米国トリプル安の不安から日経平均が下がる中、日本製鉄による米USスチール買収をトランプ大統領が承認する方針という朗報が。日米関係の新たな展開と、今後の投資戦略のヒントを解説する。
日経平均反落、米トリプル安を嫌気
先週(営業日5月19~23日)の日経平均株価は、1週間で593円下落して3万7,160円となりました。13日には一時3万8,494円まで上昇して、トランプ関税ショック前のレンジ(3万8,000~4万円)を回復しましたが、26週移動平均線に打ち返されて、反落した形となりました。
米国で長期金利が上昇、トリプル安【注】が再燃したことから、日経平均も売られました。
【注】米国のトリプル安
米国株安・米ドル安(円高)・米国債下落(米国長期金利上昇)の三つが起こること。米国からマネーが流出する、米国売りの象徴とみられる。
日経平均週足:2024年1月4日~2025年5月16日

トランプ関税に緩和の兆しが出ていることが、日経平均および世界的な株の反発につながりました。しかし足元、上昇ピッチが速すぎることに警戒が出ている中、日本や米国で、長期金利(10年金利)、超長期金利(20年・30年金利)の上昇も目立つようになり、金利上昇を嫌気して株が反落しました。
日米の長期(10年)金利と超長期(30年)金利推移:2019年末~2025年5月23日

トランプ関税への不安は続くものの、緩和に向かう傾向もあり、世界不況は回避されるとみています。しばらく、日経平均はスピード調整局面になりそうですが、ここは押し目買いの好機となると思います。
日本製鉄によるUSスチール買収をトランプ大統領が承認へ
先週末に、グッドニュースが飛び出しました。トランプ大統領は23日、SNSを通じて 日本製鉄(5401) による米 USスチール(X) 買収を認める方針を伝えました。日本製鉄が目指している「100%買収」が認められるかどうかはまだ分かりませんが、買収に向けて大きく前進したことは間違いありません。
買収が実現すると、日本製鉄だけでなく、 トヨタ(トヨタ自動車:7203) ・ ホンダ(本田技研工業:7267) にとっても、以下のような大きなメリットがあります。
【1】日本製鉄にとって、成長市場である米国へのアクセスを得るメリットは、極めて大きい。日本製鉄は技術力で世界トップだが、国内市場は飽和、アジアは競争が激しくて、成長戦略が曲がり角となっている。技術力を生かした高級鋼で、米国で新たな成長を見込めるようになる。
【2】米国生産比率が高まり、米国の「鉄鋼・アルミニウム関税」を一部回避できるメリットも大きい。関税の影響を大きく受ける中国・韓国メーカー対比でも優位。また、トヨタなど日本の自動車メーカーも、日本製鉄から購入している高級鋼を米国から調達できると、自動車関税を軽減するのに役立つ。
また、日本製鉄による米国投資を、トランプ政権の関税政策の成果としてアピールできるようになれば、残る日米関税交渉へも良い影響が期待されます。
トランプ大統領は、世界各国に対して、米国への輸出を減らすこと、米国への投資・現地生産を増やすことを求めて関税交渉を行っています。日本製鉄によるUSスチール買収はまさにその要求に応えるもので、実現が望まれていました。トランプ大統領は、大統領選において「USスチール買収を阻止する」と表明していましたが、方針転換となる見込みです。
鉄鋼・アルミニウム関税を導入した後も、米国鉄鋼業の業績は不振で、「関税だけで再生することが難しい」と理解した可能性もあります。日本製鉄が「USスチールの設備を刷新し、高級鋼材の技術を導入して、リストラなしに再生する」と約束していることを評価したと考えられます。
また、日本製鉄が米国に2兆円もの巨額投資を約束していることから、関税政策の効果としてアピールしたい狙いもあると思われます。
このように、トランプ関税は、短期的に日本の企業業績にダメージを与えますが、日本企業はコストカットや米国生産比率を高めることで、中長期的に関税ショックを克服して、成長していくと考えています。
日本株は目先、スピード調整が予想されるものの、押し目買い方針で臨みたいと思います。
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(窪田 真之)