1月20日の就任式を経て、トランプ氏は米国の大統領に返り咲きました。そして「トランプ2.0」がスタートしました。
明暗分かれたトランプ2.0始動後100日
以下は、米大統領の就任式直前(1月17日)と4月の最終営業日の終値を比較した、主要銘柄の騰落率です。
図:トランプ2.0始動後100日間の騰落率 (2025年1月17日と4月30日を比較)

金(ゴールド)は20.5%上昇、大豆は1.0%上昇、原油は25.3%下落、となりました。不安拡大時に注目が集まりやすい金(ゴールド)が上昇し、景気動向の影響を受けることがある原油が下落したことから、トランプ氏が米大統領に返り咲いた後のおよそ100日間、世界は強い不安に覆われたことがうかがえます。
強い不安のきっかけは「トランプ関税」です。トランプ氏は、他国から物品を輸入する際に、輸入する者が支払う税金(関税)の税率を一斉に引き上げました。「かけられたらかけ返す」姿勢を鮮明にし、相互関税を導入しました。
図:関税とは?メリットとデメリット

上の図に示したデメリットが強く意識され、世界に不安が拡大しました。
金(ゴールド):トリプル安で高値更新
先ほど述べた通り、金(ゴールド)相場はこのおよそ100日間で20.5%上昇しました。大幅上昇を演じ、国内外で史上最高値を更新する場面が見られました。上昇の背景には、米国で発生した「トリプル安」が挙げられます。
図:金(ゴールド):トランプ2.0始動後100日間のトピック

株、債券、通貨の三つが同時に売られることを、トリプル安と言います。トランプ関税がもたらした強い不安によって、米国債、米国の主要株価指数、米ドルの三つが同時に売られました。
これにより、筆者が提唱する「金(ゴールド)に関わる七つのテーマ」のうち、短中期の時間軸である有事ムード、代替資産、代替通貨の三つにおいて、同時に上昇圧力が強まりました。複数の上昇圧力が同時にかかったことで、短期間の急騰劇が起き、その結果、20%を超える上昇、史上最高値更新、などの目立った動きが発生しました。
また、トランプ氏は「米国売り」の様相を感じてか、「予防的利下げ」という、景気悪化を避けるため、という名目で、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)に対し、利下げ(金利引き下げ)を要求しました。
確かに、社会全体として金利が低下すると、個人や企業が資金調達をしやすくなるため、景気回復が望みやすくなります。こうしたトランプ氏の要求もあり、今年9月と10月のFOMC(米連邦公開市場委員会)で、大幅な利下げが行われる可能性が大きく上昇しました。
図:2025年9月・10月のFOMCにおける3.50~3.75%への利下げ確率の推移

この場合、「将来的に利下げが行われそう」という思惑が重要です。実際に利下げが行われなかったとしても、将来的に、いずれかのタイミングで利下げが行われる可能性が高まっていれば、その可能性の存在をもとに、ドル安およびそれに追随した金(ゴールド)相場の上昇は起き得ます。
原油:トランプとOPECが下落圧力かける
先ほど述べた通り、原油相場はこのおよそ100日間で25.3%下落しました。大幅下落の背景には、トランプ氏がもたらした下落圧力だけでなく、OPECプラス※が生み出した下落もあります。
※OPECプラスは、OPEC(石油輸出国機構)に加盟する12カ国と、非加盟の産油国11カ国の合計23カ国で成り立つ、産油国のグループです。そのうち減産に参加する国は合計19カ国で、その生産量の合計は世界全体のおよそ46%に上ります。(2025年3月現在)
以下は、筆者が考える2025年4月8日ごろ以降の、原油相場を取り巻く環境です。
下落圧力を構成する主要な材料には、トランプ氏が振りまく、ウクライナ戦争の終了観測→供給安定、関税戦争激化→主要国景気鈍化という下落圧力、そしてOPECプラスが振りまく、自主減産の縮小→供給拡大観測、などが挙げられます。
図:原油:トランプ2.0始動後100日間のトピック

レポート執筆時点でWTI※原油は60ドルをやや下回っています。株価指数が反発しても、なかなか原油相場が反発しないのは、原油固有の下落圧力がかかっているためです。
※WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油:米国の西テキサス地域で産出されるガソリンなどを比較的多く抽出できる原油。West Texas Intermediate。
原油固有の下落圧力の一つに挙げられるのは、上記で述べたOPECプラスの自主減産の縮小です。OPECプラスは2024年12月の会合で、協調減産の実施期間を2026年12月までに延長することを決定しました。同時に、自主減産を2025年4月から縮小し始め、2026年後半に終えることを決定しました。そして4月、自主減産の縮小を始めました。
図:OPECプラスの減産(イメージ) 単位:万バレル/日量

協調減産継続は、需給バランスを引き締めて原油相場を高止まりさせる意図があります。以前の「 関税戦争で世界混迷、「原油急落」の助けは来る? 」で述べた通り、OPECプラスの主要国における財政収支が均衡するために必要な価格はおよそ90ドルです。
足元の原油価格の1.5倍でなければ財政収支の均衡が難しいことを、このデータ(IMF(国際通貨基金)公表)は示しています。
そして4月から開始した自主減産縮小については、米国の原油生産量増加を意識したシェア維持策(トランプ氏は「掘りまくれ!」と呼び掛けている)、短期的な収益機会創出、減産疲れのガス抜き、などの意味があります。
自主減産の縮小は実質的な生産増加ですが、それができるのは協調減産を継続しているからです。過大な供給を行わないようにしつつ、シェア維持、収益機会創出、ガス抜きなどを実現しようとしていると考えられます。足元、自主減産の縮小が大きくクローズアップされていますが、協調減産が同時進行していることに、留意が必要です。
大豆:中国の米国輸入依存度の高さが露呈
トランプ氏は大統領に返り咲いた直後、中国からの輸入品に対する関税を引き上げることを明言しました。中国はこれに対抗するように、米国の大豆を輸入する際の関税を引き上げることを宣言しました。報復関税です。
図:大豆:トランプ2.0始動後100日間のトピック

上の図の通り、中国は主に米国とブラジルから、交互に大豆を輸入しています。米国からの輸入がピークとなるのは2月前後、ブラジルからの輸入がピークとなるのが8月前後です。中国は、季節が真逆という特性を利用して、北半球と南半球から分散し、年間を通じて輸入量を維持しています。
中国が米国産大豆の輸入関税を引き上げたことで、米国産大豆が中国で出回る量が減少する懸念があります。同時に、米国国内で大豆のモノ余りが目立つ懸念があります。
今のところ、北半球に、米国ほど大豆を生産できる国はないため、中国の報復関税が本格化すれば、中国でのモノ不足が目立つ可能性があります。
図:中国の米国への穀物輸入依存度(毎年1-3月期)※金額(米ドル)ベース

米国発、世界の民主主義後退に警戒
V-Dem研究所(スウェーデン)は、世界各国の民主主義に関わる情報を数値化して多数の指数を公表しています。自由民主主義指数もその一つです。
法整備、裁判制度、言論の自由など、民主主義に関わる多数の情報を数値化したこの指数は、0と1の間で決定し、0に接近すればするほど、その国が自由で民主的な度合いが低いことを、1に接近すればするほど自由で民主的な度合いが高いことを意味します。
以下のグラフの通り、米国の同指数は、東西冷戦のさなか、米国が旧ソ連や旧ソ連と考え方を同じくする国々と明確に異なる自由で民主的な姿勢を強めたことを反映し、大きく上昇しました。
2001年に同時多発テロ発生をきっかけとした混乱によって一時的に低下したものの、その後は反発して0.85近辺に達し、米国が世界屈指の自由で民主的な国であることが示されました。
しかし、2016年にトランプ氏が米大統領選挙で勝利した後、0.72近辺まで急低下しました。彼の勝利は、民主主義の対局にある分断を利用したものだったといわれています。この急低下は、彼の横暴ぶりが米国の民主主義を大きく傷つけたことを示唆しています。
図:米国の自由民主主義指数(1964年~2024年)

そして、トランプ2.0が始まり、再び同指数が急低下する可能性が高まっています。以下の図の通り、西側の超大国である米国の民主主義の行き詰まりは、2010年ごろから続く、世界全体の民主主義の停滞、ひいては世界分裂を加速させる可能性があります。
トランプ氏がもたらす可能性がある民主主義の停滞や世界分裂は、有事ムード拡大だけでなく、長期視点で起きている非西側の資源国による出し渋りを拡大させ、高インフレを長期化させる要因になり得る点に留意が必要です。
トランプ氏が米国の大統領である間は、金(ゴールド)も原油も大豆も、短期的な上下をこなしつつ、長期視点では高止まりが続く可能性があると、筆者は考えています。
図:2010年ごろ以降の世界分断と高インフレ(長期視点)の背景

[参考]コモディティ関連の投資商品例
投資信託(NISA成長投資枠 対象)
SMTAMコモディティ・オープン
海外ETF
インベスコDB コモディティ・インデックス・トラッキング・ファンド(DBC)
iPathブルームバーグ・コモディティ指数トータルリターンETN(DJP)
iシェアーズ S&P GSCI コモディティ・インデックス・トラスト(GSG)
(吉田 哲)