中国人民銀行(中央銀行)が流動性の供給を通じて積極的な金融緩和を展開した2月~4月にかけて、市場金利は急落したが、その後、5月中旬から6月には著しい上昇に転じている。最近の市場金利の上昇は、人民銀行が政策スタンスを引き締めに転換しているのではないかとの憶測を生んでいる。



実際、7日物リバースレポ金利、1年物中期貸出ファシリティ(MLF)金利、最優遇貸出金利(LPR)は2月から4月にかけて0.3%引き下げられた後、5月から6月には据え置かれている。同様に、1月から4月の間に預金準備率は0.5%~1.0%引き下げられたが、5月から6月は据え置かれている。



中小企業への融資を支援する最近の人民銀行の政策についても、中央銀行が金融緩和よりも直接の信用支援を志向しているのではないかとの憶測を呼んでいる。人民銀行は「ローン購入プログラム」を公表したが、これは中小企業に資金を提供するために、ゼロ金利で適格要件を満たす銀行(以下、適格銀行)に特別な1年間の無利子ローンを供与するものである。



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人民銀行は特別目的事業体(SPV)を設立し、再貸付の割り当てにより、4,000億元の資金提供を行うことを計画している。SPVはこの資金を利用して、2020年3月から12月に実行される適格銀行の中小企業向け無担保ローンの40%を購入する。



適格銀行は、1年後に4,000億元を返済することが求められ、売却したローン債権の受益権と潜在的な信用リスクを引き受ける。中小企業向けローン購入プログラムは、特にインターバンク市場の主要な借り手である小規模銀行にとって、準備金の水準を改善するのに役立ち、市場の一部が認識するほど後ろ向きなものではないだろう。



■金融の安定に対するリスクの懸念と裁定取引削減のための当局の取り組み



裁定取引を減らし、実体経済に流入せずに、金融システム内に資金が滞留しないようにする規制当局の取り組みも、最近の流動性引き締めの要因であると考えられている。特に、以下の2つのタイプの裁定取引が調査対象となっている。



(1)短期の債券に投資するための超低金利で安定したレポレートを活用する銀行間レバレッジの増加、(2)企業の、高金利仕組預金(約4~5%の収益率)に投資するための、短期債発行や補助金付きローン(約2%のコスト)等の低コストの資金調達の活用。



なお、レポレートが切り上がる中、1日のレポ取引量は、5月中旬の1日あたり5兆元から6月下旬には3.5~4兆元に低下しており、レバレッジが減少していることを示している。



仕組預金は預金と投資商品を組み合わせた金融商品であり、収益は当該預金の基盤となっている金融商品/デリバティブのパフォーマンスに依存する。



仕組預金は、預金(特に小規模な銀行間)の競争が激化し、元本保証の資産運用商品の発行を禁止する新しい規制により、2018年以降急速に伸びている。仕組預金の残高は4月に過去最高の12.1兆元に達し、その後5月には11.8兆元へとわずかに減少している。



仕組預金の残高は、全預金の6%弱を占めるに過ぎないが、1月から4月の新規銀行預金の4分の1以上を占めている。規制当局は、2020年末までに仕組預金を縮小するようガイダンスを各行に出し、各行が提示するリターンにも上限を課すと伝えられている。この措置は、特に四半期末に小規模な銀行で流動性不足を発生させる可能性がある。



■微妙なメッセージ:異なるマクロおよび金融指標の目標が示される中での政策の「微調整」



6月17日に国務院は緩和的な金融政策を改めて表明し、貸出金利、債券利回り、資金調達コストを引き下げるため、預金準備率の引き下げと再貸付を通じて適切な流動性を維持することを表明した。



しかし、人民銀行による最近のコメントは、ハト派的とは言えない政策スタンスを示唆するものとなっている。すなわち、人民銀行は、超緩和的政策の悪影響とモラルハザードのリスクについて懸念を示しており、また、経済成長と金融の安定化のバランスを取る必要性を強調している。さらに政策余地を確保する必要性、景気刺激策の出口戦略の調査を開始する必要性も示している。



今年の信用供与目標、つまり20兆元の新規銀行ローンと30兆元以上の新規総融資は、2020年末までに、銀行貸出残高が前年比約13.2%増、総融資は11.9%増以上になることを示している。しかし、これは同時に下半期に新規の信用の伸びが著しく減速することをも意味している。



規制当局はまた、マイナス金利政策や債務の収益化の可能性を排除している。「より慎重なスタンス」とは、大規模な政策転換ではなく、積極的な緩和後の政策の「微調整」と考えられる。一方、景気回復の兆しが見られる中、ここ数ヶ月の力強い財政と信用の拡大により、追加刺激策の緊急性が低下している可能性もある。



■より的を絞った金融政策で景気回復をサポート



インフレ、成長/雇用、為替レート、金融の安定性などの複数の達成目標があるため、当局は政策目標の間で微妙なバランスを取る必要がある。



当社では、人民銀行が緩和的な政策スタンスを維持すると見込んでいる。外的要因の不確実性が続くなかで、景気回復は依然として脆弱な状態が続くと思われる。

また、感染症の第2波のリスクが消費とサービスの回復の重しとなる可能性もある。インフレ率が低いため、企業の実質 ベースの資金調達コストは依然として高いままにとどまる。



中央銀行は7月1日には、再割引率と再貸付金利の0.25%の引き下げで、中小企業の借入コストの削減をもう1段階進めている。



この動きはまた、人民銀行が今後数ヶ月以内にターゲットを絞った金融緩和を実施する可能性が高いことを示しているが、企業の資金調達コストの削減に重点が置かれ(信用スプレッドを圧縮する政策を含む)、預金準備率、中期貸出ファシリティレート、 ローンプライムレートが引き下げられる可能性もある。同時に、金融リスクを抑制するために、規制およびマクロプルーデンス政策が強化されることも考えられる。



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