市場を震撼(しんかん)させたトランプ関税ショックから、日経平均は急速に立ち直っています。まだ楽観はできませんが、最悪期は過ぎたと考えています。


 トヨタ決算に勇気づけられました。厳しい環境の中、ショックを乗り越えて生産・販売を増やしていく覚悟と自信を感じました。


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日経平均の反発続く、トランプ関税不安は残る

 先週(営業日5月7~9日)の日経平均株価は、1週間で672円上昇して、3万7,503円となりました。トランプ関税に緩和の兆しが増えたことから世界不況の不安が低下し、世界的に株の買い戻しが続いています。


 以下の週足を見ると分かる通り、日経平均は下落してきた13週移動平均線に頭を押さえられることなく、4週連続で陽線をたてて、強い動きです。トランプ関税ショックが起こる前のレンジ(3万8,000~4万円)に、あと500円のところまで迫りました。トランプ関税に緩和の兆しが増えていることが追い風となっています。


日経平均週足:2024年1月4日~2025年5月9日
トヨタ「買い」継続、底力感じる決算。トランプ関税への不安は残る(窪田真之)
出所:楽天証券MSIIより楽天証券経済研究所が作成

 先週も、トランプ関税緩和の兆しは増えています。関税でダメージを受けるトランプ大統領支持者からの陳情を受けて、関税の緩和・見直しが進んでいると考えられます。


トランプ関税に「緩和の兆し」

◆4月9日:相互関税の上乗せ分、中国を除き90日間停止
 4月7日の米国株暴落、ナイキ、Gapなどアジアからの調達が大きい米国企業に配慮
◆4月11日:ハイテク製品は、対中145%関税から除外
 中国からの調達が大きいAppleなど、米国ハイテク産業からの陳情を受けて
◆4月14日:トランプ大統領が、自動車産業の支援策検討
 GM(ゼネラルモーターズ)、Ford(フォード・モーター)など、米国の自動車産業からの陳情を受けて
◆4月17日:赤沢大臣、トランプ大統領と面談、日米交渉が進む期待
 交渉開始早々、自動車関税が「交渉対象外」とされ、日本にとって厳しい対応
◆4月23日:トランプ大統領、対中関税引き下げを示唆
 「このままだとクリスマス商戦で売るものが無くなる」米国小売業の陳情を受けて
◆5月8日:米英関税交渉が妥結、自動車関税・鉄アルミ関税から英国を一部除外
 英国は米国産農産物の成果を早く出したかった。報復関税でダメージを受ける、米国農畜産業からの声も受けて
◆5月10日:米中貿易協議ジュネーブで開始、トランプ大統領「大きな進展」と評価
 米中貿易が止まることでダメージを受ける米国の小売業・製造業の陳情を受けて


 一方、逆に、トランプ関税がさらに強化される不安も出ています。


◆5月4日:予告通り、自動車部品への関税も発動
◆半導体関連関税・医薬品関税も発動する予定
◆5月9日:航空機や航空機部品・エンジンへの追加関税を視野に調査開始


 トランプ関税に対する恐怖のピークは過ぎたものの、恐怖が蒸し返す局面はまだありそうです。日本株は、押し目買い方針で臨みたいと思います。


トヨタ決算、底力を感じさせる内容

 5月8日、トヨタ自動車は、2025年3月期決算とともに、今期(2026年3月期)業績予想を発表しました。トヨタの底力を感じさせる内容でした。トヨタの買い判断を継続します。


<トヨタ自動車の株価指標:2025年5月9日>


コード 銘柄名 株価
(円) 配当
利回り PER
(倍) PBR
(倍) 1株当たり
配当金(円) 7203 トヨタ自動車 2,719.5 3.5% 11.4 0.98 95.0 出所:トヨタ決算短信、QUICKより楽天証券経済研究所作成、配当利回りは今期1株当たり配当金(会社予想)95円を5月9日株価2,719.5円で割って算出 トヨタ自動車の連結営業利益:2021年3月期~2026年3月期(会社予想)
トヨタ「買い」継続、底力感じる決算。トランプ関税への不安は残る(窪田真之)
出所:同社決算資料より楽天証券経済研究所が作成

 トヨタが発表した2025年3月期営業利益は、前期比10.4%減の4兆7,955億円でした。今期(2026年3月期)の連結営業利益(会社予想)は、前期比20.8%減の3兆8,000億円でした。二期連続の減益で、厳しい内容と評価するコメントが多かったのですが、私は別の感想があります。トヨタの底力を感じさせる、強い数字だと思いました。


 今期の営業利益予想は、決して低い数字ではありません。最高益を大幅に更新した2024年3月期の営業利益は、特殊要因が重なった水準です。


【1】半導体不足が解消して生産が回復
【2】生産回復でこれまで売り逃していた分も含めて販売増加
【3】円安効果
【4】米国でEV人気が低下してトヨタのハイブリッド車人気が高まった


などの効果が一度に出て、特別に高い利益水準となりました。それに次ぐ2025年3月期は、追い風は弱まったものの、円安・ハイブリッド車人気の追い風があって、高い利益水準でした。


 2026年3月期の営業利益3兆8,000億円は、二期連続の減益とはいえ、それ以前の最高益(2022年3月期の2兆9,956億円)を上回っており、十分に高い水準と言えます。


 トランプ関税による大きなダメージが予想される中で、これだけの高い利益予想を出したことが驚きでした。


 ただし、今回の業績予想は、いつも保守的(低め)の予想を出すトヨタにしては、かなりストレッチした数字との印象を受けます。


1:トランプ関税によるマイナスは4~5月分のみマイナス1,800億円として織り込み

 1年間マイナスが続くと、さらに9,000億円マイナスが上乗せされます。トランプ関税の先行きが不透明であることを理由に、業績予想を公表しないこともあり得ましたが、前提条件を示した上で業績予想をきちんと出したことに、トヨタの責任感と覚悟を感じました。


 コロナショックが起こった直後、トヨタは2021年3月期業績予想を公表しました。トヨタの予想を見て、業績計画をたてる企業がたくさんあり、業績予想を出すのはトヨタの責任というコメントを決算説明で聞きました。その時と同じように、今回も業績予想を出す責任をきちんと果たしたのだと思いました。


2:1ドル=145円前提

 トヨタはこれまで、足元のレートより大幅に円高の前提で予想をつくり、保守的(低め)の数字とすることが多かったのですが、今回はほぼ足元の水準を前提としました。思いっきり低い数字を出して、トランプ関税を言い訳にすることもできましたが、そうしなかったということです。


3:今期増配の予想

 1株当たり配当金、前期90円を、今期95円とする予想を発表しています。減益でも増配するところに、将来に対する自信が表れていると思います。


4:今期、生産台数も、販売台数も増やす計画

 荒波を乗り越えて、生産・販売ともに増やす計画です。これまでの努力で、1台当たりマージンを高めてきたので、トランプ関税や円高のダメージが大きくなり、減益幅が大きくなっても、生産・販売は落とさずにしっかりやっていく覚悟を示していると思います。トヨタのハイブリッド車人気が続いていることも追い風となります。


 会社側では、努力目標ということではなく、達成できる計画と考えているとのことでした。実際、品質問題で生産停止があった米国アラバマ工場などが回復する効果などが見込まれています。


 まだトランプ自動車関税の全体像は見えていませんが、私は、2~3年かければ、トヨタはそれを乗り越えていくことができると、予想しています。

詳しくは、「著者おすすめのバックナンバー」に挙げたレポートをご参照ください。


テクニカル・ファンダメンタルズ分析を詳しく学びたい方へ

 最後に、個別株投資にチャレンジしたい方に、私の著書を紹介します。ダイヤモンド社より、株価チャートの読み方をトレーニングする「株トレ」(黄色の本)と、決算書の見方など学ぶ「株トレ ファンダメンタルズ編」(水色の本)が出版されています。どちらも一問一答形式で株式投資の基礎を学ぶ内容です。


「2000億円超を運用した伝説のファンドマネジャーの株トレ」
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トヨタ「買い」継続、底力感じる決算。トランプ関税への不安は残る(窪田真之)
「株トレ」 シリーズ2点

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2025年4月3日: 日本に相互関税24%。自動車関税の影響:楽観論と悲観論(窪田真之)


(窪田 真之)

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