今年2月に逝去した世界的指揮者小澤征爾さんと親交が深かった村上さんが、小澤さんを偲んで、自宅から持参したレコードをかけながら、良き音楽を求め続けた小澤さんの足跡を辿りました。
この記事では、小澤さんとの思い出を語った前半のパートを紹介します。
◆Harold Gomberg, Seiji Ozawa, Columbia Chamber Orchestra, Gomberg Baroque Ensemble「オーボエ協奏曲ニ短調 III.Adagio」
最初にテレマンの「オーボエ協奏曲 ニ短調」の3、4楽章をかけます。征爾さんがバロック音楽を指揮するのってかなり珍しいのですが、このアルバムにはテレマンとヴィヴァルディとヘンデルのオーボエ協奏曲が4曲取り上げられています。オーボエはハロルド・ゴンバーグ。
これは小澤征爾さんの長いキャリアの中で、最も初期に吹き込まれたアルバムの1つです。
ハロルド・ゴンバーグはニューヨーク・フィルの首席オーボエ奏者で、彼が主宰する団体がコロンビアにレコーディングしたときに、以前ニューヨーク・フィルの副指揮者をしていた(*副指揮者は1961~62。録音は1965年)、まだ無名の小澤さんを抜擢し指揮を任せたんです。きっと「こいつ、見所があるわい」と思われたんでしょうね。実際、初レコーディングにしてはとても落ち着きのある、練れた好演になっています。
小澤さんの演奏するテレマンって、そういえば僕はこれしか聴いたことがありませんね。
◆Seiji Ozawa-Toronto Symphony「Marche Au Supplice」
◆小澤征爾指揮 サイトウ・キネン・オーケストラ「第4楽章:断頭台への行進」
ベルリオーズの「幻想交響曲」作品14は征爾さんが愛した作品で、生涯を通して何度も繰り返し録音しています。最初は1965年のトロント交響楽団、次は1973年のボストン交響楽団、それから2010年のサイトウ・キネン・オーケストラ。そしてサイトウ・キネンとは2014年にもう一度吹き込んでいます。
今日はその中から最初のトロント交響楽団との演奏と、2010年のサイトウ・キネンとのニューヨークでのライブを聴き比べてみましょう。おかけするのは「断頭台への行進」です。最後に首がばさっと切られるやつですね。
まずトロント交響楽団とのものを聴いてみてください。30歳になったばかりの、ほとんど怖いもの知らずの若者が、ベルリオーズの大曲に挑みます。
トロント交響楽団との演奏、とても自然というか、音楽の流れをそのまますらりと手中に収めた見事な演奏ですね。
征爾さんは2010年の始めに食道がんが見つかり、全摘手術を受けます。でもその年の夏には早くも復帰して、12月にはサイトウ・キネン・オーケストラと共に渡米して、カーネギー・ホールでのコンサートをおこなっています。当然身体は弱っていますし、かなりの強行軍ですね。でもそんなことは微塵(みじん)も感じさせない力強い演奏を繰り広げます。
2010年のサイトウ・キネン・オーケストラとの演奏。トロントとの演奏に比べると表情の彫りが深く、音の幅が広くなっていることがおわかりいただけると思います。ライブ録音ということもあるんだろうけど、とてもパッショネイトな演奏です。普通、音楽家って年齢を重ねるにつれてスタイルが枯れてくるものなんだけど、征爾さんの場合、そういうことってほとんどないみたいですね。
番組では他にも、2人の対話集『小澤征爾さんと、音楽について話をする』の取材のために録音された会話の一部を特別公開する場面もありました。
<番組概要>
番組名:村上RADIO特別編~小澤征爾さんの遺した音楽を追って
放送日時: 2024年4月29日(月・祝)15:00~16:50
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/