エヌビディアの2026年1月期1Q決算カンファレンスでは、エヌビディアが現在参入できない中国のAI半導体市場が今後約500億ドル規模に成長するという見通しが示された。そこで、中国の半導体市場に注目したい。
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著者の今中 能夫が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 中国のAI・半導体産業と日本の半導体製造装置メーカー(再び中国に注目したい。アドバンテスト、東京エレクトロン+エヌビディア決算の詳細) 」
毎週月曜日午後掲載
本レポートに掲載した銘柄: アドバンテスト(6857、東証プライム) 、 東京エレクトロン(8035、東証プライム) 、 エヌビディア(NVDA、NASDAQ)
1.エヌビディア2026年1月期1Q決算の詳細-「Blackwell」への生産移行がほぼ完了-
先週2025年5月29日(木)に、楽天証券ではエヌビディアの2026年1月期1Q(2025年2-4月期、以下今1Q)決算に関する決算速報を出しました。今回はまずエヌビディアの今1Q決算について詳細を報告します。そのあとで、今回の決算カンファレンスでエヌビディアが説明した中国のAI・半導体産業の将来性について概観し、関連銘柄としてアドバンテストと東京エレクトロンを取り上げます。
エヌビディアの2026年1月期1Q(2025年2-4月期、以下今1Q)は、売上高440.62億ドル(前年比69.2%増)、営業利益216.38億ドル(同28.0%増)となりました。
中国向け専用のAI用GPU「H20」に対する輸出規制が今1Qの2025年4月9日から施行されたため、今1Qは「H20」の売上高46億ドルが計上されましたが、4月9日より前に受注した注文に関連する在庫および購入義務の減損処理として45億ドルの損失を計上しました。この輸出規制の影響で、今1Qは「H20」25億ドル分を出荷できませんでした。一部の材料を再利用したため、45億ドルの損失は当初見通しよりも少なくなりました。
「H20」関連の減損により、今1Q売上総利益率は60.5%と前4Q73.0%から低下しました。この結果、営業利益は前年比28.0%増と従来よりも低い伸びとなり、前4Q比では減益となりました。
市場別売上高を見ると、データセンター向けが391.12億ドル(前年比73.3%増)と引き続き好調で、前4Q比でも増収でした。「H100」「H200」から「Blackwell」への生産体制移行がほぼ完了したため、今1Qのデータセンター向け売上高の約70%が「Blackwell」になりました。従来の「学習」に代わり「推論」需要がデータセンター向けを牽引しています。
また、「Nintendo Switch 2」の発売を控え、ゲーミングが37.63億ドル(同42.2%増)となりました。
表1 エヌビディアの業績

表2 エヌビディアの市場別売上高(四半期)

表3 エヌビディアの市場別売上高(年度)

グラフ1 エヌビディアの地域別売上高:四半期

2.今2Q会社予想と2026年1月期楽天証券業績予想-前四半期比増収率が鈍化し始めた-
従来から会社側は中国向けの「H20」売上高を四半期ベースで70~80億ドルとしていました。前4Qにこれを当てはめると、全社では、前4Qの「H20」以外が313~323億ドル、今1Qは「H20」が46億ドルなので「H20」以外は395億ドルとなります。今2Q会社側売上高ガイダンスのレンジ平均値は450億ドルでこれには「H20」は入っていません(会社側によれば、今2Q売上高ガイダンスには本来あるはずだった「H20」約80億ドルが入っていない)。「H20」を除く全社売上高を見ると、今1Qの前四半期比増収率は22.3~26.2%増と高い伸びを示していましたが、今2Q売上高ガイダンスを今1Qの「H20」以外の売上高と比較すると13.9%増となり、二桁増は維持するものの伸び率は鈍化する見込みです。
「H20」売上高を入れて考えても、四半期全社売上高は前3Q350.82億ドル、前4Q393.31億ドル、今1Q440.62億ドル、今2Q会社側ガイダンス450億ドルと、今2Qに急減速するように見えます。
中国向け以外の既存顧客向けが以前ほど伸びていないように見えます。速報でも指摘しましたが、エヌビディアの決算カンファレンスでは、自社の業績に貢献が大きかった顧客の社名を出して、その貢献を持ち上げる傾向があります。
今回の決算カンファレンスまでは、私は少なくとも今期2026年1月期は大手クラウドサービス向けが牽引して売上高、利益ともに好調と予想していました。すでに今期から既存顧客向けの伸びが前四半期比で鈍化している模様であり、性能の低い中国向け「H20」の依存度が結果的に高くなったとは想定外でした。そのため、先週の速報で書いたように、エヌビディアの2026年1月期楽天証券業績予想を下方修正しました。
一方で、新規顧客の開拓を熱心に行った結果も出ています。今3Q以降は、報道されているオラクルとの約400億ドルのAI用GPUの契約、UAEとサウジアラビアでのデータセンター案件を織り込み、前回の2027年1月期楽天証券業績予想を上方修正しました。ただし、これは各々納入したGPUに対して最終顧客が獲得できるという前提です。エヌビディア製よりもコストパフォーマンスが良い内製AI半導体(アマゾンでは内製AI半導体は汎用AI用GPUに比べてコストパフォーマンスが30~40%良いとしている)との競争や、DeepSeekのような学習、推論を効率化する開発手法が普及する可能性があるため、オラクルのAI用GPU増強や中東の新設データセンターがフル稼働になるのか、注目したいと思います。
今後6~12カ月間の目標株価は速報で設定した通り160ドルとします。
3.エヌビディアでは中国のAI半導体市場が将来約500億ドル規模に成長すると予想。
今回のエヌビディアの決算カンファレンスでは、会社側から中国のAI半導体市場が将来500億円規模に成長するという見通しが示されました。この市場規模は米国に次ぐ世界第2位の規模です。中国のAI産業が急速に成長している中でAI半導体市場も成長しており、米国の輸出規制によってエヌビディアがこの市場にAI半導体を輸出できないのは米国のテクノロジーにとって損失だ、という文脈で出てきた話です。
実際、ファーウェイは「Ascend(アセンド)」というAI半導体のシリーズを持っており、最新型でエヌビディアの「H100」に匹敵する性能を持つという「Ascend 910C」を早ければ2025年5月から量産、出荷すると報じられています。「Ascend 910C」の主要コンポーネントの一部が中国最大の半導体メーカーでありファウンドリ(半導体受託生産事業者)であるSMICの7ナノプロセスで生産される模様ですが、「Ascend 910C」全体の生産をどの半導体メーカーが生産するのか今のところ不明とも報道されています。ただし、今年後半に量産開始と報じられているより高性能の「Ascend 920」については、SMICの6ナノプロセスが採用された模様です。最近の報道では、ファーウェイ自らAI半導体の生産を行うべく、深セン市に巨大な半導体工場を建設中と報道されています。
一方で、中国はHBMの生産技術が未熟で、サムスン電子からHBMとしては古い世代の「HBM2E」を輸入していると言われています。ただし、これは輸出規制が緩いことを使ったやり方と報じられています。
このように、中国の半導体産業とAI産業は、米国の半導体輸出規制、半導体製造装置輸出規制の影響を受けながらも、成長しています。
SMICの売上高、営業利益、設備投資の推移を示したものがグラフ2~4です。新型コロナ禍前は、大きな成長はありませんでしたが、新型コロナ禍で半導体需要が増え、米国の対中国半導体輸出規制が強化されるにしたがって、波を描きながらも大きな成長を実現してきました。
グラフ2 SMICの売上高、営業利益

グラフ3 SMICの売上高、営業利益

グラフ4 SMICの設備投資

4.中国のAI・半導体産業に投資するなら、中国のハイテク系ETFか日本の半導体製造装置メーカー
中国のAI・半導体産業は、従来より高性能のAI半導体の量産が始まったことで、今後急成長が予想されます。一方で、中国のAI・半導体産業への投資には、中国ハイテク産業の中核企業であるファーウェイや新興メモリメーカーのCXMT(DRAMメーカー)、YMTC(Yangtze Memory Technologies、NANDメーカー)が未上場企業であること、ファーウェイが自社で高性能半導体の生産に乗り出す場合、今後もSMICが中国半導体の中核企業でいられるとは限らないこと等の投資の不便さと不透明要因があります。
ただし、中国最大の半導体製造装置メーカーであるナウラ・テクノロジー・グループのように、外国人が投資する場合に制限がある深センA株のみ発行している企業でも、香港証券取引所経由でなら投資できるなど、投資する道ができています。
そこで、中国のAI・半導体産業に投資する道は3つあると思われます。
1つは、テンセント、アリババ、SMICなど中国の代表的なハイテク企業を組み入れた上場投資信託(ETF)に投資することです。
2つ目は、中国の個別銘柄への投資ですが、AI・半導体産業について見ると、急成長している分だけ産業内の市場シェアや各企業の存在感に変動があるため、米国株や日本株に比べると一定のリスクがあると思われます。
3つ目は、中国への輸出が多い日本の半導体製造装置メーカーへの投資です。ここでは、アドバンテストと東京エレクトロンを取り上げます。
アドバンテスト
1)中国向けが堅調に推移
表6はアドバンテストの地域別売上高です。中国向けを見ると、他の国向けと異なり堅調に推移していることがわかります。比較的高性能のSoCテスタが堅調に売れている模様ですが、高性能AI半導体の量産に備えて中国の半導体メーカーがテスト能力を拡大している可能性があります。エヌビディア製GPUの大半がアドバンテスト製SoCテスタでテストされていると言われています。中国にもテスタメーカーはありますが、ローエンドテスタしか生産できません。
HBMについて見ると、CXMTがHBMの研究開発を進めていると思われますが、CXMTが現在生産しているHBM2の1世代後のHBM2Eの量産が可能になるとファーウェイのAI半導体に搭載できるようになります。また、AIサーバーは従来型の非AIサーバーに比べメインメモリ(DRAM)を大量に搭載します。このため、今後はメモリテスタの中国向けも増えると思われます。
表4 アドバンテストの業績

表5 アドバンテストの事業セグメント別売上高

表6 アドバンテストの地域別売上高

表7 アドバンテストの事業別売上高

2)エヌビディア製GPU向けSoCテスタの性能向上続く。楽天証券の今期、来期業績予想を上方修正する。
エヌビディアの2026年1月期1Q決算が出たことで、AI半導体売上高の前四半期比伸び率は鈍化し始めているものの、前年比では二桁増が続いていることが確認できました。また、今年後半から量産開始予定の「Blackwell Ultra」向けSoCテスタの出荷が始まっている模様です。今年年末から来年初頭には、2026年後半に量産に入る計画の「Rubin」向けSoCテスタの出荷が始まると予想されます。
このように考えて、アドバンテストの2026年3月期、2027年3月期業績予想を上方修正します。2026年3月期を売上高8,300億円(前年比6.5%増)、営業利益2,750億円(同20.5%増)、2027年3月期を売上高8,900億円(同7.2%増)、営業利益3,100億円(同12.7%増)と予想します。
3)今後6~12カ月間の目標株価を前回の8,000円から9,400円に引き上げる。
アドバンテストの今後6~12カ月間の目標株価は、前回の8,000円から9,400円に引き上げます。
楽天証券の2027年3月期予想1株当たり利益(EPS)313.2円に、今の2026年3月期会社予想に対する評価である株価収益率(PER)30倍を当てはめました。この株価が実現すると高いプレミアムが付くことになりますが、中国のAI半導体生産が急拡大すると、アドバンテストの業績拡大への期待も大きくなると思われます。
リスクは輸出規制です。今は対中国半導体製造装置輸出規制の中にテスタは含まれていませんが、今後規制される可能性が皆無とは言えない可能性もあります。ただし、テスタメーカーは顧客が何の半導体のテストにそのテスタを使っているのか、わかっていないケースも多いため、むやみにテスタ輸出を規制するとサプライチェーンが混乱しかねません。今のところは規制が導入される可能性は低いと思われます。
中長期で投資妙味を感じます。
東京エレクトロン
1)中国向けが意外に減らない可能性がある
東京エレクトロンでは過去2年間中国向けが大きく伸びました。これは東京エレクトロンだけでなく、アプライド・マテリアルズ、ラム・リサーチの前工程装置、ASMLホールディングのEUV露光装置以外の露光装置も中国向けに大きく増加しました。米国の対中国半導体製造装置輸出規制があるため、前工程装置では20ナノ台まで、露光装置ではEUV露光装置以外のArF液浸露光装置等の1世代以上前の露光装置の中国向けが活発でした。
これらの製造装置と中国の半導体製造装置メーカーの装置を使い、中国の半導体メーカーは一桁ナノ台の先端半導体の量産に成功したと言っています。実際に、ArF液浸露光装置でもマルチパターニング(複数回シリコンウェハに回路を描き込む)を行えば、生産コストは増えますが、一桁ナノ台の生産は可能です。
中国半導体産業の今の焦点は、AI半導体です。DeepSeekが登場してから、中国のAI産業が盛り上がっていますが、米国の対中国半導体輸出規制が順次強化されているため、エヌビディア製AI半導体は入手できなくなっています。
そこで、ファーウェイ中心にAI半導体の生産が盛んになっています。また、DRAM大手のCXMTがHBM2の量産に入っています。困難はあると思われますが、HBM2Eへいずれは移行すると思われます。そうなれば、不完全ながらもHBMの自給が可能になります。
表8 東京エレクトロンの業績

表9 東京エレクトロン:半導体製造装置の地域別売上高

表10 中国向け売上高

表11 半導体製造装置のアプリケーション別売上構成比と売上高(新規装置のみ)(年度ベース)

2)楽天証券の今期、来期業績予想を上方修正する。
東京エレクトロンでは、今期2026年3月期には中国向けは減少するとしていますが、中国向けの成熟半導体向けではなく、メモリ向け(主にDRAM向け)がHBM量産のため、AIサーバーに搭載するDRAMの量産強化のために設備投資を続ける必要があると思われるため、大きく減らない可能性があります。来期2027年3月期になれば、中国のAI半導体生産とHBM生産が一層活発になると予想されるため、中国向けが再び増加に転じる可能性もあります。
このような考え方から、楽天証券では東京エレクトロンの2026年3月期、2027年3月期業績予想を上方修正します。2026年3月期を売上高2兆6,500億円(前年比9.0%増)、営業利益7,450億円(同6.8%増)、2027年3月期を売上高3兆円(同13.2%増)、営業利益8,600億円(同15.4%増)と予想します。
3)今後6~12カ月間の目標株価を前回の2万6,000円から2万9,000円に引き上げる。
今後6~12カ月間の東京エレクトロンの目標株価を、前回の2万6,000円から2万9,000円に引き上げます。
楽天証券の2027年3月期予想EPS1,460.3円に、今後の成長性とリスクの両方を考慮して想定PER20倍を当てはめました。リスクは、米国の対中国半導体製造装置輸出規制の強化、マクロ経済的リスクとしての米国の関税政策等ですが、これらのリスクについては注意するしかありません。
今の20倍割れのPERには割安感があります。中長期で投資妙味を感じます。
本レポートに掲載した銘柄: アドバンテスト(6857、東証プライム) 、 東京エレクトロン(8035、東証プライム) 、 エヌビディア(NVDA、NASDAQ)
(今中 能夫)