円高がじりじり進んでいます。為替を動かす三大要素を解説し、年末のドル/円を予想します。


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著者の窪田 真之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 円高いつまで?為替を動かす三大要因とは 」


ドル/円を動かす三大要素、一番重要なのは「日米金利差」

 為替を動かす要因は無数にありますが、重要度の高いものに絞ると以下の三点になります。


【1】日米金利差


 日米金利差が縮小すると円高(ドル安)が進みます。米国FRB(連邦準備制度理事会)の利下げ、日本銀行の利上げは、円高(ドル安)要因です。


 一方、日米金利差が拡大すると円安(ドル高)が進みます。FRBの利上げ、日銀の利下げは、円安(ドル高)要因です。


【2】世界的な株高・株安


 世界経済に不安が広がり、世界的な株安が起こると、「円」が買われる傾向があります。不安が緩和し、世界的な株高が起こると、金利の低い「円」は売られます。


【3】政治圧力


 米国政府筋から、円安を非難する発言が増えると、円高(ドル安)が進みやすくなります。


 米国政府が、円安を容認している間は、円安(ドル高)が進みやすくなります。


 かつて貿易収支が、為替に影響を与えた時代もありましたが、今はほとんど影響しません。

貿易収支よりもはるかに規模の大きい資本収支によって為替が動くようになったからです。


 中でも一番重要なのが、【1】日米金利差です。2024年以降、FRBは利下げ・日銀は利上げを行い、日米金利差が縮小してきているので、今年は円高が進みやすくなっています。さらに4月に入り、トランプ関税ショックによる世界的株安が起こったため、4月は円高が進みました。


<ドル/円為替レートと日米2年金利差推移:2019年末~2025年4月(14日)>


円高いつまで?為替を動かす三大要因とは(窪田真之)
出所:QUICKより楽天証券経済研究所が作成

 ただし、4月に入って円高の進行を抑えているのが、米国金利の上昇です。株が大きく下がる時、通常、米金利は低下します。ただし、4月は株が下がる中で米金利が上昇しました。トランプ関税で、米景気が悪化する中、米インフレが高騰するリスク、つまりスタグフレーションのリスクが意識されているためです。


 ドル/円を動かす3番目に重要なファクターが、【3】政治圧力です。特に、米政府の意向が重要です。


 トランプ大統領は、日本に相互関税を課す理由として、非関税障壁や円安を挙げています。「日本は円安を誘導している」と非難しており、その意味で政治圧力による円高が進みやすくなる可能性はあります。


 ただし、トランプ大統領の為替に関する発言は矛盾も含んでいます。バイデン政権下、米国で深刻なインフレが起こりましたが、トランプ大統領はそれを「バイデンのインフレ」と呼んでいます。


 第1次トランプ政権が引き上げた対中関税は「ドル高が進んだのでインフレにつながっていない」と強弁しています。「インフレを防ぐ」という意味で「ドル高が良い」とする発言もあり、何がトランプ大統領のホンネか分かりにくくなっています。


 今後、世界中の国々に10%関税をかけた効果や、中国への145%関税の効果で、米国内で物価上昇が鮮明になると思われます。「トランプのインフレ」に対する批判が高まる中、米国のインフレをさらに高める「ドル安・円高」を声高に主張できなくなると思われます。


 そもそも今後本格化する日米交渉での成果として、米国民に対してアピールしやすいのは、「円安を終わらせて円高にした」ではありません。「米国の農産品(コメなど)・畜産品(牛肉など)・自動車・LNGなどの輸入を増やすことを日本に約束させた」と言う方がアピールできます。


 日米交渉では、為替よりも、日本の農産物の関税引き下げや、米国自動車を輸入しやすくするためのルール変更などが焦点になると考えられます。


日米2年金利差がドル/円の長期変動を決める最重要ファクター

 ドル/円為替の長期的な動きは、ほとんど日米金利差で説明できます。最もよく動きを説明できるのは、2年金利差です。


 2年金利差というのは、米国と日本の2年国債利回りの差です。以下で分かる通り、日本の金利は長年ほぼゼロ近辺に固定されていたので、米国金利が、ほぼそのまま日米金利差となっていました。

ところが、日本銀行(日銀)がマイナス金利を解除してから日本の金利が上昇したため、日本の金利変動も日米金利差に影響するようになりました。


<米国・日本の2年金利、および2年金利差の推移:2008年1月~2025年4月(14日)>


円高いつまで?為替を動かす三大要因とは(窪田真之)
出所:QUICKより楽天証券経済研究所が作成

<ドル/円為替レートと、日米2年債利回りの差:2008年1月~2025年4月(14日)>


円高いつまで?為替を動かす三大要因とは(窪田真之)
出所:QUICKより楽天証券経済研究所が作成

 2008年以降の動きを見ると、おおむね日米2年金利差と、ドル/円は連動していることが分かります。


 ただし、金利差だけでは説明できない時期もあります。米政府が円安を許容する時は円安が進み、米政府が円安を批判する時は円高が進みやすくなることが分かります。上のグラフに赤矢印と説明を加えたのが以下のチャートです。


<再掲:ドル/円為替レートと、日米2年債利回りの差:2008年1月~2025年4月(14日)>


円高いつまで?為替を動かす三大要因とは(窪田真之)
出所:QUICKより楽天証券経済研究所が作成

【1】2008~2012年


 日米金利差の縮小に従って、円高(ドル安)が進みました。


【2】2013~2014年


 日米金利差が少ししか拡大していないのに、大幅な円安(ドル高)が進みました。2年金利の差が拡大していますが、それだけでは説明できないほどの円安です。米国政府が円安を批判しなかったことから「円安が許容されている」と思われ、過剰に円安が進みました。


【3】2015~2018年


 日米金利差が拡大しているにもかかわらず、円高が進みました。2013~2014年の行き過ぎた円安に修正が起こったと言えます。


 2016年の米大統領選キャンペーンで、共和党候補だったドナルド・トランプ氏(現大統領)と民主党候補だったヒラリー・クリントン氏が、ともに円安を批判したことも円高材料となりました。

トランプ氏が大統領に当選した後も、中国・日本・ドイツ・メキシコなどの対米黒字を問題視し続けたため、貿易戦争への懸念から円高圧力が続きました。


【4】2019~2020年


 日米金利差が縮小するに従って、さらに円高が進みました。


【5】2021~2023年


 2022年からFRBが急激な利上げを開始、日米金利差が拡大に転じるとともに、急激な円安が進みました。


【6】2024年


 日米金利差が縮小したのに、円安が進みました。日銀が巨額の円買い介入を実施しても円安を止められませんでした。


 FRBは利下げしたもののタカ派姿勢を維持、日銀は利上げしたもののハト派姿勢を見せていたことが影響しました。米政府が円安を許容していたことも、円安進行に追い風となりました。


【7】2025年(4月14日まで)


 日米金利差縮小に加え、トランプ関税による世界株安もあり、円高が進んでいます。


2025年のドル/円見通し

 私はメインシナリオで、米景気ソフトランディングを予想しています。トランプ関税で一時的にかなり冷え込みますが、それでも景気後退は回避すると予想しています。米景気ソフトランディングを前提に、年末は、1ドル=140円前後と予想しています。


 ただし、世界不況になってしまうと、米国金利がさらに低下して1ドル=130円辺りへの円高もあり得ます。

私は、世界不況は回避すると予想しているので、円高は1ドル=140円程度までと予想しています。


(窪田 真之)

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