コロナショックで様々なビジネスが苦境に陥り、特に、空運・鉄道、旅行、飲食業などが大被害を被っています。政府や地方自治体がこぞって人の移動の自粛を求めたので、こうなることは自明ではありましたが、その影響は甚大です。

通常に戻るには数年以上かかるでしょう。まことに不運としか言いようがありません。



こうした状況下、日本航空(以下、JAL)・全日空(以下、ANA)が経営難を乗り切ろうと、銀行から巨額の借り入れをすると報じられています。その額は、JALは3000億円、ANAは8500億円(含、資本調達)とのこと。



2020年6月末時点の決算書では、JALの有利子負債(利息を払わなければならない借入れ)は約5000億円、ANAは約1兆4000億円(含、社債など)ですが、これに上記の借り入れがそれぞれオンされるわけですね。



しかしながら、中小企業や個人事業主がそう簡単に借金できない中、なぜ業績不透明な航空会社がこれほどの巨大な資金をやすやすと借りることができるのでしょうか。本稿ではそのロジックを明らかにします。



■メガバンクの現状:貸したくても貸せる相手がいない



今のメガバンクにとって、お金を貸すこと自体はたやすいことです。たとえば、メガバンクトップの三菱UFJ銀行の預金量(≒資金量)は約190兆円もあります。規模感で言えば、日本の年間GDP約560兆円の3分の1ほどになります。そのうち貸出に回っている資金は約6割の110兆円くらいですから、残りの80兆円くらいは“余っている”わけです。



もちろん、資金を余らせておくと受け入れた預金の利息を払えませんから、しかたなく国債や外国債券等に投資するわけです。

本来、日本の景気が良くて、業績良好な企業がボンボン立ち上がり資金需要も旺盛であれば、銀行はホイホイとお金を貸すでしょう。でも、今は低成長経済真只中ですから、質も量も兼ね備えた優良企業はほとんどないのです。



もちろん、既存取引先企業の経常的な運転資金ニーズはなくなりません。そうではなく、大規模な国内工場を建てたり、ライバル企業をまるごと買収したり、新規ビジネスで何千億円規模の新規融資が発生するような企業活動は限られてきているのが実情です。



外国企業に融資することも可能ですが、相手は円で資金を借りませんし、メガバンクが外貨で資金調達するにも限界があるので、やみくもに海外融資を増やすことはできません。



そして、問題になるのは貸付先の業容もさることながら、担保を持っているかどうかです。すなわち借金のカタですね。借金が返せなくなった際に、その担保を売るなり何なりして借金を返せるかどうかです。



メガバンクには貸せるお金が余っていますので、数千億円程度なら貸したいのはやまやまです。ただし、その融資先は資金を返せる能力があって、かつ担保も十分持っている先という条件付きです。



銀行にとって債権保全は至上命題ですから、いくら儲かっていても担保がなかったり、信用力がなかったりすると、お金は貸してもらえないのです。特に、メガバンク自らの資金で貸出を行うプロパー融資ならなおさらです。



■メガバンクが数千億円を1社に貸せる理由



さて、JAL・ANAです。前者は政府主導の半官半民企業として創業し、後者はヘリコプター輸送から始まった私企業ですが、それぞれ欠かせない社会インフラとして存在しています。



空輸がなくてもオッケーというならいいのですが、現実それは不可能です。旅行にしろ、物流にしろ、空輸なしでは世界経済は回りません。JALは2010年に一度経営破綻していますが、そこから立て直しを図ってきた経緯もあります。航空会社、特に国内・世界主要都市に路線を確保している両社を、政府としても潰すわけにはいきません。



仮に鉄道会社が倒産して線路が放置されたら本当に困りますし、いざ移動する際には不便この方ありません。つまり、社会インフラである航空会社をなくすことはできないのです。



この観点で考えれば、両社はメガバンクの貸出先として願ったりかなったりの、以下の条件を揃えています。



  • 担保に取れる資産が多い(飛行機、発着枠、自社保有不動産など)
  • 平時に戻れば、キャッシュフロー(売り上げ)は確保できる
  • 経営実態も把握できる(新規取引先ではない)
  • 最後は政府が支援するインフラ企業
  • 緊急支援なので、ある程度の上乗せ金利も取れる
  • もちろん状況が改善しなければ、メガバンクはリストラ策なり追加担保を要請するなりして、自分たちが取りっぱぐれることを防ぎます。加えて、最後は上記4. の政府支援が待っていますから、最悪、最後は合併して存続させたり、税金を投入して救済したりすることだって考えられます。



    もっとも、個人の立場で考えれば、たとえ会社として存続しても職が保証されるわけではありません。

    この時代、どんな会社にいても決して油断してはいけないのです。



    ■現実の銀行に半沢直樹はいない



    資金調達の面で考えると、やはり巨大企業は中小企業よりも有利なのかと思ってしまいます。Too big to fail(大きすぎて潰せない)というやつです。確かにそうなのですが、メガバンクの論理は企業規模もさることながら、“担保十分でトラブルなくお金をキッチリ返してくれる融資先”が、良いお客さんということになるのです。



    現実的には、方向性曖昧な正義感で突っ走る“半沢直樹”のようなスーパー銀行マンがいるわけではなく、大企業相手に戦いを挑んだり、出身銀行に反旗を翻したりする行員もいません。



    融資という観点では、地味ながらしっかり利息を取れる案件を引っ張ってくる銀行員が良い銀行員。面白くともなんともないと言われればそれまでなのですが、銀行(=金貸し)とはそういうビジネスなのです。



    もし、このタイミングでJAL・ANAに自ら融資を持ちかけたメガバンクの行員がいるのなら、なかなかの慧眼をお持ちの方なのでしょうね。



    参考:JAL・ANAの株価および日経平均株価の推移、2012年10月末(JAL再上場後)~ 2020年8月17日(月次)



    なぜメガバンクはJALやANAに巨額のお金を貸せるのか?

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    注:各種データより筆者作成



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