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著者の今中 能夫が解説しています。
「 セクターレポート:生成AIとクラウドサービスの現状と展望(生成AIがいよいよ実務の中へ。クラウドサービスは「ティア2」に注目) 」
毎週月曜日午後掲載
本レポートに掲載した銘柄: マイクロソフト(MSFT、NASDAQ) 、 オラクル(ORCL、NYSE)
生成AIとクラウドサービスの現状と展望
1.2025年から生成AIと生成AI関連アプリケーションを搭載した企業の情報システム構築が本格化
2022年11月30日にAI開発機関「OpenAI」が生成AI「ChatGPT」を公開してから2年が経ちました。この間、様々な生成AIが登場し実際に様々な実務の中で使われています。また、新しい生成AI、生成AIを組み込んだ生成AIアプリケーションも大手IT企業やスタートアップで開発中です。
すでに、多くの広告クリエーター、映像クリエーターが画像生成AIを実務の中で使っています。また、マイクロソフトのAIアシスタント「Copilot」、CRM(クライアント・マネジメント・システム)のユーザー向けに特化したセールスフォースの「Agent Cloud」はオフィスワーカーに普及し始めています。「ChatGPT」の最新エンジンである「GPT-4」(OpenAIと提携しているマイクロソフトの製品にも搭載されている)、アルファベットの「Gemini」なども実務で使われていますが、これら大手ITが開発した生成AIは、文書生成、画像生成、プログラミング生成など複数の生成をこなす「マルチモーダル」になっています。
企業の生成AI関連システムへの支出は年率約60%の成長が予想されており、情報化投資の中でも最優先課題となっています。
2025年になると、これまでに出た生成AI、現在開発中の生成AIと生成AI関連アプリケーションが企業の情報システムに本格的に組み込まれることになると思われます。これは、大手、準大手(ティア2)のクラウドサービス会社だけでなく、大手システムインテグレーター、大手サーバーメーカーの業績に大きな影響を与えると思われます。
グラフ1 生成AI関連ソリューションに対する世界の企業支出

2.クラウドサービスの好調続く。「ティア2」の企業に注目したい。
2025年から、生成AIと生成AI関連アプリケーションが企業の情報システムに本格的に組み込まれることになると思われます。この場合、AI半導体の集積が進み、エヌビディアの新型AI半導体「Blackwell」を大量購入するであろうクラウドサービス大手3社、アマゾン・ドット・コム(AWS)、マイクロソフト(Azure)、アルファベット(グーグルクラウド)だけでなく、「ティア2」と言われる準大手クラスのクラウドサービス会社、オラクル、IBM、セールスフォース、サービスナウなど、そしてIBMのような大手システムインテグレーターにもプラスの影響があると思われます。
生成AIの開発と学習、推論に対する旺盛な需要を賄うため、大手クラウドサービス会社と「ティア2」の準大手クラウドサービス会社は積極的な設備投資を続けています。
また、生成AIアプリケーションを組み込んだ情報システムを自社で構築したいという考えの会社もあると思われます。その場合は、IBMのようなシステムインテグレーター、デル・テクノロジーズのようなAIサーバーメーカーが注目されます。
グラフ2 クラウド・インフラストラクチャー・サービス市場の世界シェア

グラフ3 クラウドサービス大手3社のクラウドサービス売上高

グラフ4 アメリカの大手IT設備投資動向:四半期

3.生成AIとクラウドサービス関連の注目企業:今回はマイクロソフトとオラクル
表1は生成AIとクラウドサービスの主な関連企業を示したものです。今回はこの中でマイクロソフトとオラクルを取り上げます。
表1 生成AIとクラウドサービス関連企業(主なもの)

注目企業
マイクロソフト
1.マイクロソフトの2025年6月期1Qは16.0%増収、13.6%営業増益
マイクロソフトの2025年6月期1Q(2024年7-9月期、以下今1Q)は、売上高655.85億ドル(前年比16.0%増)、営業利益305.52億ドル(同13.6%増)となりました。前4Q決算発表時の会社側ガイダンスのレンジ平均値、売上高643億ドル、営業利益290億ドルを上回りましたが、インテリジェントクラウドの増益率鈍化、パーソナルコンピューティング他の営業減益が響き、全社営業利益は前1Q47.6%から今1Q46.6%へ低下しました。
表2 マイクロソフトの業績

時価総額 3,147,578百万ドル(2024年11月29日)
発行済株数 7,472百万株(完全希薄化後、Diluted)
発行済株数 7,433百万株(完全希薄化前、Basic)
単位:百万ドル、%、倍
出所:会社資料より楽天証券作成。
注1:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。
注2:EPSは完全希薄化後(Diluted)発行済株数で計算。ただし、時価総額は完全希薄化前(Basic)で計算。
注3:会社予想は予想レンジの平均値。
2.セグメント別動向
今1Qをセグメント別に見ると、プロダクティビティ&ビジネスプロセスは、売上高283.17億ドル(前年比12.3%増)、営業利益165.16億ドル(同15.5%増)となりました。「マイクロソフト365」(オフィス系ソフトのクラウドサービス)が順調に伸びたことで、「マイクロソフト365コマーシャルプロダクツ&クラウドサービス」が前年比13%増と堅調でした。ERPソフトの「Dynamics」を中心とする「Dynamicプロダクツ&クラウドサービス」が同14%増とこれも堅調でした。
AIアシスタント「Copilot」が大企業中心に普及しています。AIアシスタントは次の段階でより複雑な処理が可能になるAIエージェントにレベルアップすることになりますが、マイクロソフトは「Copilot」をカスタマイズできる「Copilot Studio」にAIエージェント機能を付け2024年11月から顧客に提供しています。プロダクティビティ&ビジネスプロセスへの業績寄与はまだ小さいと思われますが、将来性は大きいと思われます。
インテリジェントクラウドは、売上高240.92億ドル(同20.4%増)、営業利益105.03億ドル(同17.9%増)となりました。クラウドサービス「Azure」を中心とする「Azure&その他のクラウドサービス」は前年比33%増となり、前4Qの同29%増から伸び率が大きくなりました。AI中心にAzureへの需要は依然として供給を上回っています。これは、GPU不足というよりも電源不足の問題とAzureを通して顧客にソフト、各種機器を提供しているサードパーティのソフト、機材の納入が遅れているためです。また、大型設備投資が継続しているため、全社減価償却費は前1Q39.21億ドルから今1Q73.83億ドルと大幅に増加しました。この増加分の多くがインテリジェントクラウドの減価償却費の増加分と思われます。これが利益を圧迫しました。
パーソナルコンピューティング他は、売上高131.76億ドル(同16.8%増)、営業利益35.33億ドル(同4.3%減)となりました。2023年10月に買収が成立したゲームソフト大手「アクティビジョン・ブリザード」の寄与が売上高で16.9億ドルあったことからゲーミングは前年比43%増と大幅増収になりましたが、買収関連費用の負担で営業利益には4.4億ドルのマイナス影響が生じたため、このセグメントは営業減益となりました。
商業残存履行義務(受注残高に相当)は今1Q末2,590億ドル(前年比22.2%増)となりました。季節性により前4Q末より減少しましたが、高い伸びが続いています。Azureで1億ドル以上の大型契約が増えていることも寄与しました。
表3 マイクロソフト:セグメント別業績(四半期)

出所:会社資料より楽天証券作成
注:会社予想は予想レンジの平均値。
表4 マイクロソフト:個別製品・サービスの前年比伸び率

出所:会社資料より楽天証券作成
3.2025年6月期は増益率鈍化へ、ただし、能力増強の効果で2026年6月期は増益率上昇が予想される
今2Qの会社側ガイダンスのレンジ平均値は、売上高686億ドル(前年比10.6%増)、営業利益301.5億ドル(同11.5%増)です。今1Qに比べて業績の伸び率が鈍化しますが、これは一時的で今3Q以降再び業績変化率が高くなることが予想されます。
プロダクティビティ&ビジネスは堅調な伸びが続くと思われます。当面の注目点は、「マイクロソフト365」と「Dynamics」に搭載された「Copilot」「Copilot Studio」とこれらに搭載されたAIエージェントがいつからこのセグメントに対して寄与するかです。
インテリジェントクラウドは、今3Qからデータセンターに対する電力制約の緩和、エヌビディアの新型AI半導体「Blackwell」の大量購入によるAzureの能力増強と受注のさらなる大型化が予想されます。今期に対して来期は業績の伸びが高くなることが予想されます。2025年1月にトランプ政権が発足した後は、トランプ政権は化石燃料に対する規制を緩和する考えなので、データセンターに使う電力の確保は今よりも容易になると思われます。
パーソナルコンピューティング他は、今2Qはアクティビジョン・ブリザード買収の特殊要因がなくなります。また、前2Qは大型シリーズである「Call of Duty」新作が発売されたため、今2Qはその反動が予想されます。加えてXboxハードウェアが減収になるマイナス要因が予想されます。ただし、今3Q以降はアクティビジョン・ブリザードの新作ソフトの寄与等によるゲーミング収益の伸びに注目したいと思います。
楽天証券ではマイクロソフトの2025年6月期業績を前回予想と同じ売上高2,830億ドル(同15.5%増)、営業利益1,290億ドル(同17.9%増)と予想します。
今後の注目点は、インテリジェントクラウドの増収増益率が、「Blackwell」導入によってこれまでの伸び率よりもどの程度高い伸び率になるかです。
表5 マイクロソフト:セグメント別業績(通期)

出所:会社資料より楽天証券作成
グラフ5 マイクロソフトの商業残存履行義務

4.今後6~12カ月間の目標株価は前回の510ドルを維持する
マイクロソフトの今後6~12カ月間の目標株価は前回の510ドルを維持します。
Azureの能力拡張に対する電力、機材等の制約が今後緩和されると思われること、2026年6月期はエヌビディアの新型AI半導体「Blackwell」を大量購入してクラウドサービスで顧客に提供する効果がフルに発揮されると思われることを考慮し、楽天証券の2026年6月期予想EPS(1株当たり利益)16.9ドルに今の予想PER(株価収益率)30倍前後を当てはめました。
引き続き中長期で投資妙味を感じます。
オラクル
1.オラクルの2025年5月期1Qは6.9%増収、21.1%営業増益
オラクルは、データベースマネジメントシステム(DBMS。Oracle Database)、ERP(Fusion、NetSuite)からなるソフトウェア会社です。かつてはDBMSでトップ企業であり、今も使われているDBエンジンではオラクルがトップですが、オンプレミス(情報システムの自社開発)からクラウドへの流れに乗り遅れたため、2023年の世界データベース売上高では、1位AWS、2位マイクロソフト、3位オラクル、4位グーグル、5位IBMという順位になっています。
また、EPR市場では1位のSAPに次ぐ2位または3位の地位にあります。
一方で、ここ数年間は急速なクラウド化を推進しており、データベースソフトウェア、ERPともにオンプレミスからクラウドでの提供に転換してきました。これが、全体の営業利益率の改善と二桁営業増益に繋がっています。
オラクルの2025年5月期1Q(2024年6-8月期、以下今1Q)は、売上高133.07億ドル(前年比6.9%増)、営業利益39.91億ドル(同21.1%増)となりました。
セグメント別売上高を見ると、今1Qはクラウドサービス56.23億ドル(前年比21.3%増)、ライセンスサポート48.96億ドル(同0.3%減)となり、合わせてクラウドサービス&ライセンスサポート(月、四半期、年間支払い等のサブスクリプションサービス)は105.19億ドル(同10.2%増)と堅調でした。
また、クラウドライセンス&オンプレミスライセンス(顧客から見ると買い取り型)は8.70億ドル(同7.5%増)となりました。今1Qは前年比増収となりましたが、2023年5月期3Qから前4Qまで前年割れが続いています。これはオンプレミスからクラウドへの転換が進んでいるためです。ハードウェア、サービス等も同様にオンプレミスからクラウドへの転換が進んでいるため、前年比減収が続いています。
表6 オラクルの業績

時価総額 510,343百万ドル(2024年11月29日)
発行済株数 2,851百万株(完全希薄化後、Diluted)
発行済株数 2,761百万株(完全希薄化前、Basic)
単位:百万ドル、%、倍
出所:会社資料より楽天証券作成。
注1:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。
注2:EPSは完全希薄化後(Diluted)発行済株数で計算。ただし、時価総額は完全希薄化前(Basic)で計算。
表7 オラクル:セグメント別売上高(四半期)

出所:会社資料より楽天証券作成
2.2025年5月期、2026年5月期とも20%以上の営業増益が予想される
今2Qの会社側の売上高ガイダンスは前年比8~10%増、このうちクラウドサービス売上高は同24~26%増です。会社側は2025年5月期売上高を二桁増収と予想していますが、実際にそうなる場合は、今3Q、今4Qの増収率は今2Qよりもさらに上昇すると思われます。これはオンプレミスからクラウドへの転換の効果が今2Qまでよりも強く寄与するためと思われます。
今1Qまでの実績と会社側ガイダンスを参考にして、楽天証券では2025年5月期を売上高575億ドル(前年比8.6%増)、営業利益190億ドル(同23.8%増)、2026年5月期を売上高635億ドル(同10.4%増)、営業利益240億ドル(同26.3%増)と予想します。2026年5月期で重要なのは「Blackwell」導入の収益寄与です。2024年9月にオラクルは、「Blackwell」を最大13万1,072基搭載可能なスーパーコンピュータをクラウド経由で受注開始したと発表しましたが、「Blackwell」はこれまでの「H100」「H200」に比べて価格が高いため、「Blackwell」ベースのサービスがどの程度大きな収益寄与になるか、注目されます。
なお、オラクルは四半期ごとに8億ドル強の利払いを行っており、その分当期純利益の水準が低くなっています。これは医療情報技術大手のサーナーを2022年6月に283億ドルで全額現金で買収した際の借入金と思われます。
今1Q末残存履行義務は990億ドルです。通常は前4Q末から今1Q末にかけて残存履行債務は減少しますが、今期は大型受注があったため、増加しました。これを見ると、今期、来期とも順調な業績の伸びが予想されます。
表8 オラクル:セグメント別売上高(通期)

出所:会社資料より楽天証券作成
グラフ6 オラクルの残存履行義務

3.今後6~12カ月間の目標株価を230ドルとする
オラクルの今後6~12カ月間の目標株価を230ドルとします。
楽天証券の2026年5月期予想EPS5.89ドルに、今の評価である今期予想PER40倍前後を当てはめました。クラウド化の進展による業績変化の大きさに期待できると思われます。
中長期で投資妙味を感じます。
本レポートに掲載した銘柄: マイクロソフト(MSFT、NASDAQ) 、 オラクル(ORCL、NYSE)
(今中 能夫)