JR九州九州旅客鉄道)がこの5月、初めて赤字線区の営業損益を開示しました。鉄道事業全体では約200億円の営業利益を計上する反面、人口減により1987年と比べ利用者が90%以上減少した路線(以下、線区)も存在します。



現在は鉄道と不動産が2本柱のJR九州ですが、それぞれの事業の業績はどうなっているのでしょうか。



■JR九州が赤字線区の収支を発表



JR九州(9142)は2020年5月、運行している線区のうち17の赤字線区の2018年の営業損益を発表しました。2016年10月にIPO(新規上場)したJR九州が線区別の収支状況を明らかにするのは初めてで、その内容が注目されています。



線区ごとの状況を見ると、九州の大動脈といえる鹿児島本線や九州新幹線は黒字であり、また小倉から大分を経由して鹿児島を結び、大分・宮崎県民にとっては欠かせない日豊本線も全体で見れば赤字ではありません。



一方、日豊線の佐伯-延岡間や肥薩線の八代-人吉間などは大きな赤字を抱えています。少子高齢化が進む日本で、特に地方路線の沿線住民の減少は、今後の赤字線区の増加に直結します。



今回、1987年度と2018年度の平均通過人員も合わせて開示されましたが、減少率が70~90%という線区も多く、人口減少がJR九州の経営に与える影響は既に現実のものとなっています。



今回の赤字線区の発表は、同社の危機感の表れと言えるでしょう。



■鉄道事業と不動産事業が2本柱



JR九州全体で見れば鉄道事業は黒字の状態です。2020年3月期の鉄道事業が属する運輸サービス部門の営業利益は198億円。新型コロナウイルス問題の影響で対前年同期比で▲76億円の減益となりましたが、それでも200億円近い営業利益を確保しています。



一方、不動産事業(正式には不動産・ホテル事業)の2020年3月期営業利益は191億円で、鉄道事業と同レベルの営業利益を計上しています。

ただし、ホテル部門が新型コロナに直撃されており、2020年3月期は対前年同期比で▲63億円の減益です。



なお、減価償却費などを除いた2020年3月期のEBITDAは、既に不動産・ホテル事業の306億円が、運輸サービス部門の296億円をわずかながら上回っています。



■不動産事業の中心は博多駅の駅ビル



このように、不動産関連の利益が鉄道事業と同等の利益を上げているJR九州ですが、同社の不動産事業の中心は博多の駅ビルです。2011年に開業した博多駅ビルを抜きにJR九州の経営は語れませんし、駅ビルがなければ2016年のIPOは実現困難だったと言えるでしょう。



また、JR九州の不動産事業にはマンションディベロッパー事業も含まれており、実際、JR九州は九州地区で有数のマンションディベロッパー事業者です。



駅ビル、マンションディベロッパー、そしてコロナ禍前はインバウンド需要で潤っていたホテルを抱える不動産事業は、JR九州にとって、なくてはならない存在になっています。



■鉄道事業は縮小を免れない



今後も日本の人口減少、特に地方での減少が進むと予想されています。JR九州の営業地域には、九州全体から人が集まる福岡(博多)があるものの、九州全体では赤字線区がさらに増える可能性が高いと言えるでしょう。



そのため、このままではJR九州の鉄道事業は徐々に減収減益を余儀なくされることが予想されます。その結果として、鉄道事業と不動産事業の逆転が生じる日はそれほど遠い未来ではありません。



JR九州の経営は、不動産事業の存在により安泰です。ただし上場会社としてのJR九州を見た場合、縮小が続く鉄道事業と継続的に収益を上げる不動産事業を2本柱とする同社に対し、鉄道事業への改善要求は強まることはあっても弱まることはないでしょう。



実際にJR九州は物言う株主である米投資ファンドから、不動産部門の収益情報開示などの圧力を受けています。



JR九州は近い将来、不動産会社が運営する鉄道会社になってしまうかもしれません、今後、赤字線区の問題とどのように折り合いをつけていくのか、鉄道会社としてのJR九州の行方が注目されます。



【参考資料】九州旅客鉄道:「交通・営業データ( https://www.jrkyushu.co.jp/company/info/data/senkubetsu.html )」「線区別ご利用状況( https://www.jrkyushu.co.jp/company/info/data/pdf/2018senku_2.pdf )」「2020年3月期決算説明会資料( https://www.jrkyushu.co.jp/company/ir/news/__icsFiles/afieldfile/2020/05/12/9142.FY2019.4q.material.ja.pdf )」「2020年3月期決算短信[日本基準](連結)( https://www.jrkyushu.co.jp/company/ir/library/earnings/__icsFiles/afieldfile/2020/05/11/9142.FY2019.4q.quarterly.ja.pdf )」



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