オランダを訪問する日本人観光客の方々が、よくこんなことを口にするのを耳にします。
「大麻はもう、ここじゃあ一種の嗜好品って感じだよね」「自己管理をちゃんとしてれば、大丈夫なんじゃない?」「そういうの、自由でうらやましいよね」。
確かに、大麻を吸おうが、麻薬を試そうが、すべては個人の自由。ただし、その「自由」は、自己責任と背中合わせでもあるのです。
大麻や麻薬を継続して楽しんでいると自制心が失せてしまうので、自由も何も、人間としてごく当たり前に生きることすら不可能になると、常用者たち自身が警告することもあるほどです。
■誕生日には「大麻入りケーキ」?
大麻は、国内にある指定専門店で購入できます。いわゆる「コーヒーショップ」と呼ばれる店で販売されているのですが、たとえば、小中高校生の通学路にもこうしたコーヒーショップがあったりもするのです。
好奇心旺盛なティーンたちが、大麻に興味を抱かないのだろうか・・・と思いきや、その心配はほぼないそうです。

オランダに輸入されている大麻はモロッコ産、タイ産など、原産地によって風味が違うと言われる。(画像提供:フリー画像/Piqsels)
未成年者(18歳未満)の購入こそ禁じられていますが、年長者に依頼して代わりに購入してもらえば常に手に入りますし、隠れてコソコソ吸えばこそのスリルも味わえないので、「つまんない」のだとか。
ただし、気になることもあります。たとえば、子供の誕生日だから特別に!と、大麻樹脂入りのケーキを焼いてふるまったりする非常識な親もいます。子供たちをハイにして、どうしようというのでしょうか。
また、卒業パーティと称してティーン同士でどんちゃん騒ぎをする際、飲み物に違法のハード・ドラッグを仕込んでおいて招待客に飲ませ、もうろうとしている客の所持品を盗むといった犯罪も頻繁に行われています。
警察は、急性中毒症状で救急病院に担ぎ込まれる被害者でも出ない限り、あまり真剣に取り扱ってはくれません。こうしたことは日常茶飯事だからです。
かくいう私も、子供たちが誕生会やパーティに招待された場合、耳にタコができるほど言って聞かせています。「手作りのケーキや飲み物を出されても、絶対に口にしてはいけません! 大麻が入っているかもしれないからね!」

ブラウニー(チョコレート・ケーキ)に、大麻樹脂を入れて焼いたスイーツは濃厚な味がするため、大麻喫煙に劣らず人気がある。(画像提供:フリー画像/MaxPixel)
■麻薬中毒者は病人
いつでもどこでも手に入れることができるから、興味も好奇心もないし、あえて出費してまで使ってみようとは思わない、というオランダ人は多くいます。しかし、中毒者も、もちろんいます。
彼らは中毒者ではなく「患者」とみなされ、適切な治療を受ける権利を擁しています。ほとんどのオランダ人たちは、こうした麻薬患者のことを、それ見たことか!とバッシングすることはありません。
大麻を容認したのは政府なのだから、中毒者が出ても仕方がない。国が最後まで患者として、中毒者の面倒をみるのは当たり前だ、と考えているからです。
しかし、中には懐疑的な人もいます。ソフトもハードも、ドラッグをやるかやらないかは、すべて個人責任によるのだから、治療費も自ら支払うべきだと彼らは考えています。
国民健康保険から、麻薬患者たちの治療代が賄われるのはいかがなものかと、疑問を呈しているわけです。確かにこれには、一理あるかもしれません。
■麻薬は、やはり「魔薬」である
中毒になろうとも治療さえも受けず、人生は一度だけ、自分の一生は自分で決める!と麻薬を常用し続ける人たちも、もちろんいます。
大手企業に勤務するサラリーマンの隣人は、常にパリっとしたスーツに身を固めた典型的なエリートでした。ある夏の日の夕方、庭先で彼が注射器で薬物を打っている姿を私は偶然、目撃してしまいました。それは、あまりにも衝撃的でした。
あっけにとられている私に気がつき、彼は私から視線をそらせて言いました。「邪魔しないでくれ」と。私は謝って、その場を離れました。
数年後、彼が物乞いをしながら街をさまよっている姿を見かけました。あまりの変貌に目を疑いましたが、明らかに隣人その人でした。
かつては雑談に応じた仲、私は彼を哀れに思い小銭を渡そうとしました。

屋外で注射を用いて麻薬を摂取する中毒者。最近はその数は減少傾向にある。(画像提供:フリー画像/Pixsbay)
今後、オランダをモデルとした、大麻を含むソフト・ドラッグを容認する国が増えていくかもしれません。
しかし、たかが大麻、されど麻薬。ほんの少しをたしなむ程度であっても、中毒になる可能性を秘めたこのドラッグ類は、まさに「魔薬」と感じざるを得ません。