■米国証券取引委員会の”投資の教科書”から
筆者は様々なセミナーに登壇することもありますが、最近は長期的な資産形成やつみたて投資の話をしてほしいという依頼がほとんどです。
そうした講演の冒頭で、必ず出席者に尋ねることがあります。
毎回そうなのですが、挙手される方は全くいません。すなわち、初めから多額の資金を有して資産運用ができる人はほとんどいない、ということなのです。
■資産形成のための”ガイドブック”
これは日本に限ったことではなく、米国でも同じです。最近は起業した会社が新規上場を果たしてビリオネアになる人もいるでしょうが、そんな事例は何百万人に1人いるかどうかの稀有な事例です。
ビジネスで成功することはあり得ますが、一夜にして多額の資産を築くというのはやはり不可能なのです。
それを見事に表しているのが、米国証券取引委員会(SEC)の“Saving and Investing”(貯蓄と投資)という32ページのガイドブックです。
SECといえば金融機関の規制当局というイメージが強いのですが、個人に向けてこうした資産形成のガイドブックを提供しているということは、米国政府自らが資産形成には時間がかかることを示していると言えるでしょう。
図表1は、そのガイドブックから重要な3点を抜粋したものです。
図表1:成功する資産形成の3カ条

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注: 米国証券取引委員会(SEC) “Saving and Investing” から抜粋翻訳
そこに示されているのは、資金計画を立て、借金は返し、できるだけ早くつみたて投資を始める、の3カ条。
当たり前といえば当たり前ですが、金融リテラシーが高いと評されている米国でさえ、SECがこういった基本的なことを一般投資家に伝えているのです。資産形成にも基本が大事だということですね。
次に家計のバランスシートを作成することを勧めています(図表2参照)。一見、面倒なのですがエクセルなどのスプレッドシートを使えばすぐにできるものです。
家計のバランスシート例

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注:筆者作成
また、具体的に何のために資産形成するかを明らかに、とも書いています。つまり、住宅、車、教育、老後資金、医療・介護、失業対策といった目的です。目的が分からなければ対策の取りようがないといったところでしょう。
加えて、現在の資産だけではなくキャッシュフローが重要ということで、定期的な収支計算表の作成も勧めています。これは家計簿と同じ発想ですね。マイナス家計ではお金は貯まりませんから。
■1日1杯のコーヒーを節約すると…?
やっとここまできたところで、SECはこのように聞いてきます。
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質問:1日1杯のコーヒーを節約すると、30年後にどれくらいの資産になるでしょう?
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普段お役所からは、あまり聞くことがない質問です。答えはこうです。
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答:あなたが1日1杯、1ドルのコーヒーを1年間節約したとすると、年間約4万円の節約ができます。
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ここまで懇切丁寧に教えてくれるお役所があるでしょうか。日本の金融庁も頑張っていますが、制度や政策を作るのがやっとで、個人の具体的な資産形成方法まではアドバイスしてくれません。
最後に注意点が列挙されています。さすが金融機関の監督官庁だけに、しっかり確認しておくべきことが列挙されています。
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・投資しようとする金融商品はSEC登録済みか。
・投資対象商品にトラブルや訴訟はなかったか。
・運用会社や販売業者に問題はないか。
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全くもって当たり前のことを告知しているのですが、やはり投資先進国の米国は基本がしっかりしています。一般庶民が長期少額投資でしか資産形成できないのは承知の上で、啓蒙を行うと共に警鐘を鳴らしていのです。
本文は英語なのですが、関心ある方にはぜひ一読いただきたい資料です。
“Saving and Investing( https://www.sec.gov/investor/pubs/sec-guide-to-savings-and-investing.pdf )”