2025年3月17-21日、エヌビディアは「GTC2025」を開催した。そこで「Blackwell」から「Rubin」「Feynman」へ続く新しいロードマップが示された。

今後の大市場として自動運転とロボットが挙げられたが、いつ実現するかは不明。今後6~12カ月間の目標株価を前回の150ドルから135ドルに引き下げる。


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著者の今中 能夫が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 「GTC2025」でエヌビディアが語ったこと、語らなかったこと 」


毎週月曜日午後掲載


本レポートに掲載した銘柄 エヌビディア(NVDA、NASDAQ)


1.エヌビディアの年次技術セミナー「GTC2025」が開催された

 エヌビディアは2025年3月17-21日、恒例の年次技術セミナー「GTC2025」を開催しました。


 ここでは、「GTC2025」におけるジェンスン・ファンCEOのキーノートスピーチとアナリストQ&Aの内容を紹介します。


1)「推論」は「学習」よりもGPUを多く使う

 推論はAI用GPUを多く使う。AIの「学習」に対して「推論」は計算量が非常に多くなる。今後データセンターの事業で生成AIや各種AIの「推論」が多くなるため、AI用GPUの需要は引き続き増大するだろう。「H100」「H200」を買うよりも、高性能でコストパフォーマンスが良い「Blackwell」を買ったほうが良い。


2)「DeepSeek R1」による推論の実演

 キーノートスピーチの中で、Traditional LLMモデル(LLM(大規模言語モデル)は大量のデータとディープラーニング(深層学習)技術によって構築された言語モデル)として「Llama 3.3 70B」(メタ・プラットフォームズ。70Bパラメータ。H100を8個使用)、Reasoning Model(リーズニング・モデル。推論モデル。

あらかじめ学習した知識を使って答えを出す)として「DeepSeek R1」(DeepSeek。671Bパラメーター(うち37Bがアクティブ)。H100を16個使用)の二つのAIを使い、結婚式の際に新郎新婦と両親、牧師の7人が写真映りよく円卓に座る順番を答える問題を出す実演をおこなった。


 正解は「DeepSeek R1」が出したが、8,559のトークン(テキストを分解するときにLLM によって生成される単語、文字セット、または単語と句読点の組み合わせ)が発生。「Llama 3.3 70B」は正答できなかったが、トークンは439だった。この結果から見ると、「DeepSeek R1」で推論する際には、LLMモデルよりもトークンが多く発生するため、使うAI用GPUの数が多くなる。「DeepSeek R1」の推論、運用は低コストではないことを指摘したいと思われる。


 また、アナリストQ&Aでは、「DeepSeek-R1」は「蒸留」による学習が特徴であることを強調していた。


3)新しいロードマップ

 キーノートスピーチの中でエヌビディアは新しいロードマップを発表した。「Blackwell」の次は「Blackwell Ultra」で2025年後半に出荷開始される予定。その次は「Rubin」(2026年後半出荷開始)、「Rubin Ultra」(2027年後半)と続く。その次は「Feynman(ファインマン)」となり、2028年後半発売と思われる。


 2026年後半には、エヌビディア製高性能CPUで現行の「Grace」の後継CPUである「Vera」も出荷開始となる見込み。


4)NVIDIA Dynamo

 リーズニング・モデルを大規模データセンターで効率よくコストを抑えて動かすためのソフト「NVIDIA Dynamo」を発表した。オープンソースで提供する。


5)フォトニクスによる高速通信機器を投入する

 新型AI用GPUの発売に合わせて、2025年後半からフォトニクス・スイッチ・システムを発売する。超大型データセンター向けにシリコンフォトニクス技術によって省エネ、高速化した高速通信機器である。


6)次の大需要は自動運転とロボット

 生成AIの次の大需要は、「完全自動運転」と「ロボット」になる。自動運転とロボットを含む自動車工場のAI化では、GMとの提携を強化した。2020年代の終わりには世界で約5,000万人の労働者が不足するので、1体5万ドルのロボットを買わなければならなくなるという。


7)関税の影響

 関税の影響については、米国国内での生産をTSMCが準備中としている。


表1 エヌビディアの新ロードマップ


「GTC2025」でエヌビディアが語ったこと、語らなかったこと
出所:「GTC2025」キーノートスピーチ、各製品のエヌビディアまたはディーラーの仕様書を参考に楽天証券作成。

グラフ1 エヌビディア製AI用GPUのパフォーマンス


「GTC2025」でエヌビディアが語ったこと、語らなかったこと
単位:倍、出所:GTC2025キーノートスピーチより楽天証券作成

グラフ2 エヌビディア製AI用GPUのコストパフォーマンス


「GTC2025」でエヌビディアが語ったこと、語らなかったこと
単位:倍、出所:GTC2025キーノートスピーチより楽天証券作成

2.「GTC2025」のキーノートスピーチとアナリストQ&AでファンCEOが触れなかったこと

 アナリストQ&Aの際にファンCEOは、「DeepSeek-R1」について、「蒸留」による強化学習のことばかりを話していましたが、「DeepSeek-R1」で重要なのはエヌビディアのAI開発支援ソフトウェア「CUDA」を使わずに開発できたということにあります。これによってコストダウンと性能向上を実現しています。以前から私が指摘しているように、この点が今後のAI半導体の需要を予想する際にポイントになると改めて思いました。


 また、キーノートスピーチの中での実演で(上述)、「DeepSeek R1」から大量のトークンが発生しており、これだけを見ると「R1」の推論には実際に数多くのAI用GPUが必要になると思われます。しかし、将来もそうなのか、トークンの発生を抑えてより低コストで推論を行う道はないのか、今後の動きを注視したいと思います。


 完全自動運転とロボットの話も、大手クラウドサービスが運営する超大型データセンターを使った大掛かりなシステムになるというのがキーノートスピーチを聞いた感想です。この構想が実現する場合、大手クラウドサービスの顧客が巨額のお金を支払うことになりますが、誰が払うのかという話が欠落しているように感じました。GMとの間で完全自動運転の開発で提携を強化しましたが、GMの2024年12月期営業利益は127.84億ドル(1ドル=149円で約1.9兆円)、2024年12月期設備投資額は108.30億ドル(同約1.6兆円)であり、GMの企業規模は小さくはありませんが、大手クラウドサービスに比べると大きくはありません。


 足元で、生成AIの開発を支えているのは、生成AIからの収益に加え、生成AIへの巨額の投資資金です。生成AIが開発が終了し、運用に移行することで推論が多くなり、さらに多くのAI半導体需要が発生した場合には生成AIのマネタイズ(収益化)が重要になりますが、ChatGPTのユーザーの多くは無料会員です。他の生成AIも似たようなものです。この問題は、AI半導体の今後を考えるときに注意しなければならない問題と思われます。


 また、大手クラウドサービスはコストダウンの一環として内製AI半導体を導入していますが、これに対してファンCEOはエヌビディア製の性能の高さを強調していました。


3.エヌビディアの今後6~12カ月間の目標株価を前回の150ドルから135ドルへ引き下げる。

 エヌビディアの今後6~12カ月間の目標株価を、前回の150ドルから135ドルへ引き下げます。


 前回レポート(2025年2月28日付け楽天証券投資WEEKLY「 決算レポート:エヌビディア(2026年1月期1Qも大幅増収が予想されるが、営業利益率は低下する見込み) 」)の業績予想は、今回は2026年1月期、2027年1月期とも変更しません。ただし、楽天証券予想の2027年1月期営業増益率26.3%に対して、マイナスの業績変動が有り得るリスクを織り込んで、PEG=0.9倍前後、想定PER(株価収益率)20~25倍のディスカウント評価を行い、2027年1月期の楽天証券予想EPS(1株当たり利益)5.86ドルに当てはめました。


 会社側は技術革新によって生成AIないしAIが安いAI半導体で開発、運用できるようにはならないという見解と思われますが、DeepSeekを見る限り、そうとは限らないというのが私の意見です。


 投資リスクに見合ったリターンを得ることは当面難しいと思われます。手仕舞うことも検討したほうがよいのではないかと思われます。


表2 エヌビディアの業績


「GTC2025」でエヌビディアが語ったこと、語らなかったこと
株価 117.70ドル(2025年3月21日)時価総額 2,882,355百万ドル(2025年3月21日)発行済株数 24,706百万株(完全希薄化後、Diluted)発行済株数 24,489百万株(完全希薄化前、Basic)単位:百万ドル、%、倍出所:会社資料より楽天証券作成。注1:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。注2:EPSは完全希薄化後(Diluted)発行済株数で計算。ただし、時価総額は完全希薄化前(Basic)で計算。注3:会社予想は予想レンジのレンジ平均値。

表3 米国大手ITの設備投資
「GTC2025」でエヌビディアが語ったこと、語らなかったこと
単位:億ドル出所:各社資料等より楽天証券作成。注:アマゾンの2025年12月期は楽天証券予想。

本レポートに掲載した銘柄 エヌビディア(NVDA、NASDAQ)


(今中 能夫)

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