「クイズでわかる!資産形成」(毎週土曜日に掲載)の第70回をお届けします。資産形成をきちんと学びたい方に、ぜひお読みいただきたい内容です。


今日のクイズ

 N社は9月29日、子会社で東証に上場しているD社を完全子会社とすることを目指してTOBを実施すると発表しました。買付代金は最大4.3兆円となる見込みの巨額買収です。D社株の買付価格は、直前の株価に4割のプレミアムをつけています。とても高い価格での買い付けなので、TOB成立は確実と考えられています。


 N社株は、買収発表のニュースを受けた直後に株価が急落しましたが、その後持ち直してきています。


 ここで、N社株を売るべきでしょうか、あるいは買い増しするべきでしょうか?


 以下のN社株価チャートと説明を読んで、判断してください。


(1,000株保有中として考えてください)


N社株価日足チャート:8月28日~11月6日
巨額買収を発表後、株価が急落したN社、ここで買って良い?
出所:実在の会社をモデルとして筆者作成

<N社株価の動き説明>


【1】買収によりN社の財務負担が重くなることに懸念


 D社株を全て買い取って完全子会社にするのに4.3兆円の資金が必要で、N社はその大部分を当面借入で賄う予定です。財務上の負担が重くなることに対する懸念から、N社株はTOB発表の翌日の9月30日に売買高の増加をともなって急落しました。


【2】買収シナジーは大きい


 D社を完全子会社にすれば買収シナジー効果は大きく、長期的にN社の価値を大きく高めるという意見もあります。それにしても買収価格は高過ぎるという意見もあり、買収に対する評価は割れています。


巨額買収の評価は長い年月がたってから定まる

 巨額買収を行う上場企業の利益は短期的に悪化します。買収コストが重いこと、借入が増えることなどから短期的には利益を悪化させる要因となります。買収によるシナジー効果が出て、買収コストを上回るようになるのに何年もかかることがあります。


 そういうわけで、どんなに良い買収でも、巨額買収を発表する企業の株価は短期的には下がることが多いことが分かっています。


  ブリヂストン(5108) による米国のタイヤ大手ファイアストンの買収は何年もの間、「大失敗」といわれていました。ただし、今になってみると、ブリヂストンが米国で高い収益をあげるために重要な一歩だったことが分かります。高級タイヤを米国で現地生産・現地販売しているからこそ、米国が保守主義に走る時も万全でいられます。


  JT(2914) による、米国たばこ大手RJR社や英国のギャラハーの巨額買収も、長年にわたり「高すぎる買い物で失敗」といわれていましたが、今になってみると、買収コストを数年のキャッシュフローで取り返し、その後海外で利益を成長させる重要なステップでした。


正解は…

 正解は最後にお伝えします。


 このクイズは、テクニカル分析(チャート分析)とファンダメンタルズ分析を合わせて総合的に判断するクイズです。


 最初にテクニカル分析の視点からN社株を評価します。


「買い」と判断したいポイントが三つあります。


再掲:N社株日足
巨額買収を発表後、株価が急落したN社、ここで買って良い?
A社株日足

 チャートの中で1、2、3と番号をつけたところに注目してください。


【1】強気シグナル(底値圏で出来高急増、その後反発)


 底値圏で売買高急増。N社がD社にTOBをかけるという発表を受けて、財務上の負担が重くなることを懸念して投げ売りが出た。ところがその後、株価は急反発。底値で投げ売りした投資家は「しまった、あわてて売らなければ良かった」と後悔している。


【2】弱気シグナル(戻り高値を株価が超えていない)


 一時92.4円まで株価は反発したが、ここで戻りは終わり、また下げに転じた。足元では91.8円まで上昇してきているが、まだ戻り高値を超えていない。


【3】強気シグナル(4連続陽線・ゴールデンクロス)


 詳しい説明は割愛しますが、4日連続で陽線をたて、5日移動平均線と20日移動平均線がゴールデンクロスを形成しています。


 以上の分析から、テクニカル分析的には少し買ってみたいところです。ただし、自信を持って買うことができない理由があります。


【4】日柄整理ができていない


 9月に急落してから、まだ1カ月ちょっとしかたっていません。5日・20日移動平均線がゴールデンクロスを形成したものの、もっと長い13週移動平均線はまだ上向きに変わっていません。そのため、ちょっと買ってみたいと思うものの、自信満々で買いにいける状況ではありません。


 以上の考察より、テクニカル分析から「やや強気」の判断です。


 次にファンダメンタルズ分析を考えます。巨額買収を発表した会社が、財務負担を懸念して売られることは良くあります。ただし、買収による長期的な収益拡大の期待が高ければ、しばらくしてから株価が見直されて上昇することがあります。


 巨額買収が成功か失敗か、最終判断は買収をしてから何年も経過しないと分かりません。買収直後は、買収が失敗か成功かいろいろな思惑が乱れます。ただし、株価のチャート分析も併せて考えると、目先、買収は成功との思惑が広がる可能性があると考えられます。


 このようにチャートとファンダメンタルズを総合的に判断すると、「買い」が正解です。「売り」は明らかに悪手です。


「様子見」の判断は誤りとはいえません。詳しいことが分からないうちは手を出さないという考えも悪くはないからです。


 以下に、N社のその後の株価推移をお見せします。以下の通り大きく上昇しています。N社は NTT(9432) です。2025年3月5日にNTT株は146.9円まで上昇しています。


 D社は、当時上場していましたが、NTTの完全子会社となったため上場廃止となったNTTドコモです。


N社その後
巨額買収を発表後、株価が急落したN社、ここで買って良い?
出所:QUICKより作成。2023年7月1日に1対25の株式分割をしたことを調整してチャート作成

 NTT株については、以下の通り、楽天証券ストラテジストの茂木春輝が「買い推奨」レポートをリリースしていますのでご参照ください。


  • 3分でわかる!今日の投資戦略:2025年2月20日
    利回り3.5%のNTT、AI・ネットに光明(茂木春輝)

個別銘柄投資にチャレンジしたい方に

 最後に、個別株投資にチャレンジしたい方に、私の著書を紹介します。ダイヤモンド社より、株価チャートの読み方をトレーニングする「株トレ」(黄色の本)と、決算書の見方など学ぶ「株トレ ファンダメンタルズ編」(水色の本)が出版されています。どちらも一問一答形式で株式投資の基礎を学ぶ内容です。


「 2000億円超を運用した伝説のファンドマネジャーの株トレ 」


「 2000億円超を運用した伝説のファンドマネジャーの株トレ ファンダメンタルズ編 」


巨額買収を発表後、株価が急落したN社、ここで買って良い?
「株トレ」 シリーズ2点 表紙

(窪田 真之)

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