三つの大事なこと
- 高配当株ファンドは割安で配当利回りが高い。価格変動が小さく、保守的。中長期的な株価の上昇はS&P500種指数より弱い可能性あり。
- 高配当株の使いどころは、S&P500よりも安定的な運用をしたいとき。ハイテク株に過熱感があると感じたとき。
- 分配金を受け取るか、再投資して資産成長を目指すかで、分配方式(や実績)を見る。分配型は再投資には向かない。特定口座では課税され、NISA口座では枠を消費してしまう。
S&P500と高配当株ファンドの違いは?誰向き?
NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)では、米国の株価指数「S&P500」に連動するインデックスファンドが絶大な人気を誇っていますが、ここにきて注目度を増しているのが、米国の「高配当株」に投資するタイプのファンドです。
配当利回りが高いことに加えて、価格変動(ボラティリティ)が小さくなりやすいのが、高配当株の特徴。利回り収入(インカムゲイン)を積み上げながら、安定的に運用したいというニーズに応えられます。
中長期的な株価の成長・値上がり(キャピタルゲイン)は、S&P500のインデックスファンドに劣る可能性はありますが、それでも株式市場が大きく下がったときにヒヤヒヤしたくない人に向いています。
米国のハイテク株の見通しに懸念がある人も、高配当株ファンドは選択肢に入ります。表1のS&P500のPER(株価収益率)は、27倍と歴史的に見ても割高な水準。
そして、良くも悪くもここまでの株価成長と現在の過熱感の中心にあるのは、超大型ハイテク株です。中長期的には大きな成長が期待できると考えていても、短期的には「さすがにちょっと行き過ぎだろう」と心配になる人も少なくないはず。
そんな人は、超大型ハイテク株の投資比率を抑えつつ、割安でディフェンシブな運用をしている高配当株に資金の一部を分散するのも一策。特に、S&P500やNASDAQ、FANG+といったハイテク株比率の高いインデックスファンドを持っている人には、相性のいい分散投資先になります。
高配当株と言っても、どの指数に連動するタイプがいいの?
ひと口に米国の高配当株に投資するインデックスファンドと言ってもいろいろあって、どう選べばいいか迷うかもしれません。そこでここからは、いくつかの選定ポイントを見ていきましょう。
まず一つ目は、利回り、割安度、成長力といった観点。今回は米国の高配当株ファンドの投資対象の例として、「SCHD」「VYM」とS&P500を比べてみます。
SCHDは米国に上場しているETF(上場投資信託)「シュワブ・米国配当株式ETF」、VYMはバンガード・米国高配当株式ETFです。それぞれ、ダウ・ジョーンズUSディビデンド100インデックス、FTSEハイディビデンド・イールド・インデックス(円換算ベース)という高配当株指数に連動するように作られたETF。ディビデンド(dividend)=配当です。
少しややこしいですが、実際に投資するファンドは、高配当株指数に連動するように作られたETFに投資する投資信託、ということになります。
ではまず、配当利回りですが、高配当株という名前の通り、SCHD、VYMともS&P500よりも相対的に高い利回りが期待できます。
次に、割安度(PER:株価収益率、PBR:株価純資産倍率)の観点でも、SCHD、VYMがS&P500よりも割安な銘柄で構成されています。SCHDはVYMと比べても、より高い配当利回り、より割安な銘柄(PERの観点)で構成されています。
逆に、利益成長の観点では、SCHD、VYMともS&P500を下回る傾向にあります。これは主に業種構成の違い(情報技術セクターの組み入れが低いこと)に起因しています。株価の上昇は長期的には企業の利益成長に連動するので、高配当株は株価上昇力ではS&P500に負ける可能性があることには注意が必要です。
また、ROE(自己資本利益率)を見ると、特にSCHDのROEが高くなっています。ROEは持っている資本でどのくらい効率的に利益を生み出す力を持っているかを見る指標です。つまり、SCHDの方がVYMよりも効率的な経営を行っている企業が多く含まれていると分かります。
このような特徴は必ずいつもそうであるとは限らず、市場環境によって変わる可能性はありますが、SCHDが銘柄数を約100銘柄まで絞り込んでいる分、VYM(約500銘柄)よりも、顕著に出やすいと考えてよいでしょう。
表1:SCHDとVYMとS&P500のポートフォリオ特性の比較

※配当利回りは30日SEC利回りを採用。基準日は2025年1月末時点。
なんで割安度と収益力に違いが出るの?業種構成の違い
高配当株とS&P500の業種構成を比較すると大きな違いがあります。S&P500の業種構成の最大の特徴は情報技術セクターが30%を超えていることです。これに対してSCHDとVYMの同セクターの構成比は10%に届かず、S&P500に比べて20%以上も少ない(アンダーウエート)ことになります。
逆にSCHDとVYMが共通してオーバーウエートしているセクターは、金融、資本財、生活必需品、エネルギー。これらのセクター構成比の違いが、高配当株とS&P500の割安度、収益力、ひいては運用成績の優劣をつける大きな要因となるわけです。
さらに、SCHDとVYMの構成比の違いとしては、SCHDの方がヘルスケア、生活必需品などの比率が高く、VYMの方が金融セクターの比率が高くなっています。
図1:業種構成比と乖離幅

銘柄数や企業規模の違いも、パフォーマンスに影響する
SCHDとVYMは銘柄数の違いからも、ポートフォリオの特性に若干の違いが出ます。SCHDの銘柄数は約100銘柄とVYMの500銘柄よりも絞り込まれています。このため組み入れ上位10銘柄の構成比もSCHDの方が40%超と集中していて、個別銘柄(特に上位銘柄)の影響を受けやすくなります。
言い換えれば、SCHDの方がより集中した、VYMの方がより分散された銘柄構成となっている(もちろん100銘柄に分散していれば、分散投資の観点では十分と言えます)。
また、企業規模の構成で見ると、SCHD、VYMともにS&P500と比べて超大型株の比率が低くなっています(特にSCHD)。これは高配当株が情報技術セクターの比率が低く、大型ハイテク株を組み入れていないことが理由です。
一方で、高配当株の方が中小型株の比率が高く、特にSCHDはVYMと比較してもその比率が高くなっています。高配当株とS&P500では大型株と中小型株の値動きの違いがそれぞれのパフォーマンスに影響を与えることを覚えておきましょう。
表2:銘柄数と企業規模構成比の比較

米国高配当株とS&P500、パフォーマンスを見ると?
SCHDが設定された2011年11月以来の運用実績を比較(図2)すると、中長期の実績ではSCHD、VYMともにS&P500を下回っています。この期間は、業績が好調だった情報技術セクターが米国株式市場をけん引したため、同セクターの投資比率が低いSCHDとVYMがS&P500を下回るのは必然です。
過去3年間の運用実績を比較(図3)しても、S&P500が優位だったことに変わりはありませんが、注目したい局面があります。2022年から2023年にかけて、一時的にSCHDとVYMがS&P500を上回っていたのです。
この期間はFRB(米連邦準備制度理事会)が米国の政策金利を引き上げた利上げ局面です。
冒頭でお話しした、安定的に運用したいなら高配当株。でも、株価成長力ではS&P500では負ける可能性がある、というのはここでも分かります。
さらに、SCHDとVYMでパフォーマンスを比べると、中長期(図2)ではSCHDが上回り、過去3年(図3)ではVYMが上回っています。これは金融セクターへの投資比率の違いが一因になっていると考えられます(VYMの方が金融が多い)。
2020年のコロナショックから2021年にかけての金利低下局面では金融セクターが出遅れ、2022年以降の金利上昇局面では同セクターが大きく上昇しました。
このように運用実績は、どの期間で見るか、その期間の市場がどのような環境だったかで結果が変わります。つまり、普遍的な優劣はつけるのは簡単ではありません。できることは、過去の実績を参考にどのような特徴があるかをつかむこと。
ざっくりですが、低金利・ハイテク株優位な環境であればS&P500、高金利・ハイテク株低迷の環境であれば高配当株が有利になりやすいイメージです。
図2:SCHD運用開始来の実績比較(2011/11~2025/01)

図3:過去3年間の実績比較(2022/01~2025/01)

分配金を受け取るか?受け取らないか?
最後に高配当株のファンドを選ぶポイントとして、押させておきたいのが「分配方法」。高い利回りを「すぐ受け取りたいか」「資産の成長に充てるか」のどちらを重視するかです。
運用の成果である分配金を定期的に受け取って、生活費に充てる、取り崩すつもりで使う、あるいは運用の成果を実感したいというのであれば、四半期ごとなどの「分配型」を選ぶ。
そうではなく、複利効果を生かしながら長期での資産の成長を目指すなら、分配金を受け取らず、「再投資」を選びましょう。
注意したいのは、四半期決算型などの分配型で分配金を再投資するケースです。例えば、特定口座で分配金を再投資する場合、利益から払い出される普通分配金はおよそ20%課税されてしまいます。
また、NISA口座で払い出された分配金を再投資する場合は、その分だけNISA枠を消費します。例えば、NISAで限度額ピッタリに毎月の積立額を設定している場合、12カ月目に(分配金の再投資で枠を消費したため)積立できないケースがあることに注意が必要です。
高配当株ファンドは、「安定的に運用したい、定期的な収入が欲しい、S&P500とは少し異なる値動きのファンドに投資したい」という人に向いているファンドです。特徴をよく理解した上で、自分のニーズ合ったものに投資できるといいですね。
「楽天・高配当株式」シリーズの概要
楽天・高配当株式・米国ファンド(四半期決算型)
米国に上場するETF「シュワブ・米国配当株式ETF(SCHD)」に投資して、配当収益の確保と中長期的な値上がり益の獲得を目指す。決算は2月、5月、8月、11月の年4回。
楽天・高配当株式・米国VYMファンド(四半期決算型)
米国に上場するETF「バンガード®米国高配当株式ETF(以下、VYMと略称)」に投資して、配当収益の確保と中長期的な値上がり益の獲得を目指す。決算は1月、4月、7月、10月の年4回。
※2025年3月3日まで当初募集を行い、2025年3月5日に設定
楽天・高配当株式・日本ファンド(四半期決算型)
ダウ・ジョーンズ日本配当100インデックス(S&P)を参照し、安定した配当実績を持つ高配当企業の中から銘柄を選定。決算は3月、6月、9月、12月の年4回。
(吉井 崇裕)