人々の働き方や生活様式などに、さまざまな新しい価値観を生み出している新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。これまで人と人が直接顔を合わせていた多くのサービスがオンライン型に切り替わっており、私たちが“デジタル化”に対して感じるハードルもどんどん下がってきています。



そんな中、墓所・墓石の販売や葬祭業、仏壇・仏具の販売などを手掛ける株式会社メモリアルアートの大野屋が「大野屋のお葬式オンライン参列」を6月23日にスタート。離れた場所でも故人と最期のお別れができる同サービスの企画意図やコロナ禍における葬儀業界の状況について、同社経営企画本部 広報室室長の上原ちひろさんに聞きました。



■SNSやメールでお悔やみページが共有される「オンライン参列」



同社で葬儀を行う場合であれば、喪主も遺族も無料で利用できる「大野屋のお葬式オンライン参列」。葬儀場内の「密」を避けられるだけでなく、入院中だったり海外在住だったりと参列が難しい人でも故人を見送ることができるサービスです。



参列の流れは、まず担当者がお悔やみページを作成し、喪主へURLまたはQRコードを案内。その後、喪主や遺族、故人にゆかりのある人たちへSNSやメールでお悔やみページが共有され、その人たちだけがスマホやPCからお葬式のライブ配信動画を視聴可能です。また、個人の思い出となるメモリアルアルバムも作成され、スマホやPCで無料閲覧できます。



なお、お葬式のライブ配信では、仰々しいカメラや多くのスタッフは用意せず、簡単なタブレットを使って定点撮影するとのこと。実際に参列する喪主や遺族の心情を配慮したサービスとなっています。



■コロナ禍で増えた10人以下の家族葬



――新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、葬儀の現場ではどのような対応をされていたのでしょうか?



上原:葬儀部門では、早くから対応マニュアルや医療資材の準備を行っておりました。



コロナ禍だとしても中止にできないのが葬儀です。緊急事態宣言下にはご家族数人だけという小規模な家族葬が多くなりました。

通常の家族葬でも故人とごく親しい方も含めて20人から30人ほどが集まるのですが、コロナ禍では10人にも満たないケースが多かったと聞いています。



また複数人が集まって会食を行うことも感染リスクがあるので、折詰のお弁当やグルメギフトカタログを弔問に来られた方にお渡しし、お清めの代わりにさせていただくケースも多くありました。ご法事は、ほとんどの方が延期か中止の選択をされていました。ご納骨は、喪主様とごく近しい遺族の方のみなど少人数で済ませたケースが多かったようです。



■高齢者からは「便利だから子どもたちは使うかも」という反応



――「オンライン参列」を始めるに至った経緯を教えてください。



上原:業界として、以前から海外在住や高齢の方など長距離の移動が難しい方々のために、オンライン上で供養事をする考えは全くなかったわけではありません。



ただ、私たちも以前から「供養ごとは直接足を運んで、弔意を伝えるべき」という考えを重視していましたので、オンラインでの参列には抵抗がありました。ですので、コロナ感染拡大以前であればこのサービスの導入はなかったと思います。



しかし、このコロナ禍で「葬儀に行きたくても行けない」「来てほしいのに来てもらえない」という現場からの声が数多く聞こえてきました。そうした声がある限りオンラインも選択肢の一つとして必要なのではないかと考え、緊急事態宣言下、急ピッチでサービスの準備を進めました。



コロナ禍でお葬式はどう変わった? 無料で利用できる「オンライン参列」も

メモリアルアートの大野屋 経営企画本部 広報室室長の上原ちひろさん



――現時点で、サービスについてどのような反応がありますか。



上原:現在、数件のご利用やお問合せをいただいており、また数件のご利用もすでにありました。

また、今後サービスの追加を予定しているご供花や香典の注文をオンライン上で決済できるサービスについて、お客様にアンケート調査を実施したところ、20~30%の方に前向きな関心を持っていただいています。これは予想以上でした。



いただいたコメントの中には、70代の方からは「ネットわからないし、やっぱり直接参列したいから私は使わないけど、子どもたちは便利だから使うかもね」といった声もありました。私たちとしても初めてのことなので、どのようなニーズがあるかを測っている状態です。



■コロナでデジタル化の受け入れが広がっている葬儀業界



――新型コロナでさまざまなものがオンラインに切り替わっている現状もありますが、人を弔う行為がデジタル化されることについて、業界全体としてはまだまだ拒否感があるものでしょうか。



上原:以前と比べ、デジタルを取り入れる傾向は強くなっていると思いますが、個人的な意見ですが、単に手間を省くだけ、手軽になるだけの商品は「供養を軽視している」ことになると思います。



「弔いの気持ちや供養を大事にしているからこそ、それが叶わない場合の選択肢」としてご提案できるサービスであることが大切で、またお客様にも決して供養の軽視ではないと感じていただけるよう、サービスの内容をブラッシュアップしていくことが課題だと思っています。



――オンライン参列の今後のサービス展開について教えてください。



上原:先ほど、アンケートを行ったとお伝えしましたが、オンライン上で供花や弔電を注文したり、喪主様へ香典をお届けできるサービスを追加する予定です。今後法事への展開も検討中しています。



■おわりに



「コロナ以前もコロナ以降も、大切な人が亡くなった時に弔う気持ちや思いは昔から何も変わっていないと感じています」と上原さん。



そうした変わらないものがある一方で、生活スタイルや少子高齢化など確実に変わりゆくものもあります。

昔のスタイルやマナーに必ずしも固執する必要はなく、今に合った供養を私たち自身も受け入れることで選択肢が広がるのはとてもいいことなのではないでしょうか。



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