今週、日米の株式市場は一進一退の攻防を繰り広げています。米トランプ政権の関税政策は、市場の警戒感をあおり、株価を大きく左右しています。

一時は「マーケット・フレンドリー」と期待されたトランプ大統領ですが、その路線は転換したのでしょうか。今後の政策転換の可能性と株式市場への影響を分析します。キーワードは「相互関税」「米国開放の日」です。


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著者の土信田 雅之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 「トランプ関税」不安の織り込みは完了したか?~裏切りのトランプ「マーケット・フレンドリー」への転換~ 」


 今週の株式市場は慌ただしい動きを見せています。


 日本株市場では、週初からの日経平均株価が3万8,000円台、TOPIX(東証株価指数)が2,800p台といった節目の株価水準をそれぞれ回復させたほか、米国株市場でも、ダウ工業株30種平均が4万2,000ドル台、ナスダック総合指数が1万8,000p台に乗せるなど、順調に戻り基調を描きつつあったのですが、27日(木)の取引(米国は26日の取引)では、再び下落に転じてしまっています。


 米トランプ政権の動きが、相変わらず相場に影響を及ぼしている格好です。


米トランプ政権の関税政策への警戒感は峠を越した?

 こうした、足元の日米の株式市場の動きについて、もう少し詳しく掘り下げていきます。


 まず、週初から見せていた株価反発ですが、その背景として、いよいよ来週の4月2日に米トランプ政権が公表する予定だった「相互関税」に対する過度な警戒感が後退したことが挙げられます。


 具体的には、「関税の対象国が絞り込まれる」(ブルームバーグ)とか、「相互関税の公表が4月2日よりも後ずれする可能性」(ウォール・ストリート・ジャーナル)といった観測報道が相次いだほか、トランプ大統領からも「(関税に対して)多少の融通の余地があるかもしれない」という発言があったことなどが、相場に安心感を誘うきっかけとなりました。


 これによって、来週に公表される相互関税が、市場が警戒していたほどの内容にならない可能性が高まり、株式市場では、米トランプ政権の関税政策に対する不安が「ひとまず峠を越した」ムードに傾く格好となりました。


 ところが、米国の現地時間26日(水)に、米トランプ政権が自動車関税を4月3日から実施することを発表し米国株市場が下落で反応し、それを受けた27日(木)の日本株市場も再び3万8,000円台割れの反落スタートとなっています。


 結局、米トランプ政権の関税政策に振り回されてしまったわけですが、自動車関税の発表を受けて下落した26日(水)の米国株市場と27日(木)の主要株価指数の日足チャートを見ると、25日移動平均線が意識されていたり、これまでの株価下落と直近の株価反発の大きさと比べると、株価の下落自体は今のところ限定的にとどまっていると言えます(下の図1~図4)。


<図1>米NYダウ(日足)の動き(2025年3月26日時点)
「トランプ関税」不安の織り込みは完了したか?~裏切りのトランプ「マーケット・フレンドリー」への転換~(土信田雅之)
出所:MARKETSPEEDII

<図2>米S&P500(日足)の動き(2025年3月26日時点)
「トランプ関税」不安の織り込みは完了したか?~裏切りのトランプ「マーケット・フレンドリー」への転換~(土信田雅之)
出所:MARKETSPEEDII

<図3>米ナスダック総合指数(日足)の動き(2025年3月26日時点)
「トランプ関税」不安の織り込みは完了したか?~裏切りのトランプ「マーケット・フレンドリー」への転換~(土信田雅之)
出所:MARKETSPEEDII

<図4>日経平均(日足)の動き(2025年3月27日時点)
「トランプ関税」不安の織り込みは完了したか?~裏切りのトランプ「マーケット・フレンドリー」への転換~(土信田雅之)
出所:MARKETSPEEDII

 もちろん、このまま株価の下落基調が強まってしまうシナリオは残っているものの、元々、自動車に関税が賦課されること自体は想定済みであり、3月半ばまでの株価下落によって、ある程度織り込まれていたと考えるのであれば、「あらためて不安を先取りして株価を下げていく」という展開にはなりにくいと思われます。


 とはいえ、次の動きが予測しにくい米トランプ政権による相場の不透明感は続いており、相場が織り込める将来の時間軸が短いままであることを踏まえると、株価は期間の長い移動平均線よりも、期間の短い移動平均線を意識しながら動くことが予想されます。そのため、目先の株価は25日移動平均線との絡みを意識しながらの推移が中心になりそうです。


 また、来週に相互関税が賦課される国や地域が指定されること自体も変わりはなく、となると、どの国や地域が相互関税の対象となるのか、また、どんな理由で、どのような関税が実施されるのかの思惑を引きずって来週を迎えることになります。


 実際に出てくる相互関税の中身にサプライズがなければ、材料の出尽くし感で株式市場が大きく上昇していく展開もあり得そうですが、米トランプ政権は今回の相互関税を検討するに当たり、相手国の関税率だけでなく、他の税制や規制、為替政策などの「非関税障壁」も考慮する方針を示しています。


 例えば、EU(欧州連合)の付加価値税や、日本の輸出企業が消費税を免除されている制度などが、米国との貿易にとって不公平であると指摘されていることを踏まえると、日本も相互関税の対象国になる可能性があります。


 従って、米トランプ政権の関税政策への警戒感は峠を越したかどうかを判断するのは来週以降に持ち越しとなります。


「マーケット・フレンドリー」を裏切ってきたトランプ大統領、今後の路線変更はあるか?

 これまで見てきたように、目まぐるしく状況が変わる米トランプ政権の関税政策に相場が振り回されていますが、気が付けば、来週からは新年度の4月相場入りとなり、米トランプ政権発足から3カ月が経とうとしています。


 昨年11月の米大統領選挙でトランプ氏が勝利した前後の株式市場では、いわゆる「トランプトレード」を見せる場面がありました。


「トランプ米大統領はビジネス界出身であるため、株式市場にとって悪いことはしないだろう」という見立てがその背景にあったわけですが、ふたを開けてみれば、この3カ月間はこうした予想を裏切る格好となっています。


<図5>米大統領選挙前後のNYダウのパフォーマンス比較
「トランプ関税」不安の織り込みは完了したか?~裏切りのトランプ「マーケット・フレンドリー」への転換~(土信田雅之)
出所:Bloombergデータを元に作成

 上の図5は、過去の米大統領選挙前後のNYダウの動きを比較したものですが、今回の第2次トランプ政権(トランプ政権2.0)のNYダウのパフォーマンスは、過去と比べてみても、マイナス圏に沈む場面があるなど、かなりさえないことが確認できます。


 とはいえ、政権発足から3カ月が経った現在、トランプ米大統領は本当に「マーケット・フレンドリー」を放棄したのかについても考える必要がありそうです。


 そこで、米トランプ政権がこの3カ月間で取り組んできたことをざっくり振り返ると、特に動きが目立っていたのが、これまで見てきた「関税政策」と、「DOGE(政府効率化省)による政府の支出削減・効率化」です。


 確かに、関税強化によって、輸入物価の上昇やその後の消費減速、貿易戦争に突入することによる状況の悪化などが警戒されているほか、半ば強引に行動しているDOGEの姿勢に対する不満の声や、大胆な改革による行政の混乱なども心配されます。


 しかし、貿易の不均衡を是正し、財政再建の道筋をつけることに成功すれば、長い目で見ると米国経済にとってプラスですし、また、これから実施しようとしている減税政策は、財政負担が重たくなることが確実ですので、財政再建にうるさい共和党強硬派を説得するためにも、ある程度の規模で歳出削減を実施し、財源を確保することは不可欠です。


 そもそも、昨年の大統領選挙でトランプ氏が勝利した要因には、前バイデン政権時に上昇した物価に対する国民の不満がその一つとして挙げられます。そのため、現在の米トランプ政権としては、株価を上げるよりも、まずは物価や金利を下げることの方を優先させている可能性があります。


 こうした事情を鑑みると、トランプ米大統領は必ずしもマーケット・フレンドリーな姿勢を放棄したわけではなく、今後の減税政策や規制緩和などを打ち出し、株式市場や景気を刺激する、フレンドリーな姿勢に転換していくことも考えられます。


 では、「その姿勢が変わるのがいつになるのか?」についてですが、足元の焦点となっている相互関税については、その発表日である4月2日を「米国開放の日」とトランプ米大統領が呼んでいることもあって、関税政策については、これでひとまず大きな区切りをつける可能性があります。


 また、歳出削減については、政権発足から100日が経過する4月29日、もしくは、米国の「独立記念日」でもある7月4日などのタイミングでめどをつけることなどが考えられます。来年の予算について議会で検討する時期も考慮すると、予想としては夏場を迎えるあたりが濃厚かもしれません。


 もっとも、想定以上に米国の景気が減速してしまったり、インフレが再燃してしまう可能性はくすぶっていますので、「米トランプ政権のもくろみ通りに事が進むのか?」への見極めが、今後の相場を読み解く上でのカギになりそうです。


(土信田 雅之)

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