米中貿易協議進展でドル/円は一時上昇も、米CPI下振れや日米為替協議への警戒感で下落。その後、インフレ期待の高まりで反発するも、米国債格下げで再び下落。
為替協議と米国債の格下げで揺れるドル/円。6月相場も不安定は続く?
先週は、米中関税協議の結果、米中双方が関税を引き下げたことから、貿易対立の緩和期待で株やドルは上昇し、ドル/円は12日には148円台半ばへの円安となりました。
しかし、13日には加藤勝信財務相の「来週の財務相・中央銀行総裁会議(G7)で、米国との為替協議を検討している」との発言を受けた円安是正議論への警戒や、前月値も予想も下回った米4月消費者物価指数(CPI)(前年比+2.3%)によって148円割れに下落しました。結局、米中関税引き下げによる対立緩和で上昇した分は元に戻った格好となりました。
その後、16日(金)の米5月ミシガン大学消費者信頼感指数が50.8と前月値も予想も下回り、過去2番目に低い水準まで落ち込みましたが、一方で、1年先のインフレ期待が7.3%と1981年11月以来の高水準となったことからドル/円は146円台に上昇しました。
しかし、引け間際に米格付け会社ムーディーズによる米国債の格下げ(Aaa→Aa1)が発表され、145円台の円高となりました。週末のクローズ間際であったことから売りも限定的でしたが、上値の重たい状況で先週を終えました。
今週明け早朝には格下げの影響でドル/円は144円台後半に下落しました。そして欧米市場の格下げによる米国のトリプル安が懸念されましたが、大きな下落はなかったことからドル/円も急激な円高にはなりませんでした。
米国債の格下げは大手の格付け会社がすでに格下げしていたことから、米格付け会社ムーディーズによる米国債の格下げは時間の問題とされていたため、今回の発表は短期的には消化したようです。
トランプ大統領は5月26日のメモリアルデーの祝日までに法案を通したい意向のようですが、共和党内の足並みは乱れているようです。トランプ大統領は遅くとも7月4日の米国独立記念日までに成果を上げたい気持ちが強いようです。
しかし、減税法案や債務上限引き上げ法案が可決されても、規模や財源を含めた内容によっては米国財政悪化懸念が強まることも予想されます。また、相互関税の90日間停止の期限である7月9日も控えていることから、7月4日が近づくにつれて関税交渉も強まることが予想されます。
トランプ関税引き上げによって世界経済は混乱し、トランプ政権への経済運営への不信感が強まりました。そして米国経済のスタグフレーション懸念(景気後退と物価上昇)が今後発表される経済指標によって現実の動きになっていけば、その懸念は米国財政悪化懸念や関税交渉によって増幅され、6月の相場のかく乱材料になることが予想されるため注意が必要です。
円安是正はどうなる?今週のG7、日米協議に警戒
今週最も警戒されるのは、G7や日米財務相会談、日米貿易協議で米国から円安是正が要請されるのかどうかという点です。20日からのG7開催中に予定される日米財務相会談でどのような為替協議になるのか警戒が高まっています。
20日も加藤財務相が今週の日米財務相会議で「為替を含め2カ国間の諸問題を議論する」と述べると円高に動きました。日米会談まではドルの上値は重たい状況が続きそうです。
為替が協議されても大きく円安是正を求める内容でなければ、日米会談後、ドル/円の円買い圧力は減退することが予想されます。
ベッセント財務長官は参加しないとのことですが、この協議でも為替が議題になるのではないかとの思惑が交錯し、日米財務相会談が終わっても24日の通商会議が終わるまではドル/円の上値を抑えることが予想されます。
先週、台湾政府高官が「米国との貿易協議には、為替は含まれていない」と発言しました。さらに鄭仁教(チョン・インギョ)・韓国通商交渉本部長も「グリア米通商代表部(USTR)代表との協議で為替は取り上げられなかった」と述べるなど、日本とともにドル高・自国通貨安是正が要請される懸念があった台湾・韓国両国が、為替協議はなかったと否定しました。
そのため日米通商協議でも為替は議題にならないだろうとの見方もありますが、市場はこの懸念が払拭(ふっしょく)されるまでは安心して円売りには行かないことが予想されます。
21日、「イスラエルがイランの核施設攻撃を計画している」と報じられたことで、リスク回避の円買いがみられ、144円前半へ円高となりました。ドルの上値の重い地合いの中でこのような中東の地政学的リスクが高まるニュースが流れると、円高に行きやすい動きとなりました。
円高の持続性があるかどうかは続報によって推測なのか事実なのかどうかを見極めてからの動きとなりそうですが、中東の地政学的リスクが高まる可能性があることには留意しておく必要がありそうです。
当面のドル/円は145円を挟んだ展開が続きそうですが、日米財務相会談や日米貿易協議が終えた後も円安への戻りが鈍い場合は、145~150円のレンジに戻るのではなく、140~145円のレンジに入っていくシナリオも選択肢に入れておいた方がよいかもしれません。
足元では、米長期金利が上昇してもドル高にならない動きになってきています。くすぶる米国の財政悪化懸念がドル自体の上値を重くしていく可能性がある点にも留意しておく必要がありそうです。
(ハッサク)