して、大きくニュースになっております。
宗正:日経平均株価は市場最高値を昨日、今日と更新し、43,000円台に突入しました。実は以前は、ちょうど今ぐらいの時期の株式市場を指して「夏枯れ相場」なんて呼んでいました。お盆休みの今の時期には、機関投資家のようなプロの市場参加者もお休みを取るということで、相場の動きが鈍りがちでした。値動きも小幅で、夏枯れ相場の時期につけた株価の最安値を「夏底」なんて呼んでいました。
ところが今は、夏枯れ相場どころか、夏を通して株式市場が大きく動いていますよね。理由の1つには、お盆の時期にそういったプロの投資家が一斉に夏休みを取るような習慣がなくなったことが挙げられるでしょう。
それから個人投資家が増えたことも影響していると思います。夏休みだからこそ、株式市場に参加できるということです。
やしろ:お盆の時期も関係なく動いているということですね。
宗正:特に今年の夏はトランプ関税の動きも続いて、株式市場を動かす材料にも事欠かない状況でしたからね。
やしろ:今年に入ってすぐに、宗さまは「トランプ大統領に世界中が振り回される一年になる」というお話をされていましたが、本当にそうなりましたね。そのトランプ関税の動きですが、前回のスカロケ資産運用部からひと月の間に、またいろいろと動きがありましたよね。
宗正:特に大きかったのは7月下旬に日米関税交渉が急転直下で合意となったことです。8月1日からの相互関税は、それまで予定していた25%で決まるのかと思いきや、直前で15%に引き下げられました。日本の主力産業の自動車に対する関税も同様で、日本の株式市場が上がる要因の一つになりました。
交換条件として、アメリカからの輸入米を増やすとか、日本が5,500億ドル(約80兆円)規模の投資をアメリカに対しておこなうなどもありましたが、この動きは非常に大きかった。合意文書がなかったので、その後また日米間でひと悶着ありました。
やしろ:ありましたね。
宗正:決着はつきました。ただ、日本政府が合意文書を作らなかったのも1つの作戦だったようですね。赤沢経済再生担当大臣が公式に発言しています。「合意文書を作りましょう」と言おうものなら、トランプ大統領の機嫌を損ねて「やっぱり止めた」という話にもなりかねない状況だったので、話がまとまったときにすぐ「それで行きましょう」ということにしたと。それが日本政府の戦略だったようです。
やしろ:いろいろな思惑があったんですね。
◆ひと安心だが油断はできない“トランプ関税”
やしろ:今回決まったトランプ関税の内容について、株式市場は好意的に受け止めているという解釈でよろしいのでしょうか?
宗正:そう考えていいと思います。まず1つは今お話しした、日米関税交渉の合意。関税率は当初の25%から15%に引き下げられました。株式市場は8月1日からそうなることを一旦織り込んでいた訳ですから、引き下げられたことについては、株式市場は好意的に受け止めて上がっていきました。
そして今週になってさらに日本の株式市場の上昇が加速した要因として、アメリカが中国に対する関税の一部を11月10日まで期限延長にしたことが挙げられます。
でも油断してはいけませんよ。アメリカのベッセント財務長官が、こんな発言をしています。彼はアメリカ政府の閣僚の中でもトランプ大統領が最も信頼を置いているとも言われる閣僚で、その彼が「トランプ大統領が今後の日本の対応に不満があれば、自動車を含む日本製品のすべてに25%の関税を再び適用するだろう」と発言しているんです。
やしろ:匂わせているというか、ちょっとくさびを打たれているというか……。悔しい気持ちがありますね。
宗正:トランプ大統領の発言であれば「また言っている」という話なんですが、ベッセント財務長官って、あまりこの種の発言はして来なかった人なんですよね。
やしろ:そうなんですね。じゃあ、なんだかリアリティがありますね。
宗正:ここはちょっと注意が必要です。「四半期ごとに日本の対応状況を検証する」なんてことも言っていますからね。
◆最低賃金は過去最大の引き上げ
やしろ:話は変わりますが、夏は毎年、国内の最低賃金の水準が固まる時期ですよね。まずは、今年のポイントを教えてください。
宗正: 2025年度の最低賃金が、厚生労働省の審議会で議論されて今年も固まりました。最低賃金は時給単位で決まりますが、全国平均が1,118円。これは過去最高の水準です。そして昨年度からの引き上げ幅、これも全国平均で63円に固まりました。
やしろ:この引き上げ幅は大きいんですか?
宗正:過去最大の引き上げ幅です。都道府県単位で決められる地域別最低賃金で、すべての都道府県の最低賃金が時給1,000円を超えるのも初めてです。
最も高い最低賃金は東京都、時給で1,226円。最も低いのが秋田県で、時給1,015円です。都道府県単位で決めるのは、各自治体間で物価や家賃などの経済情勢に差がありますから、これは仕方のないことなんですよね。厚生労働省の審議会は物価の上昇や中小企業を含めた賃上げの流れが続いていることなどを踏まえて、最低賃金額を決めたとしています。
やしろ:最低賃金の上昇は、働いている我々にとってはいいニュースですけれど、世の中には人を雇っている側もいます。賃金を支払う側の企業にとって、これは大きな負担になりますよね。
宗正:なりますね。今は多くの職場で土日が休みで週休2日、それ以外に祝日もあれば、有給休暇などもあります。賃金を支払う使用者側からすれば、労働時間は減る一方で、最低賃金は上がる状況が続いてきましたから。
政府は最低賃金について、2020年代の内に全国平均で1,500円を目指すという目標を掲げています。この水準は非常に高くて、恐らくは非現実的な目標です。年平均で7.3%ずつ最低賃金を引き上げることが必要になるので、どこかで水準訂正の可能性はありますが、物価や賃金の上昇が続きそうな昨今、さらなる最低賃金の引き上げは必要で、今後もその傾向は続くでしょうね。
短期的には、企業への補助金や負担金のような支援策が必要になりますが、それはあくまでも一時しのぎにしか過ぎません。抜本的な解決策としては、高い賃金を支払うことができる企業の収益力アップのための対応、これに尽きるでしょうね。
日本という国は、今後も労働人口は減り続けます。企業側としては労働効率や生産効率を高めるしか方法はないということで、1つの例としては企業に対する設備投資のための支援策強化があると思います。
やしろ:労働者が首を切られちゃうようなことが起きると。それは辛い話になりますよね。
宗正:最低賃金を引き上げた結果、職場を失う従業員が出てくるというのは、本末転倒というか矛盾でしかないですよね。収益力アップのための企業に対する政府の支援策は不可欠です。
やしろ:他にも、最低賃金の引き上げによって労働者が困ってしまうことはあるのでしょうか?
宗正:例えば、扶養の枠内でパート勤めをしている人には、収入ベースで一定の上限額があります。上限額を超えてしまうと、自分自身や配偶者の税金、社会保険料が高くなって、時給が上がっても手取りの収入は減ってしまいます。いわゆる「106万円の壁」なんかもそうですよね。
最低賃金が上がった結果、働く時間を減らす人が出てくるとすると、この国の労働力不足につながります。最低賃金引き上げの一方で、政府による制度改革と多面的な支援策。これは同時に進める必要があると思います。
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もっといろいろな経済のお話が聞きたいという方は、宗さまのAuDee(オーディー)「宗正彰の愛と経済と宗さまと」でも聴けます。毎月10日、20日、30日に配信していますので、そちらもぜひチェックしてください。
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<番組概要>
番組名:Skyrocket Company
放送日時:毎週月~木曜17:00~19:52(※コーナーは毎月第2水曜18:15ごろ~)
パーソナリティ:本部長・マンボウやしろ、秘書・浜崎美保
番組Webサイト:http://www.tfm.co.jp/sky/