世界的に半導体が不足していて、自動車各社が減産に追い込まれているようです。これは自動車各社の増益要因かもしれない、と筆者(塚崎公義)は考えています。
■自動車各社が半導体不足で減産
世界的に半導体が不足しているようです。筆者は半導体の事情に詳しくありませんが、DXブームの中で、半導体の需要が盛り上がっているために供給が追いついていない、ということのようです。そうだとすると、半導体不足は長期化するかもしれません。
最近の自動車は大量の半導体を使うようで、自動車各社は半導体の確保に尽力しながらも、減産を余儀なくされるところが相次いでいるようです。そこで各社は「苦しい」という記者会見をするわけです。
工場の生産能力があり、需要もあるのに部品が調達できずに減産に追い込まれるというのは、メーカーにとって辛いことでしょうし、苦しいことでしょう。通常の減産であれば。
しかし、今回はもしかして、自動車各社の利益が大幅に増える可能性もあると筆者は考えています。それは、すべての自動車メーカーが同様に半導体不足に悩んでいるからです。
■全社一斉の不足ならカルテル効果が見込める
一社だけが減産に追い込まれるならば、それは大変辛いことです。需要があるのに生産できない、という短期的な問題もありますが、供給不足から顧客をライバルに奪われてしまうと戻ってこない、という可能性もあります。
自社製品のファンだった顧客が、製品不足からやむを得ずライバル社製品を買ったところ、意外と気に入ってそちらのファンになってしまった、といったことが起きかねないからです。
しかし、すべての自動車メーカーが減産を強いられるのであれば、ライバルに客を奪われる心配はありません。それ以上に「自動車の需要が自動車の供給を上回るので、自動車の価格が上昇する」ということが期待されるのです。
自動車の価格も、当然ながら需要と供給の一致するところに決まります。自動車の場合、表面的な定価は変化しなくても、販売現場での値引きが減るなどの動きは当然予想されるでしょう。
これは、「全社一斉に減産して自動車の値段を吊り上げよう」というカルテルと同様の効果だと言えるでしょう。しかも、カルテルより遥かに望ましいのです。
■「カルテル破り」が出てこない
通常のカルテルであれば、独占禁止法違反に問われかねませんが、今回はカルテルそのものではないので公正取引委員会に叱られませんし、マスコミや消費者のバッシングも受けません。むしろ、部品不足を嘆いて見せれば「消費者の同情を得ながら値上げができる」といったことも期待できるかもしれません。
もうひとつ、「カルテル破り」が出てこないことも、業界各社にとって非常に嬉しいことなのです。
通常のカルテルの場合、カルテルを維持するのは、容易なことではありません。各社にカルテル破りをするインセンティブがあるからです。
同業他社がカルテルを守っているとすれば、自動車価格は高止まりをしているはずなので、自社だけがカルテルを破ってわずかな値下げをすれば、容易にライバルから顧客を奪って大儲けをすることが可能だからです。
しかし今回は、自社も減産に追い込まれているので、値下げしてライバルから客を奪ってこようというインセンティブを持つメーカーがないのです。したがって、高値が続き、自動車メーカーにとって大きな追い風となるかもしれません。
■各社首脳の困った顔に惑わされない
各社首脳が記者会見で困った顔をしているとしても、本当は困っていないのかもしれない、ということには留意が必要です。各社首脳がカルテル効果に気づいていないのかもしれないですが、気づいていてもマスコミと消費者の同情を買うために困った顔をしているのかもしれません。
もちろん、メーカーによって大幅減産を強いられるところと小幅減産で済むところがあるでしょうし、それによって減益となる企業と大幅増益となる企業があるでしょうが、業界全体としての利益は増加する可能性が高いのかもしれません。
あとは、「1割減産なら価格が1割上昇」といった減産幅と値上がり幅の関係には要注目ですね。1割減産しても価格が1%しか値上がりしなかった、ということならば業界全体として減益でしょうが、1割減産で1割値上がりなら増益になるはずです。売上金額はほとんど変わらないのに、材料費が1割減るからです。
もうひとつ、実は半導体不足がそれほど深刻ではなく、各社の減産がわずかであって値段も変わらなかった、という可能性もありそうです。筆者が大騒ぎしすぎた、というケースですね(笑)。もっとも、その場合でも自動車業界は困っていないはずです。
値上がりしなかったということは需要に見合った生産が行われたということなので、何も困らないからです。
ちなみに、完成車メーカーのみならず、中古車ディーラーにも恩恵が行くかもしれません。新車が不足したり値上がりしたりしたら、中古車の需要が増えるでしょうから。
とはいえ、自動車メーカーや中古車ディーラーの株価が上がるとは限りません。株価は色々な要因で変動しますから。投資はくれぐれも自己責任でお願いしますね。
本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。
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