株式をそのまま贈与・相続した場合と、売却して現金化してから贈与・相続した場合とで受け取る側の手残りが異なる。有意義に金融商品を相続するならどうするべき?
高齢者は株式を生前に整理しておいた方がよい?
筆者は税理士として、相続税申告業務や相続の生前対策なども数多く行っていますが、ご高齢になればなるほど、財産の中に株式や投資信託などの金融商品をお持ちの方が多いという印象を持っています。
よく相続コンサルタントの方が「株は生前に売却して整理しておいた方がよい」という話をしているようですが、これは確かに一理あります。
なぜなら、ご高齢になってからの株取引はやはり大変になってきますし、もし認知症となったら法律行為が無効になりますので、売買ができなくなってしまう恐れがあるからです。
そうであれば、「生前に株式や投資信託といった金融商品は売却してキャッシュにしておいた方が安心」という考え方もあります。
ただ、税金面を考えると、また違った考え方が出てきます。
株式は、売却タイミングによって課税対象が変わる!
財産を子供など次世代に渡すときの方法としては、大きく「譲渡(売買)」、「贈与」、「相続」の三つがあります。
そしてそれぞれにおいて、「譲渡所得税」、「贈与税」、「相続税」という異なる税金がかかることが、話をややこしくしているのです。
最終的に換金を考えた場合、おそらく子供に株式や投資信託を譲渡(=売却)するケースはまれなので、パターンとしては
(1)本人が株を売却→売却後のキャッシュを贈与または相続
(2)株のまま贈与または相続→子供が株を売却してキャッシュ化
の2パターンになります。この2パターンにおいて、誰にどのような課税が生じるかお分かりでしょうか?
(1)は、本人に譲渡所得税、子供に贈与税もしくは相続税
(2)は、子供に贈与税もしくは相続税、譲渡所得税
つまり、(2)の、株のまま贈与または相続した場合は、受け取った子供に全ての税金がかかってくることになります。
事例1・含み益のある株の場合
話を単純化するために、贈与税と相続税は30%の税率、譲渡所得税は20%の税率で課税されるとします。
もしご本人が時価3,000万円の株を持っていて、取得価額が1,000万円だったとしましょう。時価は3,000万円のまま変わらないとします。
これを(1)のケース、(2)のケースそれぞれに当てはめると、子供はいくらの手残りになるでしょうか。
(1)株の売却時:利益2,000万円×20%=400万円
→現金化した金額:3,000万円-400万円=2,600万円
相続もしくは贈与後の手残り現金:2,600万円×(1-30%=780万円)=1,820万円
(2)株の贈与もしくは相続時の税額:3,000万円×30%=900万円
売却時:利益2,000万円×20%=400万円
贈与・相続後の手残り現金:3,000万円-900万円-400万円=1,700万円
このように、株式投資で利益が出た場合、先に株を売却した後で、キャッシュで贈与もしくは相続した方が、受け取る側の手残りが多くなります。
事例2・含み損のある株の場合
では、条件を変えて、時価3,000万円の株を持っていて、取得価額が5,000万円だったとします。その場合は下記のようになります。
(1)株の売却時:税金ゼロなので現金化した金額は3,000万円
相続もしくは贈与後の手残り現金:3,000万円×(1-30%=900万円)=2,100万円
(2)株の贈与もしくは相続時の税額:3,000万円×30%=900万円
売却時:ゼロのため譲渡所得税ゼロ
贈与・相続後の手残り現金:3,000万円-900万円=2,100万円
このように、含み損の株式を譲渡(相続)する場合は、(1)(2)の手残りは同額となりました。
もし上の条件で、子供が自身で株の売却益が1,000万円あり、贈与もしくは相続した株の売却による売却損と相殺できたとすると、(1)では手残りは2,100万円のまま変わらないものの、(2)では損益通算による200万円(1,000万円×20%)の節税効果を加味すれば実質2,300万円となります。
税金以外の面も考えた上で、納得できる方法を選ぼう
このように、株式を売却した後にキャッシュを贈与・相続するのか、それとも株式のまま贈与・相続した後に売却するのかによって、手残りの金額が変わることがお分かりいただけたでしょうか。
さらに、含み損を抱えている株を相続した場合は、相続した人が売却益や配当金を有しているのであれば、それらと実現損を相殺することで節税となり、実質的に手残りを増やすこともできます。
ただし、これらは前提条件により変わりますので、結果が上記の説明と逆転するケースも当然あります。
また、ご本人が思い入れのある株の場合、税金面の有利不利に関係なく、そのまま持っていたいと、希望されることもあると思います。
ご自身のケースに当てはめてみて、納得できる方法を選ぶように心がけましょう。
(足立 武志)