TSMCの2025年12月期1Qは、41.6%増収、63.5%営業増益。AI半導体、3ナノ、5ナノが好調だった。
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「 TSMC決算:米アリゾナ工場へ1000億ドルの追加投資。収益悪化で目標株価引き下げへ 」
毎週月曜日午後掲載
本レポートに掲載した銘柄: TSMC(TSM、台湾、NYSE ADR)
1.TSMCの2025年12月期1Qは、41.6%増収、63.5%営業増益
TSMCの2025年12月期1Q(2025年1-3月期、以下今1Q)は、売上高8392.54億台湾ドル(前年比41.6%増)、営業利益4070.81億台湾ドル(同63.5%増)となりました。AI半導体が好調で、AI半導体以外の3ナノ、5ナノも需要が強いことが寄与しました。トランプ関税が実施される前の駆け込み発注もあったと思われます。
今1Qの売上総利益率は58.8%となり前4Q59.0%から小幅低下しました。1月21日に台湾で発生した地震とその余震の被害による0.6%ポイントと2024年12月の熊本工場稼働開始に伴う減価償却開始によるものがコスト改善によって一部相殺されました。
分野別売上高の前四半期比(前4Q比)を見ると、売上構成比28%のスマートフォン向けは22%減となり、季節性で減少しました。
このほか、IoT向け(売上構成比5%)が9%減、自動車向け(同5%)が14%増となりました。
テクノロジー別売上高を見ると、3ナノは前4Q2,258.0億台湾ドルから今1Q1,846.4億台湾ドルへ減少しましたが(テクノロジー別売上高は会社開示の売上構成比と全売上高から楽天証券試算。以下同様)、これはスマートフォン市場の季節性による減少が原因と考えられます。一方で、5ナノは同2,952.8億台湾ドルから3,021.3億台湾ドルへ、7ナノも同1,215.8億台湾ドルから1,258.9億台湾ドルへいずれも小幅増加しました。5ナノの中に4ナノが含まれますが、4ナノでエヌビディアの「H100」「H200」「Blackwell」「H20」が生産されており、5ナノの増加にAI半導体が寄与していると思われます。また、AMDのAI半導体も5ナノ、6ナノ(6ナノは7ナノに含まれる)で生産されているため、この寄与もあったと思われます。
会社側では、AI半導体以外の3ナノ、5ナノ需要も好調だったとしています。
今1Qのウェハ出荷枚数(300ミリ換算)は季節性で前4Q比減少しましたが、ウェハ1枚当たり売上高は前4Q比増加しました。
今1Q設備投資は100.6億USドルで前4Q比小幅減少しました。2025年12月期会社計画は380~420億USドルで従来計画が維持されました。設備投資計画の約70%は先端プロセス技術、約10~20%は特殊技術、約10~20%は先端パッケージング、試験、量産などへの投資です。この比率も前回から概ね変化ありません。
表1 TSMCの業績

表2 TSMCの分野別売上高:前四半期比と売上構成比
TSMCの分野別売上高:前四半期比

TSMCの分野別売上高:売上構成比

グラフ1 TSMCのテクノロジー別売上高

表3 TSMCのテクノロジー別売上高

グラフ2 TSMCのウェハ出荷枚数

グラフ3 TSMC:ウェハ1枚当たり売上高

グラフ4 TSMC:四半期設備投資

グラフ5 TSMCの年間設備投資

2.楽天証券の2025年12月期業績予想、2026年12月期業績予想の営業利益予想を上方修正する
1)米アリゾナ工場に約1,000億USドルの追加投資を行う計画
今1Qの決算電話会議では米アリゾナ工場の現状と、新たに公表した1,000億USドルの追加投資についてその詳細が報告されました。
まず、2025年12月期については、アリゾナ工場第1工場の稼働開始(2024年12月期4Q、4ナノ)によって、売上総利益率下落の影響が出始めました。そのため、今2Qの売上総利益率ガイダンスは今1Q58.8%を下回る58%としています。熊本とアリゾナの生産拠点の増強に伴い、2025年12月期通期では2~3%ポイントの売上総利益率低下要因を会社側は見込んでいます。
2025年3月4日、TSMCは、米国企業の半導体需要を現地生産するためにアリゾナ工場への約1,000億ドルの追加投資計画を公表しました。この計画を含む、今後5年間のアリゾナ、熊本、ヨーロッパへの海外工場増設に伴う売上総利益率の低下は、初期段階では毎年2~3%、後期段階では同じく3~4%に拡大すると会社側は予想しています。このため、今後はコスト削減が一層重要になります。会社側は長期的には53%以上の売上総利益率を達成できるとしていますが、53%という水準は、今1Q58.8%よりも低い水準です。
2020年5月に発表されたTSMCのアリゾナ工場の建設計画は投資額650億USドル、計3つの半導体工場を建設する計画です。2024年12月期4Qには第1工場(4ナノ)の量産を開始しました。第2工場(3ナノ)も完成しており、AI関連を早期に量産したい意向です。
第3工場(最初の計画では2ナノまたはそれ以降の先端プロセス)と1,000億ドルの追加投資計画に含まれる第4工場はN2(2ナノ)とA16(1.6ナノ)プロセス技術を採用し、今年後半に建設開始予定です。第5、第6工場では、さらに高度な技術を採用する方針ですが、これらの工場の建設、増産スケジュールは、今後需要を見ながら決定されます。
また、AIサプライチェーンへ参入するために、アリゾナ州に2つの新しい先進パッケージング施設と、R&Dセンターを建設する予定です。この拡張計画により、スマートフォン、AI、HPCの最先端顧客のニーズに対応できるようになります。
なお、追加投資計画について、会社側は他社との合弁事業における技術ライセンス供与や技術移転・共有に関する協議は一切行っていないと明言しました。追加投資が完了した後は、TSMCの2ナノ以上の先端半導体生産能力の約30%がアリゾナ州に集約されます。
米国での生産は、台湾での生産に比べるとコストが増加する見込みです。会社側では、顧客に対して値上げの協議に入っている模様です。
なお、台湾での最先端分野の量産開始は、N2(2ナノ)は2025年後半、その次のA16(1.6ナノ)は2026年後半の予定です。A16は初めて、チップ表面に計算回路、裏面に電力供給システムを描画し、計算処理と電力消費を効率化する「バックサイドパワーデリバリー」を採用します。
また、特にAI半導体向けの先端パッケージング技術であるCoWoSについては2025年12月期に生産能力を2倍にする計画です。
2)足元は業績好調だが、今3Q、今4Qは業績鈍化の可能性
会社側は今2Qの業績ガイダンスを、売上高284~292US億ドル、為替前提は1USドル=32.5台湾ドル、売上総利益率57~59%、営業利益率47~49%としています。ここから今2Qの会社側業績ガイダンスのレンジ平均値を計算すると、売上高9,360億台湾ドル(前年比39.0%増)、営業利益4,493億台湾ドル(同56.8%増)となります。今2Qも引き続き好調な業績が予想されますが、これは今1Q同様、AI半導体と3ナノ、5ナノの寄与が予想されるためです。
AI半導体については、会社側は四半期ベースでの売上高や売上構成比を開示していません。ただし、2025年12月期通期では、前年比2倍になるとしています。これは前4Q決算発表時の電話会議におけるコメントと同じです。
一方で、2025年12月期通期の売上高見通しについては、会社側はUSドルベースで20%台半ばの伸びとしており、これも前4Q決算発表時の見方を維持しています。2024年12月期のUSドルベース売上高900.83億USドルに、前年比25%増と今2Q会社側ガイダンスの為替前提1USドル=32.5台湾ドルを当てはめると3兆6,596億台湾ドルとなります。今期のUSドルベース増収率が会社側の見通し通り20%台半ばになるのであれば、これは今3Q、今4Qは増収率が鈍化するということを示しています。今1Q実績は前4Q決算発表時の会社側ガイダンスのレンジ平均値、売上高8,331億ドルで前年比40.6%増、営業利益3,957億ドルで前年比58.9%増を上回っていますが、大幅に上回っているわけではないので、会社側は現状と見通しを過小評価しているわけではないと思われます。
そうすると、全社売上高は、今3Q、今4Qには伸びが鈍化する可能性があります。これはまず、今1Qに続き、今2Qもトランプ関税に対応した駆け込み需要が予想されるため、その反動が今3Q、今4Qに予想されるためです。またAI半導体については、今2Q以降も増産すると予想されますが、AI半導体以外の3ナノ、5ナノについては、2025年年末商戦で3ナノ、5ナノ搭載のスマートフォンやパソコンが景気要因で伸び悩む可能性があります。
このように考えて、楽天証券では2025年12月期を売上高3兆6,300億台湾ドル(前年比25.4%増)、営業利益1兆7,300億台湾ドル(同30.9%増)、2026年12月期を売上高4兆3,400億台湾ドル(同19.6%増)、営業利益2兆100億台湾ドル(同16.2%増)と予想します。いずれも売上高予想は下方修正しますが、営業利益予想は上方修正します。
これは今1Qと今2Qガイダンスを見ると、AI半導体の利益率が高く、3ナノとAI半導体以外の5ナノも生産性が向上していると思われるためです。ただし、海外工場の減価償却費等の負担によって2026年12月期の営業利益率は1%ポイント以上低下すると予想しました。このため、2026年12月期営業増益率は10%台になると予想されます。
AI半導体の2025年12月期予想売上高は、前回予想では前年比2.07倍の8,900億台湾ドルとしましたが、今回予想では前年比2倍の8,600億台湾ドルへやや下方修正しました。会社側見通しが2倍と維持されたため、それに従いました。一方AI半導体以外は3ナノ、5ナノが好調という会社側コメントから、やや上方修正しました。
また、2026年12月期のAI半導体売上高は前回予想から下方修正しました。
表4 TSMCのAI半導体売上高

3.TSMCの今後6~12カ月間の目標株価を前回の200ドルから170ドルに引き下げる
TSMCの今後6~12カ月間の目標株価を前回の200ドルから170ドルへ引き下げます。楽天証券の2026年12月期予想は、1株当たり純利益のEPS(ADRベース)10.56ドルに、2026年12月期の楽天証券予想営業増益率16.2%より想定PEG=1.0倍程度として想定PER(株価収益率)15~20倍を当てはめました。
PERに割安感はありますが、AI半導体の今後の成長への不安、米アリゾナ工場への1,000億ドルの追加投資負担などを考慮しました。
投資リスクに見合ったリターンを得ることは難しいと思われます。
本レポートに掲載した銘柄: TSMC(TSM、台湾、NYSE ADR)
(今中 能夫)