不動産が投機資産になれば社会は崩壊する
米国は景気が良くて、経済はソフトランディング(軟着陸)すると宣伝されている一方で、「株式は過大評価されており、9カ月以内に景気後退に陥る可能性がある」と、債券王ジェフリー・ガンドラックが警告している。格付会社のフィッチは、「複数の逆風により2024年上半期は米国の消費支出が著しく減速する」と発表した。
一番やっかいなのは不動産バブルであろう。
【投機的な熱狂と資金がどこに流れるかが重要なのだ。1713年から1720年にかけて南海バブルが拡大したとき、この投機資本の洪水はイングランドの住居やパンのコストを歪めることはなかった。1720年にバブルが崩壊したとき、その損失はアイザック・ニュートンのような裕福な投資家に集中した。
同じことがドットコム時代の投機マニアにも言える。バブルと崩壊は、ハイテク部門とその部門に参加する人々、そして投機熱狂に限定された。投機バブルのインフレや崩壊によって、家賃やパンの値段が倍になったわけではない。
それとは対照的に、投機が住宅・不動産に殺到すると、投機家以外の人々が支払わなければならない住宅のコストを致命的に歪めてしまう。投機家が非投機家を犠牲にして報酬を得るだけの投機によって、必需品の価格が高騰したとき、社会秩序の導火線に火がつく。現在、米国の上位1%世帯の純資産は、1990年の全純資産の23%から32%に急増している。貧富の差の拡大は過去最高レベルである】
上位1%の富裕層が保有する純資産総額のシェア

現在の米国の住宅価格は、前回のリーマンショック(世界金融危機)前の住宅バブルのピークよりも内容が悪化している。米国の世帯の中央値は、価格中央値の住宅を購入するために収入の43.8%を支出する必要があり、これは過去最高額である。
米国の所得中央値に占める住宅ローンの中央値

この前例のない住宅評価バブルは、米国の住宅不足によるものではなく、巨額の利益をすくい取る低リスクの方法として、投機資金が住宅に流入するよう促した15年にわたる米金融当局の大規模な金融刺激策によるものである。
現在の米国経済ではすでに「スタグフレーション(不景気の物価高)」が始まっている。大きな問題は以下の3点だ。
経済は減速しているが金利は急上昇している(スタグフレーション)。
米10年国債金利(日足)

出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
中国景気が減速しているにもかかわらず、原油価格が高騰している。
NY原油CFD(日足)

出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
住宅ローン需要が急減しているにもかかわらず、米国住宅価格は上昇している。
S&Pケース・シラー全米住宅価格指数

このようなスタグフレーションの状況下で、バイデン政権以降の米国では微罪になった窃盗犯罪が止まらない。米ディスカウントストアを展開するターゲットは26日、窃盗犯罪による損失を抑制するため、4州の9店舗を閉鎖すると明らかにした。
ターゲットは声明で、チームとゲストの安全が危険にさらされており、閉鎖を余儀なくされていると述べた。ウォルマートも盗難を理由に店舗閉鎖や価格引き上げを検討している。悪性インフレが続くにつれて、犯罪が急増している。
2023年7月の米国の個人貯蓄率は3.5%で、パンデミック前の平均6.9%を大きく下回っている。米国ではクレジットカードの平均金利が21%にまで上昇している。それでもクレジットカード残高は過去最高の1兆ドル超に増加している。家計負債総額は17兆ドルと過去最高を記録した。
ここにきて、クレジットカードのデフォルト率は急速に上昇し、上位100の銀行で2.45%、その他の銀行で7.51%と過去最高水準に上昇してきている。このまま金利が高止まりすると、さらに悪化する可能性がある。クレジットカード残高の急増は、消費者(および企業)の債務不履行の急増につながるだろう。
現時点で家計を支えている超過貯蓄はわずか800億ドルのみ

JPモルガンのジェイミー・ダイモンは、インドのタイムズ紙とのインタビューで、「世界は最悪のシナリオであるスタグフレーションの脅威に直面しており、その結果に対する中央銀行の対応(金利の引き上げ)については準備ができていない。ウクライナ、石油、ガス、戦争、ヨーロッパなど、他のすべての影響を受けるだろう」と警告した。
JPモルガンの著名ストラテジストであるコラノビッチは、「現在の状況が2007年から2008年と同じであるとは言えません。しかし、ストレスの兆候は現れ始めています。今回は遅れが長くなり、その結果、ソフトランディング(軟着陸)、あるいはノーランディング(不着陸)という説が自己満足し、広く受け入れられる結果となっている」と、ソフトランディングシナリオに疑問を投げかけている。
米国経済に警鐘を鳴らし続けているピーター・シフは、「米国史上最大となる債券市場の暴落はまだ始まったばかりだ。現在、米国経済が歴史上のどの時点よりも(政府、企業、個人より)活用されていることを考えると、来るべき経済・金融危機は前例のない規模になるだろう」と述べている。
「景気後退が1年後なのか、4年後なのかは問題ではない。いま準備を始めないとすると、景気が良い間はうまくいくかもしれないが、不況になるとそれによって得られる利益よりもその投資によってもたらされる問題のほうが圧倒的に大きくなるだろう」
(ジェフリー・ガンドラック)
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9月27日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」は、今中能夫さん(楽天証券経済研究所チーフアナリスト)をゲストにお招きして、「日本企業を脅かす円高と金利上昇の恐怖」・「GAFAMの強さとAIの現状」・「アップルのiPhoneは売れるのか?」・「テスラと自動運転」というテーマで、今中さんに根掘り葉掘り聞いてみました。ぜひ、ご覧ください。




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9月27日: 楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー

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(石原 順)