ANAホールディングスは10月27日、2021年3月期の連結最終損益が5,100億円の赤字の見通しであることを発表しました。収束の兆しが見えないコロナ禍で苦境に立たされた航空会社。

なんとかこの危機を乗り切ろうと試行錯誤の後、「機内食を地上で売る」などといったアイデアを思い付いた航空会社もあります。



機内食が恋しくなっている旅行好きな方や、旅行気分を味わいたいなどのニーズにマッチしたのか、結構人気があるようです。



■機内食で旅気分を味わう



海外旅行に思うように出かけられない今、航空会社が機内食を通販やスーパーで販売するのがトレンドになっているようです。



英エコノミスト誌(※1)( https://www.economist.com/asia/2020/08/27/asian-airlines-are-selling-in-flight-meals-directly-to-the-public )によれば、ガルーダ・インドネシア航空の子会社の機内食製造会社では、パンデミックが始まって以来、収益が97%急落したそうです。そこで同社は4月、「空の旅が恋しい人達」に向けて機内食の地上販売を決断したということです。これによって食品廃棄を減らすと同時に損失を少しでも回収できたら、という狙いもあるのだそうです。



ほうれん草とパストラミのキッシュやインドネシア料理などがそれぞれ1食約200円だそうです。実はガルーダだけではなく、アジアでは、タイ航空やキャセイパシフィック航空(香港)、エアアジア(マレーシア)もそれぞれの機内食製造部門や子会社が地上販売を始めたようです。



また、オーストラリアでは2社の機内食製造会社が地上販売をしているのだそうです。そのうちの1社、Gate Gourmet(ゲートグルメ)のレビューでは「機内食が好きというわけでもないが、味はともかく、ベジタリアンメニューかメインディッシュメニューのどちらかのお任せの組み合わせ10食パックで1食あたり200円弱は安い」と、経済的な面からも人気を集めているようです。



■ビジネスクラスの味も購入可能



エコノミークラス用の機内食だけではなく、なかなか経験できないビジネスクラスの特権を地上で味わってもらおうという会社も現れています。



世界的に機内食を含めたサービスのレベルが高いと好評の日本の航空会社では、日本航空JAL)が食品廃棄削減を目的として8月にビジネスクラスのカレーを同社の通販サイトで限定販売して好評でした(※2)( https://www.aviationwire.jp/archives/209152 )。

全日空(ANA)では機内食の味を自宅で調理し楽しめるようにと、機内食のレシピを同社のウェブサイト(※3)( https://www.ana.co.jp/ja/jp/share/enjoy/recipe/ )で公開しています。



最近はフィンランドの航空会社フィンエアーが、ビジネスクラスの機内食をヘルシンキのスーパーマーケットにて「Taste of Finnair(フィンエアーの味)」シリーズとして試験販売を始めたということです。メニューは一定期間毎に変えるそうです。



フォーブス誌によると、「初回版はトナカイのミートボールやホッキョクイワナ、照り焼きビーフなど、北欧料理と和食を融合させた内容で、価格は10~13ユーロ(約1,200~1,600円)。試験が成功すれば、販売店舗の拡大も計画されている」(※4)( https://forbesjapan.com/articles/detail/37686 )ということです。



フィンエアーは「機内食販売の試みを始める理由の一つは、子会社のフィンエアー・キッチンで働く従業員の職を守るためだ」と話しているとのことです。



■飛行機がエンターテインメントの場に!



また、各航空会社では機内食の地上販売のほかにも、飛行機自体をエンターテインメントの場所とすることでも活路を見出したようです。



シンガポール航空では、2階建てエアバスA380型機内で機内食を提供するレストランを、シンガポールのチャンギ国際空港で10月24、25、31、11月1日の2週末のみの限定で始めたということです。



メニューや料金は4つのクラスによって異なります。スイートが642シンガポールドル(約5万円)、ビジネスが321シンガポールドル(約2万5,000円)、プレミアムエコノミーが96.3シンガポールドル(約7,500円)、エコノミーが53.5シンガポールドル(約4,000円)と、どちらかというと高級感を売りにしているようです。



実は、シンガポール航空では“Discover Your Singapore Airlines”という一連の体験プログラム(※5)( https://www.singaporeair.com/en_UK/sg/plan-travel/discover-your-sia/ )を催し、これはその中の1つ、“Restaurant A380 @Changi”というイベントです。その他にも、ファーストクラス、ビジネスクラスの機内食を機内のみで使われる特別な豪華食器やアメニティととも宅配する“SIA@Home”も提供しているようです。



機内食だけでなく、同社のトレーニングセンターを見学したり、アクティビティに参加できる全年齢を対象としたイベント“Inside Singapore Airlines”も11月に予定。航空会社ならではの特権で、空港や機体をエンターテインメントの場として積極的に活用していこうという姿勢です。



JALやANA、台湾のスターラックス(星宇)航空などでは、同じ空港を発着する遊覧飛行イベントも人気を集めているようです。



今後、航空会社は飛行機を移動手段だけではなくエンターテインメントの場として様々な形で活躍させていくのではないでしょうか。また、機内食のオンライン販売も工夫次第では世界中の人が自宅にいながら世界の味を楽しめる、なんていうことも可能になるかもしれません。航空会社が苦境の中で見つけた活路は今後さらに展開が広がりそうです。



参考

(※1)The Economist “Asian airlines are selling in-flight meals directly to the public”( https://www.economist.com/asia/2020/08/27/asian-airlines-are-selling-in-flight-meals-directly-to-the-public )
(※2)「JAL通販サイト、ビジネスクラスのチキンカレー販売 フードロス削減」( https://www.aviationwire.jp/archives/209152 )Aviation Wire
(※3)「おうちで楽しむ、旅行気分!ANAの機内食レシピ紹介」( https://www.ana.co.jp/ja/jp/share/enjoy/recipe/ )ANA
(※4)「豪華機内食をスーパーで販売 フィンエアーのコロナ対策」( https://forbesjapan.com/articles/detail/37686 )Forbes JAPAN
(※5)SINGAPORE AIRLINES “Discover Your Singapore Airlines” ( https://www.singaporeair.com/en_UK/sg/plan-travel/discover-your-sia/ )



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