今日は、為替ヘッジのコストについて学ぶクイズを出します。金利の高い外国国債に投資すると外貨建てで高利回りが得られますが、円高が進むと元本が目減りします。
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今日のクイズ:米ドルで為替ヘッジするコストは?
<クイズ>米ドルを1年間、為替ヘッジするコストは約何%ですか? 以下の説明を読んだ上で、正解を【1】~【3】のうちから選んでください。
【1】1~2%
【2】3~4%
【3】4~5%
Aさんは、円を米ドルに両替し、米国債に1年間投資します。1年後に、米国債を売却して、売却代金(米ドル)を円に戻します。その間、円高が進むと、投資元本が目減りするので、円高が進んでも良いように、あらかじめ為替ヘッジすることとしました。1年間のヘッジコストは約何%でしょう。
<参考:米ドルおよび円の金利(年利):2025年5月13日>

外国債券の代表的リスクは「通貨下落」
海外には金利の高い国がたくさんあります。外国債券の利回りは魅力的に見えます。
<世界各国の10年金利(10年国債利回り):2025年5月17日>

【1】為替リスク(通貨下落リスク)
相場格言で「There is no free lunch(ただのランチはない)」とあるように、高い利回りには、それに応じたリスクがあります。最も代表的なリスクが「為替リスク」です。円高になると(投資した国の通貨が日本円に対して下落すると)、投資元本が目減りします。
米ドル建ての米国国債で説明しましょう。5月13日時点で、為替レートは1ドル=約148円です。日本の個人投資家が1ドル=148円で1万ドル買い(投資額148万円)、利回り4.46%の米国10年国債に投資して償還まで持ち続けるとしましょう。
10年後も1ドル=148円のままならば、償還資金を円に戻すと、10年間年率4.46%(税金・取引コストを勘案しないベース)の運用ができたことになります。
ところが、10年後に1ドル=120円まで円高(ドル安)が進んでいたとしましょう。すると、米国債の償還資金を円に戻した時に、為替差損(償還元本の目減り)が発生します。当初148万円の投資資金を使って米国債に投資していたとすると、償還元本は120万円に目減りしています。償還差損が28万円(148万円-120万円)発生します。
【2】高金利国ほど通貨下落リスクが大きい
上記の表で「高金利国」として挙げた国は、いずれも対外負債が大きい国です。海外からたくさん借金をしているので、高い金利にしないと国債が発行できない国です。対外負債(借金)の大きい国ほど、長期金利が高く、長期的に通貨が下落するリスクが高いと言えます。
一方、日本は世界最大の対外純資産を保有し、日本の国債のほとんどを国内で調達しているので、長期金利を低く維持できています。
ちなみに、高金利国トルコの通貨、トルコリラの対円クロスレートは、以下の通り、年々大きく下落してきました。
<1トルコリラの価値(対日本円):2011年1月~2025年5月(13日)>

いくらトルコリラ建ての利回りが高くても、こんなに通貨が下落すると、投資元本が大きく減り、円建てでは損失が発生します(トルコリラは派手に暴落した極端な例です)。
この例で分かる通り、外債投資は利回りが高ければ高いほど良いというわけではありません。
米国国債やオーストラリア国債などが投資対象として良いと私は判断しています。一つの国に集中投資するのではなく、米ドルを中心に数カ国に分散投資した方が良いと思います。
「為替ヘッジ型」投資信託には追加コストがかかる
外国債券や外国株式に投資する投資信託で、「為替ヘッジ型」「為替ヘッジなし」の2種類が設定されているのを、よく見かけます。
外貨に投資する時、為替が円高になると差損が発生しますが、あらかじめ為替予約をすることで、為替が円高になっても損失が発生しないようにすることを、「為替ヘッジ」と言います。
例えば、円をドルに替えて1年間ドルで運用して、1年後に円に戻すとします。その間、円高(ドル安)が進むと、為替差損が発生します。円をドルに替えると同時に、1年後にドルを円に戻す為替予約をしておけば、円高になっても損失が発生しません(円安になっても為替差益は得られません)。
金利の高い外債に投資しながら、為替ヘッジしておけば、「円高になっても損失が拡大することがないので安心」と思い、「為替ヘッジ型」投資信託を選ぶ人がいます。そこに落とし穴があります。
為替ヘッジにはコストがかかります。けっこう大きなコストです。今日のクイズは、米ドルで為替ヘッジすると、どのくらいのコストがかかるか考えるものです。
正解:為替ヘッジのコストは…
詳しい説明は割愛しますが、米ドル・円の為替ヘッジコストは、おおむね米ドル金利と円金利の差となります。3カ月米ドルを為替ヘッジするならば、そのコストは年率約3.63%(3カ月の金利差)です。1年の為替ヘッジならば、そのコストは約3.33%(1年金利の差)です。
1年の為替予約は実際には取りにくいので、実務上は3カ月の為替ヘッジを4回つないでいって、1年間ヘッジします。そのコストは、1年間でおおむね3~4%になると予想されます。
従って、正解は、【2】3~4%です。
これは、あくまでも2025年5月13日時点の数値です。今後、米国および日本の金利が変われば、ヘッジコストも変わります。
為替ヘッジをしながら外債に投資すべき?
外国債券の利回りは高いですが、為替ヘッジして投資すると、そのコストで高利回りの魅力はほぼ失われます。外貨金利と円金利の差が、ヘッジコストとしてかかるからです。
米国の10年債の利回りは今、4.46%です。ところが、前段で説明した通り、米ドルについて為替ヘッジすると、年率3~4%のコストがかかってしまいます。米国債の高金利メリットはほぼ失われます。
今後の金利推移によって、約3カ月ごとに決まる為替ヘッジコストは変わります。高利回りメリットが残ることもありますが、マイナスになることもあり得ます。3~4%のコストがかかることを前提とすれば、残存1年の日本の国債に投資するのに近い利回り(今なら1.44%)となる可能性が高いと言えます。
ご参考までに、ドル/円為替レートのフォワードレートを以下にお示しします。詳しい解説は割愛します。為替予約に使う実際のレートです。
<ドル/円為替の、フォワードレート(1ドル当たりの円換算額):2025年5月13日18時>

後半は難解になりましたが、初心者の方は、以下の結論だけ覚えてください。
【これだけは覚えよう!】為替ヘッジすると、ヘッジコストによって海外の高金利メリットはほとんどなくなる。
(窪田 真之)