先週は米国と中国が90日間、追加関税115%引き下げに合意したことでトランプ関税に対する懸念が劇的に後退。ハイテク株を中心に米国株が大幅に上昇しました。
米中貿易戦争の一時停戦で米国株高も米国の格下げが心配!日本株は円高進行が不安要素!
先週は米中貿易交渉の大きな進展やトランプ関税発動でも米国の物価があまり上昇しなかったことから巨大IT企業を中心に米国株が大幅上昇。
機関投資家が運用指針にするS&P500種指数は前週末比5.27%高、ハイテク株を集めたナスダック総合指数は7.15%高と大きく上昇しました。
しかし、5月16日(金)、世界的な格付け会社ムーディーズ・レーティングスが米国の信用格付けを最上位の「Aaa(トリプルA相当)」から「Aa1(ダブルA相当)」に引き下げました。
米国政府の財政赤字拡大がその理由です。
これを受けて16日の取引時間終了後、S&P500は先物市場で急落、為替市場でも145円60銭台までドル安/円高が進みました。
4月中旬以来、トランプ関税に対する楽観論で日米ともに株価が急反発しているだけに、今週はこの米国格下げの悪影響でこれまでの上昇相場が停滞する可能性もありそうです。
一方、先週の日経平均株価(225種)は前週末比250円(0.7%)高の3万7,753円で5週連続の上昇となりましたが、上昇の勢いは一服しました。
先週は12日(月)に米中両国が今後90日間、115%ずつ追加関税を引き下げることで合意したと発表。
世界貿易の停滞が緩和されることを期待して 商船三井(9104) が前週末比12.5%上昇するなど、海運株が週間の業種別上昇率1位になりました。
一方、トランプ大統領が事前予告していた「地球を揺るがす重大発表」が単に米国の薬価の大幅引き下げに対する大統領令だったことを受け、医薬品セクターが週間の業種別下落率最下位に。
画期的な肥満症経口薬の開発で4月に株価が急騰した 中外製薬(4519) が8.4%安となりました。
また米中貿易交渉進展を好感して148円60銭台まで進んだ円安が米国内の物価高沈静化で一時144円90銭台まで円高方向に振れたことで自動車株も下落。
今期2026年3月期の70%減益予想を発表した ホンダ(本田技研工業:7267) が5.2%安となるなど振るいませんでした。
今週は20日(火)~22日(木)にカナダでG7(主要7カ国)財務相・中央銀行総裁会議が開かれます。
この席でトランプ関税についてどんな議論が行われるか、また米国ベッセント財務長官と日本の加藤勝信財務相が会談し、ドル安円高誘導による米国の貿易赤字軽減について話し合うかどうかなどに注目が集まりそうです。
さらに、日本の赤沢亮正経済財政・再生相も週後半に訪米して3回目となる日米関税交渉を行う見込みです。
米国では22日(木)、前回3月に大幅に落ち込んだ4月の中古住宅販売件数、23日(金)に4月新築住宅販売件数などが発表されるだけで、大きな経済指標の発表はありません。
日本企業の2025年3月期決算発表もピークを終えているため、G7や日米関税交渉の行方を見守って株式市場が横ばい推移する展開になるかもしれません。
日経平均は19(月)、始値3万7,572円と前営業日終値の181円安でスタート。終値は3万7,498円と4日続落の形となりました。
先週:米国ハイテク株や日本の中国関連株、銀行株が上昇。日本の長期金利の急上昇が心配?
先週は5月10日(土)~11日(日)に行われた米中貿易交渉で双方の追加関税が115%も引き下げられました。
これを受けて、米国トランプ政権が強硬な関税政策に関して今後も譲歩を重ね、事実上、撤回もしくは骨抜きにするのではないかという期待感から株式市場が一気に活気づきました。
米国では中国向け半導体輸出規制で株価が下落していた人工知能(AI)関連の主力株・ エヌビディア(NVDA) が前週末比16.1%も急騰。
13日(火)発表の米国の4月消費者物価指数(CPI)が前年同月比2.3%の上昇と予想を下回り、15日(木)の4月卸売物価指数(PPI)も前年同月比2.4%上昇、前月比では0.5%下落と予想を大幅に低下。
トランプ関税の悪影響がまだ出ていないことも好感されました。
日本では米中の貿易摩擦が劇的に緩和したことで、米中間のコンテナ輸送が収益源の海運株のほか、中国向け工作機械販売が収益源の機械株が上昇。
産業用ロボット大手の 安川電機(6506) が前週末比11.4%高、 ファナック(6954) が5.5%高と中国関連株に見直し買いが入りました。
米国のハイテク株上昇を受けて、半導体研磨装置の ディスコ(6146) が13.3%高、米国エヌビディア向け販売が多い半導体検査装置の アドバンテスト(6857) が8.6%高と半導体株も続伸しました。
また、米中貿易戦争の緩和で世界経済の先行き不安が減少したことで日本銀行が2025年内の早期利上げに踏み切るのではないかという臆測も浮上。
日本の長期金利の指標となる10年国債の利回りが1.38%台から1.44%高まで急上昇しました。
これを受けて金利上昇が収益源になる銀行株も上昇し、15日(木)に今期2026年3月期の増益・増配予想を発表した 三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306) は7.5%高と続伸しました。
ただ、日本の国債市場では30年国債の金利が実に25年ぶりの水準となる3%の大台に迫るほど超長期国債の金利が急上昇。
日本銀行が金融引き締め政策の一環として日本国債の買い入れ金額を抑制していることや7月に予定される参議院選挙を前に日本の財政悪化につながる減税の議論が活発化していることが背景にあるようです。
こうした長期金利の上昇を受け、主力の 三井不動産(8801) が5.1%安となるなど、借入金が多い不動産株が下落しました。
長期金利の急激な上昇は円高の進行や借入金の多い企業の業績不安につながるため、今後も警戒が必要でしょう。
個別銘柄では、13日(火)に今期2026年3月期の営業利益が2.5倍になる予想を発表した液晶ディスプレー製造装置メーカーの ブイ・テクノロジー(7717) が42.0%高と急騰。
石炭事業から撤退し、生活消費財や産業用製品事業への投資会社に変貌中の 三井松島ホールディングス(1518) が今期2026年3月期の大幅な増配と自社株買いを発表して23.8%高。
引き続き今期の好業績や手厚い株主還元を発表した企業の株が買われる展開が続きました。
一方、トランプ大統領の米国内の薬価大幅引き下げを受けて医薬品セクターが続落。
今期の経常利益が20%減益となる見通しを表明した漢方薬の ツムラ(4540) が16.8%も急落しました。
今週:日米関税交渉での自動車25%関税の引き下げは?米国以上に物価高の日本の今後は?
今週はトランプ大統領が就任して以降、初めてとなるG7財務相・中央銀行総裁会議が20日(火)からカナダで始まります。
トランプ関税を巡る米国と日本や欧州連合(EU)の交渉の行方が株式相場に大きな影響を与えそうです。
日米関税交渉に関しては、先週、米国と韓国が為替政策について協議していることが明らかになったことで今後、ドル安・円高誘導が交渉の中心課題になるのではないかという観測も浮上。
今週も円高の進行が、米国の自動車に対する25%関税の引き下げ交渉が難航している自動車株などの足を引っ張りそうです。
逆に円高メリット株といわれる「業務スーパー」の 神戸物産(3038) や格安衣料品チェーンの しまむら(8227) に注目が集まるかもしれません。
米国トランプ政権は対中国との貿易戦争では劇的な譲歩に踏み切りましたが、トランプ氏の大統領選勝利に貢献したのは米国中西部の自動車・鉄鋼産業に従事する白人労働者といわれています。
自動車や鉄鋼にかけた25%関税については米国にとって譲れない一線。
今週予定される日米関税交渉で再びトランプ関税に対する懸念が広がる可能性もありそうです。
また23日(金)には日本の4月CPIも発表されます。
変動の激しい生鮮食品を除くコアCPIは前月同月比3.5%まで伸び率が拡大する予想。
いまや日本では米国以上に物価高が進んでいます。
にもかかわらず、政策金利は0.5%に過ぎず、銀行に預金していると前年比3%を超える物価上昇でお金の価値がどんどん目減りしていく状況です。
だからこそ、単なる預金ではなく、株式投資などインフレに強い資産運用が必要になるわけですが、国内の物価高を抑え込むためには日銀の利上げや輸入品の価格下落につながる円高誘導が必要になります。
いずれも日本株にとっては逆風となるため、今後も物価高の推移には注意が必要でしょう。
その一方で、先週16日(金)発表の日本の2025年1-3月期の実質国内総生産(GDP)は前期比年率0.7%の減少となっており、景気後退と物価高が同時進行するスタグフレーションの状況に陥っています。
カナダのG7に出席する植田和男日銀総裁や日銀高官が国内の物価高や長期金利の上昇についてどんな発言をするかが注目されそうです。
日本企業の2026年3月期決算は20日(火)の 東京海上ホールディングス(8766) など損保会社の発表で終了。
今週は日米関税交渉など外交や政治によって揺れ動く1週間になりそうです。
(トウシル編集チーム)