日経平均は海外投資家からの資金流入で大幅高に

 直近1カ月(12月18日~1月22日)の日経平均株価(225種)は終値ベースで11.6%の大幅上昇となりました。2024年に入って上昇ペースが加速、10日に1990年3月以来となる3万4,000円台を突破しましたが、15日には一気に3万6,000円台にまで到達する展開となっています。


 9日から15日までの5営業日で、日経平均の上昇幅は2,138円となりました。

ちなみに、22日にかけても一段高の状況となっています。なお、この期間(12月15日~1月19日)のダウ工業株30種平均の騰落率は1.5%の上昇でした。


 2023年末にかけては、欧米機関投資家のクリスマス休暇入りや日本の年末年始休暇入りを控えてやや上値の重い動きとなりました。一方で2024年に入り、大発会こそ米国株安や能登半島地震発生の影響で売り先行となりましたが、その後は、海外投資家の日本株買いの動きが活発化する形となり、日経平均は急上昇する展開となっています。


 1月第2週(1月8日~1月12日)の投資主体別売買動向では、外国人投資家が1兆4,456億円と大幅な買い越し(現物と先物合算)となりました。日本株への資金流入の背景としては、東証が主導する「資本コストを意識した」企業の経営変化への期待、中国市場の先行き懸念に伴う日本への資金シフトなどが挙げられるでしょう。


 また、能登半島地震の影響を見極める必要があるとして、日本銀行の金融緩和政策修正のタイミングが先送りされるとの見方が台頭し、米国長期金利が底堅い動きとなる中で、為替市場が再度ドル高円安方向にシフトしたことなども、日本株の押し上げ材料につながりました。


 年初からは半導体関連がリード役となりました。米国市場ではエヌビディアなどが年明け以降に強い動きとなり、東京市場でも ソシオネクスト(6526) 、 SCREENホールディングス(7735) 、 ディスコ(6146) 、 アドバンテスト(6857) 、 KOKUSAI ELECTRIC(6525) 、 レーザーテック(6920) などの半導体関連銘柄が期間中20%以上の上昇となりました。


  川崎汽船(9107) 、 日本郵船(9101) などの海運株もコンテナ運賃市況の急上昇が材料視されて大幅高となりました。ほか、 さくらインターネット(3778) は昨年末から一時株価が倍化、政府クラウドの提供事業者への選定、米エヌビディアとの連携期待などを期待材料視する動きが続きました。 コナミグループ(9766) はPS5向け新タイトルへの期待が高まる形となりました。


 半面、 ベイカレント・コンサルティング(6532) 、 SHIFT(3697) 、 Sansan(4443) など中小型グロース株の代表銘柄が下落率上位となっています。米長期金利の上昇で相対的に中小型グロース株が上値の重い動きとなる中、決算における収益成長率の鈍化もそろって意識される状況となったようです。業績下方修正の ディップ(2379) 、地震による生産面への影響懸念で サンケン電気(6707) なども軟調でした。


短期的な過熱感強い、日銀の緩和修正控え押し目待ちが必要に

 日本銀行の金融政策決定会合が1月22~23日に開催されました。想定通りマイナス金利の解除は見送られましたが、23日の日経平均は高値から急速に伸び悩む動きとなりました。


 「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)や総裁会見にも大きなサプライズはありませんでしたが、展望リポートでは、「先行きの不確実性はなお高いものの、物価見通しが実現する確度は、引き続き少しずつ高まっている」とされ、植田和男総裁の記者会見では「賃上げを早めに決めた企業多い」との指摘がなされました。


 これらから、少なくとも次回3月会合の政策修正を否定するものにはならなかった印象です。今後の焦点は、今回の春闘における賃上げの状況となりますが、次回の日銀政策決定会合が開催される3月18~19日直前の3月15日には、連合の第一回目の集計値が公表される見通しです。足元で再度ドル高円安が進む中、3月会合での政策修正の可能性は引き続き高いように見受けられます。


 年初からの急ピッチの株価上昇に関しては、やや過熱感が拭い切れません。3月、遅くとも4月には日銀による金融緩和政策の修正が行われ、為替相場のドル安円高反転の動きにつながる可能性が高いことから考えても、今後は押し目を待つスタンスが必要になってくるでしょう。ほか、目先の株式市場の注目点としては、2023年10-12月期決算発表の本格化が挙げられます。


 このタイミングでは、2025年3月期の業績動向に関心が向かうものと考えられ、ポジティブな10-12月期決算や2024年3月期業績上方修正などが評価されるよりも、新年度の業績ガイダンスに対する不透明感が強まりそうです。


 ここまでの利上げによる米国景気の減速、為替市場での円高反転、中国景気の低迷継続、さらには建設業や運輸業で影響が顕在化する2024年問題などを考慮すると、期初の段階では保守的な計画の企業が増えてくる可能性も高いと判断されます。


 今後注目したい業種として、まずは日本銀行の金融緩和政策修正を見越した金融関連株、とりわけ地方銀行株が挙げられるでしょう。銀行株は配当利回り水準の高いものが多く、地元の投資家を中心とした新NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)の投資対象にもなってきそうです。


 また、年央にずれ込みそうですが、米国の金融政策を決めるFOMC(連邦準備制度理事会)で利下げ転換を織り込むのであれば、内需系の中小型グロース株の見直しの動きにも注目したいところです。


 日経平均の上昇と比べると株価の出遅れ感は依然強い状況にあると考えられます。新NISAスタート年でもあり、3月末にかけては高配当利回りの大型株の動向も注目されます。これら銘柄の動きは新NISAへの資金流入の度合いを推し量ることにもつながりそうです。


 PBR(株価純資産倍率)1倍割れ銘柄では、改善策の開示が進んでいないスタンダード市場の銘柄群に関心が向かいます。開示企業が増えるに従い、対応策の一環としてグループ再編、MBO(経営者による買収)などの動きも増加してくるものとみられます。


日経平均最高値が視野に、新NISA資金流入期待は一段と高まる

 2024年1月からは新NISAがスタートしていますが、それに伴うNISA資金の流入状況の詳細は現状で定かになっていません。ただ、年初から株式市場の上昇ペースは加速しており、1989年の日経平均最高値3万8,915円も一気に視界に入ってくる状況となっています。


 最高値水準が接近するに従い、株式市場への関心は一段と高まる可能性が高く、今年から税制優遇措置が一層拡充された新NISAがスタートしていることもあり、新たな投資家層の参入は大いに想定されてくるでしょう。とりわけ、配当権利取りとなる3月末にかけては、高配当利回りの大型株にはNISA資金の流入期待が高いといえます。


 主に長期資金での投資となるNISA投資の対象としては、高配当利回りに加えて、業績成長力の高さも注目されやすいと考えられます。今回は高配当利回りで、かつ、新型コロナウイルス感染拡大前の2018年度と比較して収益水準が大きく拡大している銘柄をスクリーニングしています。


(表)収益成長率の高い高配当利回り銘柄 コード 銘柄名 配当利回り
(%) 1月22日終値
(円) 時価総額
(億円) 成長率
(%) 1662 石油資源開発 4.27 5,860.0 3,349 84.0 5334 日本特殊陶業 4.04 3,960.0 8,085 13.4 5406 神戸製鋼所 4.50 1,998.0 7,918 27.9 5803 フジクラ 3.78 1,189.5 3,519 14.3 9104 商船三井 3.65 5,200.0 18,824 19.0 注:成長率は今期予想含めた5期間の営業利益平均成長率

銘柄選定の要件


  • 配当利回りが3.5%以上(1月22日現在)
  • 時価総額が3,000億円以上
  • 今期予想含め5期間の営業利益年平均成長率が10%以上
  • 厳選・高配当銘柄(5銘柄)

    1 石油資源開発(1662・東証プライム)

     原油や天然ガスなどの開発、採掘、生産、販売を行う資源開発会社です。現在、国内10カ所(北海道・秋田・山形・新潟)の油ガス田で原油・天然ガスを生産しています。海外では5カ所でプロジェクトを遂行中、また、シンガポールを拠点としたLNG(液化天然ガス)の調達なども行っています。


     原油価格の影響度としては、1ドル/バレルの上昇で3.5億円の純利益プラス要因、為替の影響度としては、1円/ドル円安で3.4億円の純利益プラス要因となるようです。


     2024年3月期第2四半期(4-9月期)の営業利益は285億円で前年同期比47.6%増となっています。米国、イラクなどの海外E&P(石油・天然ガス産業における探鉱・開発・生産フェーズ)事業、I/U(インフラ・ユーティリティ)事業などが増益に寄与しました。


     2024年3月期営業利益は488億円で前期比21.4%減の見通しで、上半期決算時に従来予想の389億円から上方修正しています。国産原油や国産天然ガス販売価格の上昇が主な上振れ要因となるようです。上方修正と合わせて、年間配当金も従来計画の200円から250円に引き上げています。前期比では120円の減配となる形です。


     営業利益は2021年3月期の41億円から2022年3月期には198億円、2023年3月期には620億円と、2年間で急激に拡大しています。

    原油価格の上昇、LNGの販売量増加・販売価格上昇などが主要因となっています。2023年3月期からは連結配当性向を導入し、配当水準も大きく引き上がっています。


     利回り水準が高いほか、ネットキャッシュが極めて豊富である状況下、東証のPBR1倍割れ改善要請もあり、継続的な自社株買い実施など一段の株主還元強化が図られていく可能性もありそうです。


    2 日本特殊陶業(5334・東証プライム)

     世界最大のセラミックス企業グループと位置付けられる森村グループの一員です。自動車部品では、スパークプラグで世界シェア45%、センサで同40%のシェアを占めています。ほか、半導体用のセラミック製品なども手掛けていますが、自動車部品が利益の大半を占めます。


     輸出比率は8割超と高水準で、相対的に中国依存度は低く、欧州構成比が高くなっています。スパークプラグは補修用のウエートが高いため、比較的収益水準は安定しています。


     2024年3月期第2四半期(4-9月期)の営業利益は570億円で前年同期比6.4%増となっています。自動車生産の回復に伴って、プラグやセンサなど主力の自動車関連事業が伸長し、価格改善効果や為替の円安進展などもプラスに寄与しました。


     2024年3月期通期予想は従来の965億円から1,100億円、前期比23.3%増に上方修正しています。補修用プラグや半導体分野が想定以上に底堅かったことや為替の円安効果が上振れ要因となっているようです。会社側では配当性向40%を基本方針としており、年間配当金は従来計画の133円から160円(前期比6円減配)に引き上げています。


     2022年3月期営業利益が前期比59.3%増、2023年3月期が同18.2%増、さらに2024年3月期は同23.3%増と、ここ3年間は収益の拡大基調が継続する形になっています。半導体製造装置向けセラミックの収益拡大がけん引役ですが、2024年3月期に関しては自動車関連分野の改善が寄与しました。


     2025年3月期以降は市況回復に伴って再度半導体分野の伸長が期待でき、収益拡大基調は継続の見通しです。現在、200億円を上限とする自己株式の取得実施も行っています。なお、全固体電池など次世代電池の材料開発を進めていること、水素関連技術の高さなども今後折に触れ注目される可能性があるでしょう。


    3 神戸製鋼所(5406・東証プライム)

     国内第3位の高炉メーカーです。事業領域は幅広く、アルミ圧延品、素形材、溶接材、建設機械・産業機械、プラント・電力など、バランスの取れた事業ポートフォリオとなっています。一方、鉄鋼大手の中では相対的に輸出比率は低く、自動車業界向け比率が高いことが特徴です。


     利益構成比は、素材系、機械系、電力の3分野で大きな差がなくなっている状況です。日本製鉄が第3位の大株主になっています。主に天然ガスを使用して鉄鉱石を還元する直接還元鉄事業に注力しています。


     2024年3月期第2四半期(4-9月期)経常利益は916億円で前年同期比2.2倍となっています。鉄鋼メタルスプレッドの大幅な改善、神戸発電所4号機の稼働や燃料費調整の時期ずれ影響の改善などが大幅増益に寄与しました。

    2024年3月期通期見通しは1,450億円で前期比35.7%増の見通しです。


     第2四半期業績が上振れたにもかかわらず、従来予想を据え置きと保守的な印象があります。機械や電力事業を上方修正する一方で、販売数量減少から鉄鋼アルミ事業は当初見込みを下振れるようです。年間配当金は前期比50円増の90円を計画しています。


     2022年3月期に経常利益は前期比5.7倍と急拡大しましたが、2024年3月期も一段と収益水準は高まる見込みになっています。機械事業や電力事業が収益成長をけん引する形となっています。2023年8月には配当性向の見直しを発表しており、これまで15~25%程度を目安としていたものを30%程度目安に変更しています。


     鉄鋼大手の中では市況変動による業績変動リスクは相対的に低く、中長期的な買い安心感があるといえるでしょう。また、日本製鉄とは株式持合い関係にある一方、JFEホールディングスとの鉄鋼事業統合が度々思惑視されるなど、業界再編の核とみられていることも買い材料といえるでしょう。 


    4 フジクラ(5803・東証プライム)

     電線大手の一角となります。1957年にワイヤーハーネス、1979年に電子機器用FPC(フレキシブルプリント基板)の生産を開始、1980年代には光ファイバを開発し、電力・通信向けケーブルを含めたこれら製品が現在の主力事業となっています。


     自社工場跡地を活用した「深川ギャザリア」などの不動産賃貸収入も安定収入源です。近年では、収益性の高い高密度光ファイバケーブルの販売が業績拡大のけん引役となっています。1円の円安で年8億円程度の営業増益になるとみられています。


     2024年3月期第2四半期(4-9月期)営業利益は307億円で前年同期比12.7%減となっています。エネルギー事業は国内の新工場建設に伴う需要が好調でしたが、エレクトロニクス事業の減収の影響が響きました。一方、円安効果もあって従来計画の240億円は上回る着地になっています。


     2024年3月期通期では540億円で前期比23.0%減の見通しで、従来計画の600億円から下方修正しています。エレクトロニクス部門が下振れするようです。2024年3月期からは配当性向を30%とする方針で、年間配当金は前期比15円増の45円を計画しています。


     2023年3月期に業績は急拡大、営業利益は前期比83.2%増と大幅増益になりました。2024年3月期は減益見通しといえ、前期に続く過去2番目の高水準ではあります。北米でのエネルギー事業や情報通信事業部門におけるデータセンタ、FTTx(Fiber To The x)向け需要の拡大が背景となっているようです。


     現在、米国では補助金の動向を見極めるため通信キャリアの投資決定が先延ばしされているとみられており、今後は潜在需要の顕在化が見込めるでしょう。また、AI市場の拡大に伴いデータセンタ向けの光ケーブル・光部品需要も引き続き成長が見込めると考えます。


    5 商船三井(9104・東証プライム)

     海運業界大手の一角です。2023年3月末現在、グループ運航船舶規模は697隻で5,067万重量トンとなっています。ドライバルク船(ばら積み船)では世界最大規模の戦隊を擁するなど強みを持つほか、自動車船は国内で初めて就航させ、LNG船でも世界トップクラスのシェアとなっています。


     2017年7月に、日本郵船(9101)、川崎汽船(9107)と定期コンテナ船事業を統合しています。2020年にはアジアで初めてSOV(Service Operation Vessel、洋上風力メンテナンス支援船)事業に参入しています。


     2024年3月期第2四半期(4-9月期)経常利益は1,545億円で前年同期比74.2%減となっています。持分法適用会社ONEで展開しているコンテナ船事業が、前年の市況高騰の反動で大幅減益となったことが減益決算の背景です。ただ、想定ほどの落ち込みはなく、従来予想比で経常利益は195億円ほど上振れました。


     2024年3月期通期では2,200億円で前期比72.4%減の見通しです。コンテナ船事業を下方修正する一方、ドライバルク、エネルギー事業を引き上げたことで、従来予想を据え置いています。年間配当金は前期比370円減配となる190円を計画しています。なお、配当性向は30%ですが、年間の下限配当は150円としています。


     コンテナ運賃市況の急騰によって、2022年3月期、2023年3月期の経常利益は破格の水準となり、これはあくまで特殊要因であったと捉えるべきでしょう。ただ、営業利益も2023年3月期は4.4倍と急拡大し、2024年3月期も続伸見通しとなっています。鉄鋼原料船やドライバルク、タンカーなどの市況回復が背景となっています。


     海運業界は総じて業績の変動率が大きくなりやすいですが、2024年3月期業績見通しにおける市況前提は平常時のものと捉えられ、2025年3月期以降は業績反動減の余地は乏しいでしょう。なお、コンテナ運賃は2024年に入って急伸しており、短期的には2024年3月期の業績上振れ期待が高まるものと考えられます。


    (佐藤 勝己)

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